とことん「本質追求」コラム第618話 潜在ニーズのつかみ方

「潜在ニーズを顧客に聞いてこい!と営業マンに指示を出していますが…”これだ!”という情報が入ってきません。何かコツみたいなものがあれば教えてください」

数年前にセミナーに参加された社長さんから、ご相談メールが届きました。

潜在ニーズを掴む方法と、顕在ニーズを聞き出すことを混同されている方が、非常に多いので、今日のコラムでは「潜在ニーズ」を掴む具体的な方法を事例を通じてご紹介したいと思います。

先日、あるメディアで「手を濡らさずにまとまる傘」が売れている!という情報が目に留まりました。

これまでの傘は、生地をまとめる際にベルトで固定していました。
この方法のネガティブ要素は、手がびしょびしょに濡れてしまうことにあります。

手を濡らさずにまとまる傘…「マーナ」という商品は、このネガティブ要素を見事に解消していました。

傘を閉じるときに、軸を中心に生地を巻き込む独自の新機構を採用することで、折り畳んだと同時に生地がまとまる構造になっているのです。

傘というコモディティ化した商品カテゴリーの中でのイノベーション。
見事な視点です。

1本7000円近くと決して安くはありませんが、Amazonのレビューを見ると、購入者の評価も上々。

・寒い日の雨で傘を閉じた時ベルトを止めるのが冷たくて、どうにかならないかな?
・大雨時にベルトを止めるとき手が濡れて、どうにかならないかな?

と不快に思っていた生活者が数多くいたのです。

ここで問題です。

この商品が発売される前に、消費生活者は「手を濡らさずにまとまる傘が欲しい」と口に出して、要望を出すでしょうか?

答えは「NO」です。

解決策の想像がつかない時は、現状の問題点(不快な状態)すら、声にならないものなのです。

したがって、ニーズを聞いてこい!と言っても、声にならないニーズなので、聞いても言語化されません。

「潜在ニーズ」を掴むためには、消費生活者を観察し、問題点を推測することでしか掌握できないのです。

藤冨が20代の頃、国内大手の飲料メーカーのマーケティング部長が、次のように話していたのを鮮明に覚えています。

「私は、毎日自動販売機の近くに待ち構えて、飲料を買った消費者に”なぜ今それを購入したのですか?”を聞いています。ほとんどが無意識で購入しているのを知って、愕然としました」と、ニーズを掴む難しさに頭を抱えていました。

そうなんです。
本質的なニーズは、消費者に聞いても顕在化できないものなのです。

繰り返しますが、「潜在ニーズ」を掴むためには、消費生活者を観察し、問題点を推測することでしか掌握できません。

これは、BtoCであろうと、BtoBであろうと、一緒です。

「観察」で、潜在顧客の実態(現状)を掌握すること。

つまり、顧客ファクトを掴み、その現状からどんな問題が生じているのか…それを推測することで、顧客の置かれた課題や問題を抽出するのです。

この時、潜在顧客に聞いても良いのは、課題と問題だけです。
要望は聞いてはいけません。
潜在顧客の置かれた現状を確認をした上で、「もしかして、こんなことで困っていませんか?」と問いかけるのです。

潜在顧客は、その事実(ファクト)に対して、YES、NOを的確に答えることができます。
そして、その事実がどれだけ深刻な問題なのか…あらゆる角度から、問題点を眺め、顧客のファクト情報だけを掴むのです。

この潜在顧客の「置かれた環境」「その環境における課題や問題の深刻さ…」が、潜在ニーズの源泉になるのです。

課題や問題がなければ、解決しようと思いません。
つまり商品を作っても、無視されるだけです。

また、課題や問題があっても「深刻さ」がなければ、お金を払いたいと思いません。
深刻さのない商品は、ターゲットが狭まったり、低価格でないと売れない商品に成り下がります。

潜在ニーズは、顧客が自覚していないが、解決されるべき問題や課題に基づくものであり、それを掴むためには、顧客を観察し、潜在的な問題を推測することでしか掌握できないものなのです。

日本の製造業に多大な影響を与えた私の師匠、日本オリエンテーションの松本勝英先生は「お母さんは優秀なマーケッターである」と、よくセミナーなどで話されていました。

赤ん坊が泣いた時、鳴き声や表情、時間帯などで、お腹が空いたのか、オムツが濡れたのか…を的確に推測できる。

観察力と推測力が、なせる技なのです。

御社のマーケティング・営業担当者は、お母さんのように潜在顧客や顧客を「観察」し、課題や問題を「推測」した上で、潜在ニーズを組織にフィードバックしていますでしょうか?