とことん「本質追求」コラム第573話 顧客視点マーケティングの一貫性が顧客と自社の双方に利益をもたらす。

「先日のコラムは難解でした。結局のところマーケティングの全体像って、どう捉えれば良いのでしょうか?』

コラムの読者さんから素朴な質問を頂きました。

様々な団体や個人が、様々な定義を試みているので、マーケティングの全体像は捉えにくいかも知れません。
それでも、実戦で使えるように、シンプルに説明するとするならば…

マーケティングとは「満たされていない欲望に対応した商品をつくり、届けること」と藤冨は定義します。
ドラッカー流に言えば「顧客を創造すること」です。

✔︎ 顧客が買いたい商品・サービスをつくり
✔︎ その商品の存在・魅力をターゲット層に伝え
✔︎ 彼らが購入しやすい状態をつくること

この生産的活動が、マーケティングの全体像だと捉えてもらえば間違いありません。
組織で言えば、商品企画、開発、広報、営業など、複数の部門を跨ぐ活動となるのです。

つまり、ものづくりから販売までのトータルコーディネートがマーケティングの責任と権限の範囲といえます。

顧客が買いたい商品を探求するマーケティング責任者が、商品コンセプトを明確に定義し、それに従った製品開発、広報、販売活動の一貫性を貫くことは、事業を成功に導く基本姿勢です。

成功している商品・サービスをよく調べてみると、この一貫性がうまく機能しています。
今回、読者さんから「マーケティングの全体像は?」と質問されて、改めて感じました。
マーケティングの一貫性を保つことが、どれだけ重要か…と。

優れた商品やサービスなのに、この一貫性が保たれていないだけで、思うように売れない商品は、たくさん存在しています。

非常にもったいないことです。

先日も、カレー粉で有名なエスビー食品の商品をみて、つくづく感じました。

同社が販売している「蒸し生姜パウダー」という商品です。

たまたま、現在関わっているプロジェクトのご縁で、自然療法で著名な医師、石原新菜先生とお話する機会に恵まれたのですが、その先生が監修していると言う事で、蒸し生姜パウダーの存在を知りました。

「蒸し生姜」は、体温をあげるのに非常に効果的であると、石原先生の著書でも書かれていたので、きっとエスビー食品の開発担当者がラブコールをして商品開発にこぎつけたのでしょう。

エスビー食品の技術を駆使し、先生の考えに沿った素晴らしい商品に仕上がっていました。

ところが、値段を聞いて、肩を落としてしまいました。
食卓塩よりも一回り小さい小瓶(内容量4.5g)に入って、486円(税込)だったのです。
また、パッケージには「国産蒸し生姜パウダー ショウガオール6.7含有」と書かれているだけ。
「国産生姜」「蒸し生姜」「ショウガオール」のベネフィット を理解している人しか、この商品の素晴らしさを感じることができない残念なパッケージだったのです。
また、パッケージのみならず、売り場もスーパーマーケットの「スパイス売り場」なので、消費者からは「食品(スパイス)」としか理解してもらえません。

生姜スパイスで、486円?
スパイスとしてみれば、高額だと多くの人が認知するでしょう。

そもそも、生姜を蒸して(加熱)、パウダーにするメリットは、食品レベルからすると意味がありません。

美味しさが増すわけでも、SNS映えするわけでもないから、食品として売り出すには、消費者メリットがあまりにも希薄です。

生姜を加熱(蒸す)する理由は、ショウガオールという成分を引き出すためです。
ショウガオールは、体を温める効果があるので、免疫力が向上し多くの病気を抑制できます。
つまり、蒸すという製造工程を採用した理由は、健康促進というベネフィット を消費者に提供したいためです。

と考えると、「蒸し生姜パウダー」は、健康食品やサプリメントとしても位置付けられないと、思うようには売れない…という悲劇を味わうわけです。

健康食品やサプリメントとしてみれば、486円は激安。
食品としては高いけど、サプリメントとしては安い。

なぜ、こんな中途半端な価格設定になり、パッケージは知っている人しかわからない商品になってしまったのか…本当に残念で仕方ありません。

その原因を外部から勝手に考察すると、マーケティングの一貫性がなかったと分析できます。

「蒸し生姜パウダー」を愛してやまない人たちは、どんな人たちだろうか…(ターゲット設定)

その人たちにとっての「蒸し生姜パウダー」の代替案はなんだろうか(競合設定)
この商品コンセプトの追求が、製造部門だけで終わっていたのです。

もし、的確なターゲット、競合設定が、製造部門だけで完結せず、企画部門(パッケージや価格設定)、広報部門、セールス部門まで一貫性が保たれていたら、まったく変わるはずです。

ハウス食品が展開するパンに振りかけるスパイス「パパン」シリーズも、売り場を「スパイス売り場」から「パンの売り場」に変えてもらうようスーパーマーケットを口説き押して成功しました。

スパイスは1億でヒット商品と言われる市場ですが、パパンは当時7億売っていたと記憶しています。

いつも同じ朝食だと飽きちゃう人たちに、味変体験をさせてあげたい。
それには、パンのヘビーユーザーに商品の存在を知らせるべきだ。
その商品コンセプトを理解していれば、ものづくりから販売まで一貫性を保つことがいかに大事か…が理解できます。

「誰かの満たされていない欲望に対応した商品をつくり、届けること」
マーケティングの一貫性は、成功するための基礎的条件なのです。
「蒸し生姜パウダー」の存在を知ったら、喉から手がでるほど欲しい人たちも、必ずいます。

その人たちに、商品の存在をコミュニケートできないのは、その人たちにとっての不利益でもあります。
だって、その人たちは、膨大な生姜を蒸し、乾燥させ、手間暇かけて粉末にするために、自分の大切な時間を使っているわけです。

その大変な作業時間から解放させてあげることができれば、お客様は泣いて喜ぶはずです。

そう考えると、優れた商品が売れないのは、社会的損失だと思いませんか?

マーケティングを事業活動の中心軸に添えて、企画、製造、広報、営業部門の活動に一貫性を持たせることは、顧と自社の双方に利益をもたらします。

御社は、顧客が買いたい商品・サービスをつくり、その商品の存在・魅力を顧客に伝え、購入しやすい状態をつくるマーケティングの一貫性に神経を行き届かせていますでしょうか?