とことん「本質追求」コラム第177話 失敗する市場開拓と成功する市場開拓

「この新商品を●●業界に売り込みたいのですが…どう思いますか?」

 

以前セミナーを受講された社長さんから久ぶりに電話がありました。

お話を伺うと、構造的には売れそうな匂いのする市場なのですが、どうも釈然としません。

 

何かが引っ掛かります。

 

そもそも、新商品を売り出す際に、成功しやすい市場と、成功しにくい市場というものがあります。

 

成功しやすい市場というのは、「営業マンが提案した時点で、カンタンに問題が認識され、その影響範囲が深刻であり、解決するための手段としてその新商品が最適かも…」と判断される市場です。

 

逆に構造的に成功しにくい市場というのは、真逆のケースです。

「問題として認識されない」
「仮に問題として認識されても影響範囲が限定的」
または、「影響範囲が多少深刻であっても、代替商品の方が、その解決に優れたコストパフォーマンスを期待できる…」

という場合は、営業現場ではかなり苦戦を強いられます。

 

しかし、ご相談頂いた社長さんは、どちらかと言うと、上記の「成功しやすい市場」に分類されていました。

 

普通であれば、「いいですね!イケますよ!」と諸手をあげて賛成するのですが、なぜか、直感がそれを許しません。

 

以前お手伝いしたケースに酷似した匂いを感じたからでしょう。

 

 

と言うのも、構造的に売れるケースであっても、失敗するケースというのを過去何例か味わってきました。

 

その取り組みの共通点は、「惚れた市場」を対象にしていない…というケースです。

 

精神論に聞こえるかも知れませんが、武道において「心技体」を充実させないと勝負に勝てないのと同じで、営業現場においても「心技体」はとても重要なのです。

 

この市場に貢献したい…という強い思いや正義感があれば、かりに「技(営業テクニック)」や「体(できるだけ長い時間集中できる体力)」が不十分でも、十分なセールスパワーを発揮したりします。

 

諦めない気持ちが成功要素として、重要な位置づけである事は周知の事実ですが、この諦めない気持ちも、この市場に貢献したい…という思いから芽生えるものです。

 

これまで1000人近くの営業マンを見てきましたが、努力でのし上がってきた成績優秀な営業マンは、相手に強い興味をもって営業活動に勤しんでいます。

 

「この商品を使ったらお客様は、こんな風に喜ぶだろう」
「この商品を使ったらお客様は、こんな利益を享受するだろう」

とほくそ笑みながら営業をしています。

 

だから、ちょっと断れたくらいではヘコタレマせん。

「私の伝え方が良くなかったのかも? もう一度別な言い方で接触してみよう」と自らの改善活動を通じて、活路を見出していきます。

 

だから「売れる」のです。

 

 

自分にしか興味の無い人は、正直余り売れません。

(但し、ごく一部の超トップセールスマンは別です)

 

他人のせいや環境のせいにする営業マンも売れません。

 

これは営業マン個人の資質の問題もあります。

しかし、対象市場の選定の問題であるケースも多々あるのも事実です。

 

儲りそうな市場という視点だけ選ぶのではなく、誠心誠意ベストを尽すことができそうな「惚れられる市場」を選ぶ事が大切なのです。

 

 

以前、こんなプロジェクトに携わったことがありました。

 

「いま元気な老人がたくさんいるから、彼らを代理店として使えば、売れそう!」

 

と取り組んでいた企業さんが、なかなか成果が出ずに悩んでおられました。

話を聞くと、当然だと思いました。

自分達では売れないから、お金をもっている老人に売れば良いのでは? という発想で取り組みだったために、誰も本気で取り組めていなかったのです。

 

良心が苛まれる営業戦略は、軍隊組織でない限り機能しません。

 

即刻、この施策はスグに中止してもらい「この商品が最も相性の良い市場を選び出し、営業マンの皆さんが本気になって取り組んでもらえそうな“惚れられる市場を見つけよう!」と試みました。

 

数ヶ月かけて、ようやく選定市場と営業コンセプトが決まり、取り組んでみたところ…1件、また1件と営業の皆さんが受注を獲得してくれ始めたのです。

 

 

これまで、1年近くも微動だにしなかった商品が、売れ始めた瞬間でした。

 

 

ときどき、お洒落や喋り方など「モテる技術」を学ぶ人がいますが、あれを見て滑稽だとおもったことは無いでしょうか?

 

誤解を恐れずにいえば、そうゆう人に限ってモテません。

 

モテる技術を身につけるよりも、人を愛し続けるマインドを身につけた方が、よほどモテるようになります。

 

これは営業も同じです。

買ってもらうための策を考え尽くし、秀逸な営業戦略が組み立てられたとしても、そもそも論としてお客様になり得る人に興味がなければ売れないのです。

 

私たちの商品をもって、お客様にどうなってもらいたいか…

それを真摯に追求していけば、必ずや新商品は軌道にのります。

 

御社では、市場選定の際、儲る市場という視点だけで選定していますでしょうか?それとも惚れられる市場という視点も重要視していますでしょうか?