とことん「本質追求」コラム第516話 売上・利益を拡大させる〈営業の武器〉をつくる思考法

 

「先日のセミナーでの、”プロダクトアウトで事業を推進しなさい”という藤冨先生の話ですが、どうも腑に落ちません。”顧客の立場に立って事業を推進するべき”という話とも矛盾しているように感じます。やはりマーケットインでないと売れる商品の切り口は見つけられないと思いますが…いかがでしょうか?」

 

先日、日刊工業新聞社で行ったセミナーのフォローアップ相談で、受けた質問。

確かに、一見すると矛盾して捉えられてしまいそうなテーマです。

 

以前も何度か、このテーマをコラムで取り上げてきましたが、「顧客の立場に立つこと」と「プロダクトアウト」は、矛盾しないこと。

なぜ、マーケットインよりもプロダクトアウトが企業の姿勢としてベストなのか?

その理由について解説したいと思います。

 

 

◆『顧客の立場に立つこと』と『プロダクトアウト』は矛盾しない

 

プロダクトアウトというと、独裁的スタンスをイメージすると思います。

また、マーケットインというと、顧客の立場にたっているイメージがあります。

 

しかし、マーケットインの定義を見ると…

 

・顧客が求めているものを調査し、それに基づいた製品を企業が開発・提供すること

・消費者の声や意見を起点に企業が製品・サービスの開発を行うこと

 

などと定義されています。

つまり「顕在化した声を拾って、商品化をしなさい」という解釈をされるわけです。

 

少し考えてみてください。

 

馬車で移動していた時代に「自動車」が欲しいと、消費者は想像していたでしょうか?

もっと、足の早い馬が欲しいと思った人がいても、時速100kmで走る鉄の塊に乗りたい!とは誰も想像しないはず。

 

内食か外食しかなかった時代に、弁当を買って家に帰ることを誰が想像したでしょうか?

お弁当は、家から外に持っていくもの…この常識を翻した「ほかほか弁当(現、プレナス)」の台頭は、当時衝撃を与えました。

 

その後も、セブンイレブンの鈴木社長が、「おにぎり」を売る!と言い出した時、「誰が握ったかわかんない”おにぎり”なんて誰も買わない」とか、散々だったそう。

 

よく成功した起業家も、周囲の知人・友人に事業アイデアを話すと「そんなの無理だ」「売れっこない」と、散々こき下ろされた経験を持っています。

 

イノベーション型の市場を創造するような事業は、決して「顕在化された概念や言葉」から誕生しません。

 

ある一定数の人たちが、より高い満足を求めていたり、不満、不足、不自由など「不」を取り除く商品やサービスが生まれた時に、その商品は渇望されるのです。

 

お客様が「概念化・言語化」される“前”の段階で…です。

 

渇望される商品・サービスであれば、大した営業力のないセールスマンでも楽に売れます。

 

逆にマーケットインは、顕在化したニーズに対応するため、その時点で競争環境にさらされる土壌が出来上がっているケースが大半。

 

つまり、売るためには、苦労が伴うわけです。

 

どんな苦労か?

競争優位性を保つための「広告費」が莫大にかかったり…

営業マンの人数も訪問回数も増やさないと売上が増えない。

もちろん、営業スキルだって、競合よりも優れていなくては、売上は上がりません。

 

費用も管理も大変。

仕事のための仕事なら、しない方がマシなんじゃないか?

そう、疑問に思う方は、とても賢明だと思います。

 

 

◆マーケットインよりもプロダクトアウトが企業の姿勢としてベストなのか?

 

「顧客の欲求に根差したプロダクト」を持っていれば、人件費、広告宣伝費などの販管費を抑制しながら、売上・利益をあげることができます。

 

とても、明快なロジックが成り立っていることに気づかされるわけです。

 

もちろん「顧客の利用メリットや利益を軽視したプロダクトアウト」は、市場から支持されません。

 

と当時に、「顕在化したニーズであっても、技術力などで競合他社が対応できないマーケットイン型の商品・サービス」であれば、売上・利益は確保できます。

 

つまり、汗まみれの肉弾戦をやらなくても、売上・利益を確保しやすいポジションを築けます。

 

ただ、注意しなくてはならないのは、真似できない技術やノウハウは、お客様の立場に立って眺めた際に、多くは「差が理解できない場合が多い」というケースが、めちゃくちゃ多いのが現実。

 

アタリマエのことですが、買い手が「差」を知覚できて、いいね!って、言われない限りは、どんなに優れた技術であっても、「売上」にはつながりません。

 

 

iPhoneを世に生み出したスティーブ・ジョブズは、マスコミを集めた新商品発表会でこれまでの「携帯情報端末」をこき下ろしながら、こう言いました。

 

・必要なのはソフトだ。ソフトに必要な操作だけ出来れば良いのに、キーボードが固定化されているのはナンセンスだ。

・最強のスタイラスは「指」だ。ペンだと無くしてしまう。不便だ!

 

と。

 

iPhoneが発売された当時は、優れた技術の塊でした。

しかし、その技術を自慢することなく、顧客がどう使うのか、なぜ便利になったのか…

顧客の感じ方から、利用されている技術を示唆したのです。

 

 

iPhoneの場合、携帯情報端末をレベルアップさせた「マーケットイン型」とも見て取れますし、スマホという概念を生み出した「プロダクトアウト型」とも捉えることができます。

 

言葉遊びは無用ですが…

「市場の声にならない声を拾って、市場が渇望するような商品・サービスを作り出す!」という強い意志はとても大事です。

 

顧客が欲しいと思ったものをつくる!という安易な思考では、考える力も失われます。

考える力を失えば、目まぐるしく変わる環境変化を先取りできず、全てが手遅れになることが簡単に想像できます。

 

「我が社の技術やノウハウを使って、市場に有益な商品・サービスを提供していく」

 

そういった意味で「プロダクトアウト思考」による企業姿勢の確立が大切だと藤冨は考えます。

 

消費生活者(法人も含む)の「不(不満、不便、不自由など)」はなにか?

便利にしたい、快適にしたいなどの満足の拡大は何か?

 

顧客がどう感じるか?を起点とした商品・サービスの存在は、その存在自体が、強力な〈営業の武器〉となります。

 

御社の商品・サービスは、〈営業の武器〉になり得ていますか?