
『来期に向けてマーケティング部門を新たに立ち上げる計画を立てています。ウチの社員の中で誰が向いていると思いますか?』
先週のコラム「第645話”営業”と”マーケティング”の相違点とそれぞれの役割とは」を読んだクライアント企業の社長さんからご相談をいただきました。
どちらが向いているという具体的なアドバイスと同時に、今後の登用基準も明確にすることにしました。
コラムへの掲載許可もいただいたので、ぜひ皆様とも共有したいと思います。
先週のコラムでも申し上げました通り、マーケティングの役割は「新しい価値を生み出し、新しい市場を作る活動」です。
一般的には、営業部門の支援的な役割…つまり広告宣伝やイベント企画が主業務のように思われています。
しかし、それはほんの一部の機能でしかありません。
マーケティングの全体機能とは「市場と顧客のニーズを深く理解し、事業成長の方向性を導き出す」ことにあります。
製品開発、営業活動、ブランド構築に至るまで、企業活動の中心的役割を担うのが、本来のポジションです。
したがって、適任者に求められるのは、「商品・サービスを売り込む発想」ではなく、「顧客の課題を洞察し、選ばれる理由をつくる発想力」が必要となります。
具体的には、以下3つの素養を兼ね備えていることが理想です。
1つ目は、顧客・市場視点に立てる素養です。
顧客の感情や行動パターンに興味関心を抱き、自分ごとのように考えられる素養は、マーケティング思考には欠かせない要素です。
単なるデータや属性情報として顧客を捉えるのではなく、「この人はなぜ今、こう感じているのか」「なぜこの行動を取ったのか」と深く想像し、共感する力が求められます。
そのためには、表面的な情報収集にとどまらず、インタビューや観察によって深く相手を理解する力が必要です。
顧客の「痛み」「期待」「不安」「喜び」といった感情の起伏や価値観をファクトベースで捉え、自社の提供価値とどう結びつけるかを考える習慣を持つことが求められるからです。
また、同時に顧客から市場へと視野を広げられる力も求められます。
われわれの商品・サービスは、どのくらいのマーケット規模に受け入れてもらえそうか…顧客視点から市場視点へと視座を高めていくセンスがマーケティング担当者には必須能力となります。
2つ目は、構造化思考の素養です。
顧客の抱える課題を単発で捉えるのではなく、背景にある業界動向、組織内の力学、顧客自身の成長戦略といった「コンテキスト(文脈)」を構造化し、全体の中で問題の本質を位置づける力もマーケティング担当者には必要不可欠です。
「どこに最も大きな価値提供のチャンスがあるのか」を見極める洞察力の起点となるからです。
マーケティング担当者は、将来に向けた仮説を立案し、『今、われわれがどのポジションを確保すべきか』『どの価値提案が最も顧客を動かすか』を戦略的に設計する力が求められます。
全体像を捉える力。全体を要素分解できる力。各要素の関係性を紐解く力。本質的な問題を特定する洞察力。
構造化スキルは、マーケティング戦略を組み上げる上で、中核となる素養に位置づけられます。
3つ目は、社内外を巻き込む推進力です。
優れた洞察力と戦略を組み立てる能力があっても、プランだけでは「絵に書いた餅」で終わってしまいます。
営業、開発、製造、経営層など、複数の部門とコンセンサスを取る重要な役割を担います。
単なるアイデアマンやクリエイティブ志向の強い人だけでは、実務は回りません。
各部署の仕事に深い理解を示し、プランをどう実行に移せるのか…。地に足の着いた「現場感覚」と、「ビジョン」によって組織を導く力が求められるのです。
では、この3つの素養を持つ人材をどのようにして社内から発掘するか――
具体的にお示ししたいと思います。
「顧客・市場視点に立つ力」は、何といっても「他社の満足を自分の満足として捉えられる」素養を見極めることがポイントです。
「この商品を使うことで、顧客の課題はどう解決されるのか」「どうすれば顧客の未来がもっと良くなるのか」―こうした視点で物事を考え、行動できる人材こそ、マーケティング担当者にふさわしいと言えます。
人間観察が好き!
映画を見ていて感情移入して感極まることが多い!
など、他人への興味関心度が高い人物です。
また「好奇心」と「探究心」の強さを見極めることも重要です。
マーケティング活動は、常に不確実性との戦いです。顧客の行動は変わり続け、競合環境も日々変化します。
そのため、「なぜ売れないのか」「なぜ選ばれているのか」といった問いに粘り強く向き合い、答えを探し続ける姿勢が不可欠です。
頭の回転が早いタイプより、粘り強く考え抜く力や、困難を乗り越える精神的な強さを持つタイプが適性です。
次に「構造化思考の素養」の見極めは、キーエンス社独自の選考プロセスとして2次面接で行っている「要素面接」が有効です。
要素面接とは、「〇〇に必要な要素を3つ挙げてください」といった質問にどう答えるか?をテストするものです。
例えば、「営業に必要な要素を3つ挙げてください」とか「リーダーに求められる資質を3つ教えてください」などと構造化する力を測るのです。
その後、それぞれの要素について「なぜその要素が必要だと思うのか」「それをどのように身につけたか」など、深掘りの質問を続け、論理的な構成力だけでなく、理由や根拠を明確に説明できる力を見極めていきます。
構造化するスキルを確認するには、要素質問がとても有効です。
最後に「部門間の橋渡し役」として動けるかどうかを見極めます。
マーケティングは営業部門や開発部門と連携して初めて効果を発揮します。
どちらか一方に寄りすぎたり、逆に距離を置いたりするのではなく、互いの意図や事情を汲み取りながら、調整役を担えるコミュニケーション力が必要とされます。
そのためには、技術用語や営業部門特有の用語などの専門用語を翻訳する力量。
また、対立した際に、顧客価値という共通目標に立ち戻り、仕切り直す力量が求められます。
つまり、言語化能力の優れたタイプが適任者となります。
マーケティング担当者は経営陣と連携して、自社が成長していくために、新たな価値を創造し続けて、その価値を社会に広めていく人材です。
御社には、マーケティング部門の適任者が見つかりそうですか?