
「今回のコラムを読んでニーズ分析の全体像がつかめたように感じました。最後に”訓練”が大事だと書いてありましたが、具体的にどのような訓練をすれば良いのでしょうか?」
先週号のコラムを読んだ複数人の方から、同じような質問をいただきました。
見える世界の幅を広げ、ニーズ感度のアンテナを高め、さらに察知したニーズの強弱を見極めることができれば、商品企画のヒット率や販売戦略の成否を占えるようになります。
まさにビジネスの根幹能力です。
では、その能力はどうすれば身につけられるのでしょうか。
結論からいえば「モデリング技法を用いた訓練」が有効だと考えます。
モデリング技法とは、システム開発の要件定義をする際に「業務や情報の流れを整理し、構造として表現するための手法」です。
専門的な説明は省きますが、この技法の本質は「現象を分解し、要素同士の関係を明確にし、全体像を可視化すること」にあります。
私は、サラリーマン時代に、このモデリング技法を学ばざるを得ない状況になり、営業マンながらもこの知識を習得した経緯があります。
振り返ってみると、このモデリング技法が、実はビジネス全般にも通用する普遍的な力を持つことを実感しています。
なぜ、普遍的に応用できるのか。
まずは、モデリング技法とは何かをお示ししながら、ビジネス面でどのように応用できるのかを言語化してみたいと思います。
「モデリング技法」は、先に概要説明した通り、業務や情報の流れを整理し、構造として表現するための手法です。
出発点となるのは、普段は当たり前のように行われている「業務」や「情報」の意味や流れを理解することです。
まず業務を「要素分解」し、
- その業務はどんな作業で成り立っているのか
- 作業が開始するきっかけは何か
- 何をもって終了とするのか
といった視点で構成要素を洗い出していきます。
次に、その要素同士がどのような関係性を保ちながら結びつき、ひとつの業務フローとして成立しているのかを整理します。
この「要素分解」「関係性の整理」「フローの把握」が、第一ステップとなります。
次の第二ステップでは、その業務の重要性を明らかにしていきます。
ここでの業務は、人間の体に例えると「関節の動き」や「内臓の役割」といった「機能」として捉えると理解しやすいでしょう。
- 業務(機能)は全体の中でどのような役割を担っているのか
- その機能を効率化すると全体にどのような効果をもたらすのか
- 逆に停止すると、全体にどのような悪影響を及ぼすのか
このように「機能―全体」という視点で捉え直し、その業務の「重みづけ」を行います。
つまり、全体から見た業務(機能)の役割や重要性を言語化するのです。
第三ステップは、業務の再定義・再構築を行う最終段階です。
- 各種業務や作業をパターン化できないか
- 結果から逆算した際、最も効率的な方法は別にあるか
- 全体最適の視点から俯瞰した際、その個別作業や業務は、そもそも意味をなしているのか
こうした問いを立てながら、分解した要素を再構築していきます。
現象や課題の裏側にある「なぜ?」を言語化し、メタ認識的に捉え直すことで、作業や業務を再定義するのです。
さらに、パターン化や抽象化を重ねながら全体最適の視点で個別を組み直すことで、使いやすく有効性の高いシステムが完成します。
このモデリング技法をビジネスにどのように応用できるかを、おさらいしてみましょう。
第一ステップでは、顧客のニーズや現状を分解し、その成り立ちを把握する思考プロセスに置き換える応用が可能です。
顧客の解像度を高めることは、商品企画や商談のヒット率を向上させる土台となるためです。
第二ステップでは、「それぞれの要素やフロー」の重みづけを行います。
つまり、顧客の現状の中でどの課題が最も重要で、どの要素が解決を急ぐべきものなのかを見極める段階です。
ここを見誤ると、顧客が本当に解決したい課題ではなく、優先度の低い部分に資源を投じてしまい、結果的に共感を得られない提案になってしまいます。
逆に、この重みづけが適切であれば、「これは投資してでも解決したい」という顧客の本音に迫ることができます。
重みづけを正しく設定できれば、自ずと商品企画や商談のヒット率を向上させることが可能になります。
第三ステップでは、それらを再定義・再構築していきます。
顧客が語る「現状」や「課題」をありのまま受け止めるのではなく、要素分解と重みづけの結果を踏まえて、全体最適の視点から再整理するのです。
「もっと効率的な方法はないか」「そもそもこの作業は必要か」といった問いを投げかけ、顧客自身も気づいていなかった解決策を導き出します。
この再構築プロセスこそが、顧客にとっての新しい価値提案につながります。
ぜひ、このステップを意識して商品企画や営業活動をしてみてください。
顧客ニーズの解像度を高め、欲求の強度を見極め、結果につながる企画や戦略の前提条件を正しく導きだすことが可能になるはずです。
そして、うまくいった場合は、なぜうまくいったのか。
失敗した場合は、なぜ失敗したのか。
このステップを見ながら振り返ることで、「仮説ー検証力」が身につき、商品企画・営業戦略の基礎体力が身につくはずです。
ぜひ、あなたも、このモデリング技法に習って訓練をしてみませんか。