とことん「本質追求」コラム第649話 未来をつくる営業

「当社は直販セールスを行わず、商社を経由して販売する方針を採用しています。かつては新商材を発売すると商社も積極的に動いてくれましたが、最近は動いていないのか、売れていないのかー。まったく把握できず、対応に苦慮するケースが増えています」

ここ数年で同様のご相談をいただくことが非常に多くなりました。

5,000社を超える企業を指導し、多くの赤字企業を再建してきた「社長専門のコンサルタント」として知られる一倉定先生は、「販売という“難行苦行”に耐えなければならない」と説き、直販セールスを強く推奨していました。

私もその意見に強く同意します。
とはいえ、商社経由の販売手法を完全に否定すべきだとは考えていません。

むしろ、商社の持つ販路や顧客基盤を活用することで、圧倒的なスピードで市場展開が可能になりますし、商材によっては物流や在庫といった負担リスクを回避できるというメリットもあります。

問題なのは、前述のご相談にもあるように、「販売状況が芳しくない場合、商社が動いていないのか、それとも商品自体が売れていないのか」が正確にファクトを掌握できないという点です。

商社に尋ねても、実際には動いていなくても「動いています」と言われる可能性がありますし、適切な提案ができていないにもかかわらず、「思うように売れない」と報告されることもあるでしょう。

このように、相手の“解釈”の上でしか判断できない状態は、経営判断における重大な盲点となります。

つまり、「営業活動が行われているのか」「実際に売れているのか」といったファクトがブラックボックス化し、自社が打つべき次の一手を見誤るリスクを孕んでいるのです。

これは営業部門に限らず、経営全体が“統制不能状態”に陥っているとも言えます。

商社に全面的に依存した結果、現場の声も、販売の実態も、競合との比較も見えなくなり、視界不良の中を飛ぶ飛行機のように「何となく飛んでいる」だけで、実際には高度を下げ続けている──
そんなリスクに気づかなければなりません。

だからこそ、大切なのは「市場の反応をファクト(事実)ベースで掴む」ことです。

そもそも商品やサービスは、顧客の「課題」や「問題」を解決するために存在しています。

したがって、「売れる・売れない」といった感情的な評価の前に、「我々の商品は、顧客の課題を本当に解決できているのか?」という論理的な評価、すなわちファクトを明確に把握する必要があります。

たとえ新商品の売上が思わしくなかったとしても、現場で「導入後に作業時間が30%削減された」「これまで対応できなかった仕様に対応可能になった」といった改善の事実が確認できれば、その商品には“売れるポテンシャル”があると判断できます。

逆に、売れない理由を検証せず、感覚的に「この商品はダメだ」と決めつけてしまえば、根本的な改善策や展開戦略を誤る恐れがあります。

「顧客の課題とどれだけフィットしているか」
「導入前と導入後でどんな成果や変化があったか」
「競合商品や代替案と比べて、どのような優位性があるか」

これらを客観的に評価し、顧客に経済的メリットをもたらす“解決策を持った商品”であり、なおかつ投資回収が可能な水準であれば──むしろ買わない理由が見当たらないという結論になるはずです。

こうしたレベルまでファクトを煮詰めて商品を企画する文化は、正直なところ、まだ多くの中小企業には根付いていません。

とはいえ、少なくとも「販売後」であっても構いません。

「我々の商品は、どの程度の経済的ベネフィットを顧客に提供できているか?」という事実は、意識的に掴みにいく必要があります。

その手段として、想定される見込み顧客に対して接触を試み、こう聞いてみるのです。
「我々は、このような仮説に基づいて商品を開発しました。御社にとって、この仮説はフィットしますか?」と。

もしフィットしているのであれば、あとは説得力ある提案を行うだけです。
営業が先に立つのではなく、まず“顧客利益の確定”を行うこと。
この順序を守るだけで、販売は驚くほどスムーズに進むのです。

営業が先ではなく、顧客利益の確定を先にーここが非常に重要なポイントです。

商社にはさまざまな体質があり、顧客からの見え方も一様ではありませんが、くの場合、商社は「販売を担当する人」として認識されているのが一般的です。

つまり、顧客から見れば「営業が先に立っている存在」なのです。
そのため、商社がヒアリングを行おうとすると、相手は「弱みを見せてはいけない」と警戒し、身構えてしまいます。
結果として、情報提供を渋られたり、事実を歪曲されたりする可能性すら出てきます。

しかも、問題はそれだけにとどまりません。

商社が「売る人」として見られているがゆえに、「この商品について見積もりを取ってきてほしい」と、まるで“使い走り”のように扱われるケースが目立つようになってきています。
この背景には、インターネットの普及があります。

顧客自身が解決したい課題を検索すれば、それに対応する商品やサービスが簡単に見つかる時代です。

つまり、「提案主体の商社が主導権を持つ営業」から「顧客の主体の受け身型営業」の色合いが強まっているのです
その結果、商社は情報収集やメーカーとの折衝に追われ、提案活動に割ける時間や余力を失っているのが実情です。

このような「現状」と「課題」を正しく認識すれば、取るべき対策はおのずと絞られてきます。

まず、メーカーが取り組むべきは、顧客と情報を交換できる環境を整えること。
そして、価値ある提案を顧客に直接届ける仕組みを構築することです。

一言で言えば、「市場・顧客との対話を通じて、未来をつくる営業体制」の確立に他なりません。

この仕組みさえ整えば、販売の実行主体が誰であっても問題はありません。
直販であれ、商社・代理店経由であれ、成果につながる営業が実現できるのです。

一倉定先生の言葉を借りれば、「市場との対話という難行苦行を続けることこそが、持続的な成長の源泉となる」のです。

御社は、「市場・顧客と対話を通じた、未来をつくる営業体制」を意識的に構築していますか?