とことん「本質追求」コラム第86話 ゆでガエル状態の組織に「熱湯を意識」させる

「それで営業しているつもりですか?」

とある会社で「新人営業マンが育たないので相談に乗ってほしい」と依頼を受け、社長と面談。

業界の構造や現在の各営業マンの数字の状態を教えて頂いた上で、新人営業マン5名を後日集めて頂きました。

業界が古い故に、古参社員は経験値だけで営業しており、「なぜ売れているのか」をロジカルに説明できない状態。

それでは、新人に対して的確なる教育ができるわけがありません。

したがって、まずは「売れるロジック」を浮き彫りにする必要があります。

早速、集まってもらった営業マン全員に聞きました。

「みなさん、いま手元に競合他社のパンフレットや提案書などはありますか?」

だれ一人として、目を合わせようとせず、下を向いたまま。

競争が激しい業界なので、自社のウリとライバルのウリを掌握して、違いを打ち出さないといけないのに… 
だれも掌握していないのです。

新人だけではありません。 
古参社員までも、競合のセールスツールを持っていないのです。

戦争をする上で大切なことは、相手の武器や戦力を知る事です。 
それを知らずに「戦略」を立てられるハズがありません。

私が営業の現役時代は、あらゆる手を使って競合の情報を握っていました。

失注した商談はとくに狙い目。 
相手は「売り込まれない」という安心感から、バンバンと情報を教えてくれます。

それを材料にして、新規商談のネタを作り込む…。 
相手の強みを消しながら、自社の優位性のある部分だけにスポットライトがあたるように、商談プロセスを組み立てる。 
これは営業の基本中の基本です。

それすら出来ていないのですから、正直に申し上げました。 
「売る気があるのですか?」と。

お話にならない状態だったので、営業の皆さんには最低限やるべき事を伝え解散。幹部会議をやり直しました。

営業責任者の役員は「使えない新人をやめさせて、新しく募集しよう…」と発言しましたが、社長は深刻な表情で「彼らをやめさせたら、募集費も合わせると300万円以上もドブに捨てることになる。もう一度私がイチから考えるよ…」 
と一蹴。

競合分析から始め、自社のウリを明確にして、社員全員に浸透させるための体制を作っていこう!と意思表示をされていました。

人柄がよく面倒見のよい社長で、今までは、自らが先頭に立ち社員を引っ張ってきたとの事。 
しかし、病気で倒れたあとは人に任せるしかなく、指揮命令がうまく機能していなかったようです。

ボタンを掛け違えたら、全部を外してイチからはめ直す必要があります。 
大変な労力ですが、気がついたときが吉日です。

モノゴトの構造を把握しないで、事業を推進させて行く事の方が、ムダな時間とカネ(人件費)を浪費することになります。

冷静に考えればわかることですが、「真の問題を突き詰める恐怖」には、人間の本質として目をつむってしまいがちです。

とくにベテラン営業や管理職クラスは、既存ルートからの数字でなんとか面目がたつので「新しいことへのチャレンジ」や「本質を追究するような問題提起」を嫌がります。 

しかし、自社を取り巻く環境は、間違いなく変化しきます。 
競合や、顧客を取り巻く環境は、常に変化しているのです。

古参社員が売っていた時代と、現状がかわっているのは、アタリマエのこと。 
現状を正しく把握せずして、正しい努力が出来るはずがありません。 
正しい努力ができずに、求めるべき結果がでるのでしょうか?

 

そんなに甘っちょろい業界は、この成熟社会には、もう存在しません。

変化を察知できる状態に常においておかなければ「ゆでガエル状態」になるのは、火を見るより明らかです。

ゆでガエルにならない為には、熱湯を意識させる必要があります。

現場にたつ営業マン、営業管理職、そして経営陣まで、全員が危機感をもって自社を取り巻く環境に敏感になり、未来への道筋をしっかりと描いていきたいものです。