とことん「本質追求」コラム第160話 マクドナルドの危機 — 業績低迷時の打開策

 

「マクドナルドの危機が囁かれていますが、藤冨さんはどう思いますか?」

 

先日、マクドナルドが行っている危機打開策の話でクライアントさんと盛り上がりました。

「マクドナルドのバリューセットが1000種類に! でも値段はシンプル!」という謳い文句の宣伝は果たして効果があるのか否か…と。

 

基本的には、選択肢を多くすると、購買決定率は下がると言われています。

「選択」という行動について、様々な実験から洞察された「選択の科学」という名著がありますが、その中でも選択肢を多くする問題点について説かれています。

 

24種類のジャムを店頭販売するときと、6種類のジャムを店頭販売するとのでは、6種類の方が実に6倍もの売上をあげたことが実証実験で明らかになった…と言うものです。

 

人間は、迷うと思考も行動も停止します。

だからこそ、購買の判断をしやすくする…という単純なロジックを意識するだけで売上が伸びることは往々してあるのです。

 

最盛期の日本マクドナルドの創り上げた藤田田氏も、「ハンバーガーと、飲み物と、ポテト」をバラバラで購入させるよりもセットの方が売上はあがる。

「日本人はとくに暗算ができないから、合計でいくらになるのか瞬時に理解できない」「人は瞬時に理解できないと購買はしない」と言っていました。

 

「買いやすくする」。

ただそれだけで売上は上がるのは事実ですが、現在マクドナルドがおかれた現象を見ると、そんな「改善」レベルで復活できるほど簡単には収まりません。
あの巨大企業を復活させるためには「改善」ではなく「抜本的な見直し」が必要なのです。

 

では、皆さんなら「マクドナルド」は、どうすれば復活するとお考えでしょうか?

財務的な対応とかではなく、あくまでも商売の王道である「顧客をつくり出していく」という本質的なテーマにおいての売上浮上策で考えてみて頂きたいのです。

 

様々なアイディアがあり、様々な施策があるでしょう。

どれが正解で、どれが不正解か…結果がすべてであり、すべてを同じ条件のもとでやってみないと分かりません。

しかし、現実的にそれは不可能です。

すべてを検証するわけにはいきません。

 

だからこそ…だからこそです。

危機打開策などの施策立案には「明確なる根拠」があってのアイディアでないといけないのです。

根拠が謳えなければ、それは単なるジャストアイディア…。つまり「思いつきレベル」だと言わざるを得ません。

思いつきのアイディアは、結果が出なければ、また浮き草のように次なるアイディアを発想する必要がありますが、根拠がないので、同じ鐡を踏む可能性が充分にあります。

同じ鐡を踏まないために「明確なる根拠」が必要となるのです。

 

例えば、マクドナルド浮上策の中に、「世界のマックを体験する」というコンセプトを思いついたとしましょう。

 

これだけ言うと、単なる思いつきです。

でも、これに「明確なる根拠」があれば、一変して検証可能な仮説へと昇華していきます。

私体験ですが、20年以上前に韓国に行った際、マクドナルドでコチジャンたっぷりの焼肉バーガーを食べたことがありした。

大変美味しく「日本にも“このメニュー”があったら良いのに…」と思った記憶があります。

 

食事というのは、「食欲充足」や「栄養補給」などの目的以外に、未知なる体験をしたい…という「冒険欲」が存在します。

冒険欲は、他者に認められたい…という自己承認欲求にも結びついているケースが多く、これは人間の欲の中でも無意識下で極めて強く働く欲求です。

 

ナマコを初めて食べた人や、毒だと分かっていても死のリスク顧みずフグを食す人が多かったことを考えると、理解できると思いますが…。

猛毒のフグの卵巣も何年も塩漬けすれば美味しく頂けるように、食への好奇心というのは、本能的にかなり根深いものがあります。

 

もちろん、全ての人に冒険的な好奇心が備わっているわけではありません。

それでも、市場をつくり出すオピニオンリーダーが「美味しい!」と言えば、追随者たちは、「私も体験したい!」と同調行動を起こしはじめるものです。

 

これは、人間社会で普遍的に見られる個人心理、社会心理的なモデルです。

 

と、考えると人間は未知なる食べ物には興味を示すモノだ…という根っこ(明確なる根拠)があることが分かります。

まったく新しい食材はハードルが高く、購買行動に結びつかないかも知れませんが、近い体験をした料理であれば、ハードルは一気に下がります。

あとは「見せ方」だけの問題です。

 

「韓国定番の焼肉マック」。他にも各国特有のハンバーガーがあれば、それをそのまま輸入して「南アフリカの●●バーガー」や「イタリアの●●バーガー」「スイスの●●バーガー」など、月替わり、週替わりで提案していけば、人々の冒険欲を刺激できるのではないでしょうか?

少なくても私なら冒険心を駆り立てられ、体験してみたくなります。

 

「似たような企画をやっていましたよ」

とご指摘されそうですが、一時ハワイのバーガーを仕切りに宣伝していた、あのような単発企画は、ジャストアイディアと言わざるを得ません。

ハワイのハンバーガーが消費者の欲求をくすぐる…という“明確なる根拠”が虚弱だからです。

 

これはあくまでも想定レベルのお話ですが、事業アイディアの発想法としては、理にかなった方法です。

「食というのは“冒険欲”も刺激する」…という明確なる根拠があれば、「この宣伝方法は、冒険欲を刺激出来たのか?」という視点で仮説検証をすることができるからです。

 

いずれにせよ、事業アイディアというのは、根っこ(明確なる根拠)から考えることが大切です。

 

特に…マクドナルドのように八方塞がりのような状態になったときには、「そもそもハンバーガーとは何か?」「いや、そもそも食事とは何か?」と、根本から事業を見つめ直す必要があります。

 

「改善」ではなく、「抜本的な見直し」を図ることで、マクドナルドは変わった!
面白いかも! と印象づけることで、人々の行動も変わっていくからです。

 

御社における事業アイディアには「明確なる根拠」は存在しますか?

 

 

 

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