とことん「本質追求」コラム第596話 斜陽産業は、業界ごと立て直すことが最良の道

「お麩の製造・販売を行っていますが…競争優位性を打ち出すのが、非常に難しいです。何か良いアイデアはありますか」

先日、展示会の出展支援セミナーに登壇した際、参加者のお一人からの質問です。

伺えば、100年続く老舗のお麩屋さんで、勉強熱心な上に、様々なトライを実践してきた社長さんです。

ホームページを見ても、お麩を使った「ラスク」「ガトーショコラ」「離乳食」など、様々な新商品を開発していました。

なんとか、参考になるお話をしたかったのですが、私自身お麩の魅力を知らないどころか、食べる習慣もないので、その場では的確な回答を出せず…

後日、改めてお答えしますね!と言って、宿題として持ち帰りました。

今日は、お麩に限らず、斜陽産業に「陽の目をあてる策」として、ヒントになる視点を熟考してみたので、お麩の社長さんだけでなく、皆さまにも共有したいと思います。

まず、最初のステップは「そもそもの商品力」を知っておく必要があります。

それには、歴史を紐解くのが一番。
早速、全国製麩工業会のホームページ(HP)をのぞいてみました。

同HPによると、お麩は、肉食禁断の仏僧の貴重なタンパク源だったようで、精進料理から広く日本人の間に普及していったと見られています。
「すき焼き」や「味噌汁の具」として庶民に支持され、最盛期には1200ものお麩製造業者がいたようです。ところが、第二次世界大戦後の食糧管理法によって原料(小麦)の供給が途絶え、業界は停滞への一途を辿っていってしまいました。

これによると、お麩が持っている「そもそもの商品力」は、貴重なタンパク源だったことが伺えます。

しかし、戦後は、肉食文化の浸透、乳製品の普及も伴ってタンパク源としての希少性は失われたことが想像できます。

つまり、価値の競争力が失われてしまわけです。

タンパク源の多様化により、お麩の価値が軽んじられるようになり、供給体制が整ったとしても…売れなくなってしまった。

現代になっても、お麩を欲しい・買いたい!という人が増えないその原因は、主に3つの要素に整理できそうです。

1.食の多様化が進み、わざわざ食べたいと思わない。しかも水で戻す作業自体が面倒。
2.お麩の利用頻度が低いから、メニュー企画の時点で頭に思い浮かばない
3.そもそもお麩って、味が無さそうだし、魅力もわからない

こんなところが、伸び悩みの原因だと推測できます。

そんな状況下、どうやったら多くの人たちが、お麩の魅力に気づき、好んで選択・購入してもらえるようになるのか?

伸び悩んでいるときは、その原因を真摯に受け止め、真っ向勝負で対策を打ち出すことが有効です。

1.面倒なく調理できて、わざわざ食べたいと思う商品にするためには、どうすれば良いか?

2.あるターゲット層にとって、メニュー企画がすぐに思いつくような「商品の見せ方」を開発できないか?

3.味が想像できて、すぐに魅力が理解できるような「見せ方」ができないか?

この視点で、企画を練っていくことにしましょう。

と、その前に、新しい価値を生み出し、販売するには、商品が普及する5つの前提条件を企画段階から整えておくと成功確率が上がるので、簡単に解説しておきたいと思います。

商品が普及する5つの前提条件とは…

1.競争優位性
2.単純性
3.両立性(互換性)
4.試用可能性
5.可視性

この5つの前提条件を整えると、商品は売れやすくなっていきます。

藤冨は、10年以上様々な業界で売れる・売れないを見てきましたが、この5つの法則は、絶対法則だと断言できます。

お麩を事例に当てはめてみましょう。

1. 競争優位性は、お客様から選ばれる理由です。
他の食材や商品と比較した際に、お麩の方がいいよね!と評価してもらえるポイントを明快にしておくことになります。
お麩の原料は、小麦粉ですが、生地を水でもみ洗いする工程で「でんぷん」が洗い流され、植物性タンパク質の塊となります。
肉類や乳製品にはない「低カロリー、高タンパク質の食材」なので、ボディービルダーやダイエットをしている人、さらには健康思考の方には最適な食材です。
小麦粉が原料というとネガティブな反応をする人が多いのですが、お麩の生産工程で「見える化」することで、このネガティブ反応は抑制することができます。
消費者が認知できていなければ、商品のもつ良さが伝わりませんから、普及することもありません。
どう認知させるか…情報発信の質と量がカギを握ります。

2.単純性は、セールスポイントや購入する理由が簡単に理解でき、使いこなせるイメージを提供すること。
幸い、お麩はとてもシンプルな食材です。水に戻さずそのまま汁物やスープに入れるだけで食べることができます。
ここを強調することもポイントとなりそうです。

3. 両立性は、いままでの生活習慣、経験、価値観と互換性を高めることで、人々から受け入れやすくすること。
お麩は、お菓子の原料としても活用できるのですが、洋菓子と比較すると、とてもヘルシーです。間食や食後のデザートとして、お菓子を食べる習慣のある人達にとって「罪悪感のないデザート」として打ち出すことができれば、顧客にとっての両立性は失わず、欲しい・買いたい!という衝動が生まれます。

4.試用可能性は、いわゆる「お試し」。買い手の購入リスクを取り除く策を用意すること。販売時点で、いかにお試しできるか…になりますが、ここは商品企画ではなく、販売の現場で考えることなので、割愛しましょう、

最後…
5.可視性は、他の人たちが既に試していて満足している様子が見えたり、権威ある人物がその商品を評価している様子を「見える化」することです。
超有名パティシエが作った美しく、美味しそうなお麩スイーツなら、それだけ購買意欲が掻き立てられます。
また、栄養学の専門家が、乳幼児の離乳食に最適だと評価すれば、保存性もよく栄養価もたかく、しかも扱いやすいお麩はママさん達にとって、最高の食材として映るでしょう。

上述した100年続く企業も、すでにスイーツ、離乳食ともに、商品開発を成功させています。

それでも、5つの視点を徹底させたコミュニケーション開発は、まだまだ磨き上げる余地があります。

また、磨き上げ「質を高めたコミュニケーション」であっても、市場から評価を得るには情報量も必要です。

一企業では市場認知をえる予算に限界があるでしょう。

ならば、1社だけで頑張るのではなく、連合体で市場認知を高めることが大事

お麩の利用価値、採用価値を、改めて市場に認知させるために、5つの法則に則ったメッセージを、業界団体で発信し続ければ、お麩業界全体の活性化につながります。

お麩を製造する他社を仲間と捉え、他の低カロリー高タンパク食材を競争相手と捉え、業界全体で徹底抗戦するのです。

もちろん、勝てる相手を選んで…ですよ。

御社の業界は、業界全体で競争力を強化させる戦略を採用していますか?