とことん「本質追求」コラム第174話 新商品(新しい価値)の市場評価の摑み方

 

 

「新規事業の立ち上げを考えています。ウチは技術職ばかりで営業をしたことが無い人間ばかりなので…営業のお手伝いを頂けないでしょうか?」

 

藤冨がお手伝いしている企業さんを振り返ると、おおよそ8割は理系出身の社長さんだったり、技術をウリにしている企業さんのどちらかになります。

テレアポや飛び込み営業をバンバンやっていて、体育会系の営業部長がいるところをお手伝いするのは、皆無に等しいのが現実。

 

個人的な好みとしても、どこにでもあるような商品を、力技で売る事には、あまり興味がありません。

 

世の中にない商品、価値は十分あるのに一部の人にしか使われていない商品だと、どのような業界であれ興奮してきます。

 

「これが世の中に普及していったら、面白いぞ!」と。

 

しかし、いくら興味がある…と言っても、冒頭のご質問に対して、そのままお応えすることは出来ません。

単純に営業を代行してほしいのであれば、そのような専門会社(営業代行業)は山ほどあるので、何も日本アイ・オー・シーに依頼する必要もありません。

 

だからと言って「ウチは営業代行はやっていないので、他をご紹介しましょうか…」と営業代行の会社を推薦する気にもなれません。

 

なぜなら、製造業としての本質から、外れるリスクの高い意思決定だからです。

 

と言うのも、営業代行会社の本質は、ある一部を除いて「キャッシュの創出」が事業目的になっています。

しかし、メーカーは「価値の創出」をし続けることが、製造業として生き残る命綱であるはずです。

 

「価値」を正しく捉え、価格に置き換え、顧客に買ってもらい利益を得て、その元手で、また新しい価値を生み出していく…

 

このループを絶やさないことが、製造業が製造業であり続けるための条件となるハズです。

そんなことは釈迦に説法だと思います。

しかし、あえて申し上げるのは、営業を気軽に他社に依頼してしまう行為そのものが、「価値」と真摯に向き合う行為そのものを無意識にさけてしまっているからなのです。

 

「価値」は、コミュニケーションの中からでしか、発見できません。

 

想定価値という言葉がありますが、それは製造業が企画・開発段階で描いた「仮想の価値」です。

 

もちろん、企画したそのままで市場から受け入れてもらえる事もあります。

でも大抵の場合は、若干のズレが生じていたりするものです。

 

もしズレていたら、価値を再考し、コンセプトをブラッシュアップし、製品レベルでの改修が必要あらば、それも手掛けて改めて出直す必要があります。

 

これをせずに、目の前のお客様だけ、売る事を考えていても、一過性で終わってしまうためです。

 

新規商品を担いで、想定ターゲットに出向き、どのような価値をどのように伝えれば、購買意欲が喚起できるのか…。

このテスト営業と、営業アプローチの適格性評価は、製造業の新規開拓で、とても重要な位置づけになります。

 

新規で飛び込む経験がないと「それはムリ…」という方もいるので、プロジェクトを組んだクライアントさんにだけは、同行することがありますが、同行した社長さんや技術責任者の方は、「あれ、こんなに簡単なの?」と拍子抜けされる方が殆どです。

 

なぜでしょうか…。

それは売り込みに行っているのではなく、市場性評価という名目でアプローチするため、意外にも相手は心を開いてくれるためです。

 

提案している「価値」に対して実直に評価をしてくれるので、企画段階からの仮説検証にもなり、技術系の方々は目が爛爛になっていきます。

 

「人見知りするので…」「営業は苦手で…」という人でも、自社商品の価値に対するディスカッションになると、とたんに饒舌になる人がほとんどなのです。

 

たしかに…それはそうかも知れないけど、最初のキッカケが難しいですよね…どう話しかけたら良いのか、それさえも分かりません。

 

という方もいらっしゃると思いますが、以下の3つのポイントを意識して、「売る」のではなく、「新しい価値を感想を聞きに行く…」というつもりで商談すれば、かなりハードルがさがるハズです。

 

その3つのポイントとは…

1つ目が「前提条件」の明確化です。

人や企業が価値感を見い出す時は、ある一定の条件に立たされているものです。

・  年老いた親を車に乗せる時に、四苦八苦している場面があったり。

・  本をコピーするときに、微妙にズレたり、何十ページも印刷するのが面倒な場面があったり…

と、新商品が生まれてくる背景には、その新商品をほしくなるような「前提条件」があるはずです。
商品を企画するときは、意識的、無意識に関わらず前提条件をつくりだしているはずです。なので、その前提条件の認識がズレていないか聞いてみるのです。

 

2つ目が「インプット」です。

ある前提条件がある場合、何かのインプットをすると状態が変わりことがあります。
ここで言うインプットが「新商品」になります。
ある前提条件に置かれた人が、その新商品をを受け入れることで、状態が変わることをイメージ化させてみてください。

・  車いすから、楽に移動できる介助装置というインプットであったり、

・  本をめくりながら複写してくれるコピー機だったり…
新商品のコンセプトが受け入れられるか否か、他に魅力的なインプットがあるのか…など市場の状態が垣間みれてきます。

この段階で、コンセプトのズレや商品の見直しなどの必要性が分かってきます。

また、大きな方向性として魅力的かも…と評価された場合、その価値が誰にとって一番魅力的か…も見えてきます。

インプットによって、得られる価値は、ターゲットが変われば180度変わる為です。

そのため、最後の3つ目のチェックポイントが「結果」となります。

その価値が誰にとって一番魅力的か…ターゲティングを間違えると、売れるものも売れなかったり、価値を過小評価され値切られたりします。

なので、新規客の訪問先を変えながら、さらに仮説検証を進めていきます。

・  介助なしで気楽に載れるタクシーへの転用だったり…

・  裁断できない希少図書のデータベース化を求められるセミナー会社や図書館であったり…

インプットを最も評価してくれそうなターゲットに「結果」をイメージさせながら、伝えていきます。


何かのインプットを受ける事で、価値ある状態変化が起き得るのであれば、それは、そのまま購買意欲へと変化していきます。

上記3つのステップで、仮説を整理すれば、的を得た検証ができます。

 

しかも面白いことに、売り込みではなくヒアリングのつもりで行っているのに、上記3つのポイントで会話をしていくと、売り込んでいないのに売れてしまうものなのです。

もちろん、コンセプトと商品から得られる「価値」が、相手のイメージとおりであれば…の話です。

従って、この3つのポイントで整理して、商品を評価してもらおう…という姿勢で新規客に対峙すれることが重要ということになります。

その価値が、すんなり市場に受け入れてもらえるか否かが分かるからです。

ヘタなマーケティング調査をやるくらいなら、躊躇せずにテスト営業をしかけた方が、よほど効果的です。

このままで、売れるのか。
どこを改修すれば、売れるのか。
ウリ先を変えた方が、いいのではないか?

肌感覚で分かってくるからです。

だからこそ、この新商品を売るという仕事…いえ「新しい価値を評価するためのコミュニケーション」を人任せにしてはいけないのです。

御社では、新商品を市場投入する際、他人任せにしてはいませんか?