とことん「本質追求」コラム第581話 業績のあがる「人事評価制度」のあり方を考察する

「人事評価制度を導入し、社員のやる気を引き出そうと考え、専門家に経営会議に参加してもらっているのですが…なかなか成果が出ません。藤冨さんにその会議に入ってもらえませんか?」

労働分配率の悪化に悩むクライアント企業から、打診を受けました。
(労働分配率とは、粗利の何割を従業員に分配しているかを表す指標)

藤冨は、人事評価制度の専門家ではありませんが、営業成果を出すためには、幹部を含む社員の力が必要です。
モチベーションの高い人材が多いに越したことはありません。
でも、最初からモチベーションが高い人はごくごく少数派です。
よく人は3タイプに分かれると言います。
自燃型、他燃型、不燃型の3タイプです。

自燃型とは、自ら考え、行動し、成果を出そうとする成長意欲の高い人。
他燃型は、周りの人に刺激をされ、動き出す人。
不燃型は、なぜ会社にいるの?と不思議になるタイプで”パワハラ”を盾にした動かないタイプだそうです。

大企業だと、自燃型が20%、他燃型60%、不燃型20%に分類されると聞きます。
しかし、中小企業では、この比率は当てはまらないのではないでしょうか?
藤冨が中小企業に出入りしている感覚だと、自燃型が1〜5%、他燃型80%、不燃型15〜20%未満といった感じです。

この比率に不満を言っても仕方ありません。
人間の類型パターンの比率は、自然環境と一緒だと考えるからです。

藤冨の仕事は、この比率を大前提とした上でも成果があがるよう「仕掛け」をつくることです。
そもそも、普通の人は、勝ち戦だと分かってから、戦う意欲が湧いてきます。
つまり営業で言えば、具体的な営業のやり方がわかり、真面目にやれば成果が得られる!と分かってから、動いてくれるのです。

社長と名のつく人たちの多くは、道なき道を歩む変人が多いので、この感覚がわからないのかも知れません。

ただ、そうは言っても、孤独な社長と対等に話せる考えるタイプの人が組織の中にいて欲しい…と願う気持ちは理解できます。
実際、社長と建設的なディスカッションができる人材がいれば、会社は面白い様に伸びていきます。

しかし、冒頭のご相談のように、社員のやる気を引き出すための施策の多くは効果が見込めない傾向があります。
特に、今回の症状を伺うと、そもそも論としての出発点が間違っていることが推測されます。

・考える社員がいない=人事評価制度を正せば、社員のやる気が出る

という発想から、プロジェクトがスタートしているからです。

確かに、社長の好き嫌いで昇進・昇級が決まっているような組織では、不満は溜まりやすいのは間違いありません。
しかし公平な評価制度は、社員の不満を予防する施策にすぎません。

正しい評価制度だけで、社員のやる気が出て売上が上がると考えるのは、論理的に飛躍しています。

だから労働分配率が悪化しているのです。
現在の同社の課題は「労働分配率を正常値」に持っていくことです。
その実現を社長のマンパワーだけでなく、経営幹部をはじめとした社員を巻き込んでやれば良いだけの話です。

具体的に落とし込んでみましょう。

まず、労働分配率を正常値に持っていくためには、2つのアプローチしかありません
粗利を増やす
または
人件費を下げる
どちらかです。

いくら経営会議と言っても、中小企業の役員は、多くの場合は社員の延長線上の意識しかありません。
なので、人件費を下げることをプロジェクトテーマにしたら、役員でさえもモチベーションは駄々下がりになることが想定されます。

もし、このアプローチをとるなら、トップが独裁的にやるしかありません。
生産性を引き上げ、人員を減らす。それまで一人あたりの給与はこれまでと同等を保証する。
だから、ついて来て欲しい!と。

しかし、自ら考え・行動できる経営幹部や社員が欲しいとなれば、粗利益率をあげるアプローチをとる方が賢明です。

そして、人事評価と絡めるのであれば、粗利益率をあげるためのKPI(重要業績評価指標)を浮き彫りにする必要があるのです。

ここで言うKPIとは、平たく言えば、●●をやれば粗利益が増加するよね!という行動基準です。

製造部門であれば、
・粗利益●%を取っても、お買い得感のある商品を開発すること
・既存客に提案できる粗利の高い付加価値機能を開発すること
・新商品または改良商品の売上比率が●%になること
そのためには…
・既存商品の不満を顧客から聞き出すこと
・その対策案を見つけ出し、商品化(またはサービス化すること)
・非顧客と接触し、なぜ当社商品を買わなかったのか…を見える化すること

営業部門であれば、
・製造部門と顧客や非顧客の情報を共有すること
・利益率の高い商品を効率的に売り込む方法を企画すること。
・実践して、評価すること。
・さらに効率的に売り込む新しいアイデアを企画すること。

などなど、成果につながるための重要な行動目標をたてて、それを評価基準にすることです。

藤冨の専門分野は、マーケティングと営業を融合させた「波及営業」ですが、波及営業での成功キーファクターは「横展開できる強い購買欲求の明確化」にあります。
商品をどう見せれば、ある属性の人たちが「欲しい!」と思うのか。
市場とどうコミュニケーションすれば「買いたい!」と行動を移してくれるのか。

その成功キーファクターを見つけ出すには、実在する顧客を知ることから始まります。

粗利を高めるためには、実在する顧客を知る必要があります。
横展開を成功させる営業戦略を立案するためには、実在する顧客を知る必要があります。

実在する顧客への貢献欲。
この欲望を育み、実践する行動力を評価することに焦点を当てた人事評価制度ができれば、鬼に金棒です。

人事評価制度は、売上・利益を伸ばす「目的」を達成させる「手段」に過ぎません。
やる気も、売上・利益を伸ばす「目的」を達成させる「要素」に過ぎません。

それが、社員のやる気を引き出すための人事評価制度になっていたら…
目的はいつまで経っても、達成できないのではないでしょうか?

御社は、目的にフォーカスをした制度設計や仕組みづくりを行っていますでしょうか?