とことん「本質追求」コラム第270話 新規事業がうまくいかない時のリーダーシップのあり方

 

 

 

「今年初めまでヨチヨチ歩きだった商品が、ようやく右肩上がりで売れてきました。やっぱり社内文化って、大事ですね」

 

先人にチャレンジャーがいなければ、高級料理として知られる「フグ」を、我々は楽しめなかったですよね…。と言う藤冨の一言に、共感していただき、昨年、プロジェクトをご一緒した社長さんからの嬉しいご報告でした。

 

フグは、ご存知の通り猛毒を持っています。

その毒性はテトロドトキシンというもので、経口摂取による致死量は1–2mgと言われており、青酸カリの850倍程度の毒性を持っているそう。

 

大阪では、(フグの毒に)あたったら即死することで「てっぽう(鉄砲)」と呼び、長崎では、棺桶を置いてでもフグを食べたい…という欲求からでしょうか?「かんば(棺桶の方言)」と呼ばれているとのこと。

 

室町時代以降、「河豚(ふぐ)食禁止令」を政府が出しているにもかかわらず、日本人はあまたの犠牲者を出しながらも4000年以上フグを食してきたわけでありますが、伊藤博文が、山口県のとある料亭で正しい知識を持った料理人から出されたフグを食し、あまりの旨さに福岡県と山口県に限って解禁した歴史を持っています。

 

何が言いたいかというと、やりたい(食べたい)と思ったことに、どうやればそれが実現できるか? と執着心を持たない限りは、実現できないということです。

 

どうすれば、それが実現できるか?

何が原因で、思い通り(死なずに美味いフグを食えるか?)にいかないのか?

 

その根本的な原因を究明しない限りは、安定した結果は生まれないのです。

 

 

フグを安心して美味しく食べたい。

新規事業の商品が安定して売れるようになりたい。

 

全く別次元のことですが、解決するアプローチは同じです。

 

問題の本質を明らかにして、その解決手段を見つけることです。

 

これは、言うは易く行うは難しの典型パターン。

 

というのも、問題の本質を追求する「阻害要素」が、意外にも根深いものがあるからです。

 

その阻害要素は主に2つです。

 

1つ目は、営業マンの「予算」です。

何度も、本コラムで書いていますが、経営者が営業マンに与えているミッションの多くは「売上・利益」のはずです。

売上・利益にフォーカスをするならば、誰でもそれが最も実現しやすい手段を選ぶはず。

 

売りにくい新商品は、営業マンにとっては、予算達成の足を引っ張る余計なものでしかない…。

 

これは、経営者がいないところで、営業マンのみんなが居酒屋でくっちゃべっている現実です。

 

だから、売れない原因を真摯に突き止めようとしない。

いや物理的に予算達成に真剣に取り組む営業マンほど、売上につながりにくい新商品を販売する時間は取れないのです。

 

もう1つは、「評価」です。

売上・予算に焦点が当たっていない営業部でも、やはり結果が出ない仕事というのは、嫌なものです。

 

新規事業の商品が売れないと、自分の能力が乏しいのでは? と評価されてしまいがちです。

 

サラリーマンにとって、これは自らの存在意義を揺るがされることでもあります。

 

だから、売れない理由を色々と進言する。

でも、そうすると「言い訳はやめろ!」と言われてしまう。

仮に口に出さないまでも、会社にそういった空気が漂っている。

 

これが、問題の本質を追求する「阻害要素」になります。

 

これまで何度もこう言ったプロジェクトをご一緒しましたが、突破口が開けない大きな原因は、こうした「社内の評価システム(予算)」や「言い訳はやめろ!的な空気」が起因となって、売れない真の理由を突き詰めないまま、表面上の努力した雰囲気だけで仕事が進められていることです。

 

これでは「なぜ、フグを食べると死ぬのか?」を究明しないまま、フグを食べようと冒険しているようなもの。

 

たまたま、毒素の無い部位だけ食べて、「今日はフグを食べても死ななかった!」と喜んでいても、調子に乗って肝臓を食べた時には、死んでしまう。

または、ちょっと捌くのを失敗して、血のついた身を食べてしまい致命傷となる。

 

これは、たまたま売れたり、売れなかったりを繰り返す新規事業と同じです。

 

原因を引き起こしている真の理由を究明しないことには、結果がどうであれ「安定」した結果は生まれてはきません。

 

冒頭の同社は、予算を持たない特命人事を発表し、新規事業に集中させる環境を作り、そして我々プロが入って「売る!」という目標を明確に定めながら「売れない原因をまずは集める!」というミッションを掲げて、プロジェクトをスタートさせました。

 

売れない原因が商品にあれば改良し、売れない理由が説明不足なら、チラシやホームページ、さらには提案書にまで、しっかりと織り込む。

 

こうして見込客に鋭く刺される「営業トーク満載」の“見せ方”を作り込み、見込客の発掘確度や商談での受注確度をあげていくことで、売れる突破口をこじ開けていきました。

 

そして大事なのは、チームに戻ったプロジェクトメンバーが、「売れない理由を真摯に受け止め、改良していく大切さ」を他の営業メンバーに広げていったので、さらに売上を伸ばしていくことができたのです。

 

何が問題なのか、真摯に向き合う環境を作るのは、意外にも難しいものです。

それでも、問題を問題として真剣に向き合い、それを解決していく社内文化が生まれれば、どんなに環境が変わっても、力強く変化できる組織になるはずです。

 

新規事業は、そもそもが新しい環境。

既存事業も、社外からの変化で、いつか確実に環境は変わるもの。

 

環境が変わり、思うような結果が得られない時、問題を問題として認知する社内文化は、企業生命に関わる基礎となります。

 

なので、組織のリーダーは、問題を問題として認知させる文化を育み、それを面白がって解決していく社内風土をいかに作れるかが重要になっていきます。

 

御社では、問題を問題として正しく社内共有する文化を育まれていますでしょうか?