とことん「本質追求」コラム第248話 新規事業は「縮小マーケット」を狙うべき?

 

 

 

『少子高齢化の時代ですから、シルバーマーケットの商品を新規事業として立ち上げようと思っています。こんなアイディアがあるのですが、どう思いますか?』

 

金属加工業を40年以上営む社員30名強の企業が新規事業を立ち上げようと色々と模索するなか、藤冨に寄せられたご相談。

 

まだ試作にも取り掛かっておらず、商品に想いもないご様子。

 

シルバーマーケットに目をつけたのも、単に高齢化社会で需要が見込めるのでは、…といった理由だけでした。

 

なので、その思考回路のまま新規事業を模索するのはおやめになったほうが良いですよ。とピシャリと申し上げました。

 

資本力も少なく、自由に動かせる人材にも限りがある中小企業の場合、原則として成長マーケットには参入しない方が無難だからです。

 

ましてやマーケットニーズやマーケットが抱えている構造的問題が見えない中での営業トライは、自殺行為。

 

儲かりそうだ…と言う安直な思考回路が、もっとも銭を失う典型例なのは過去の失敗例を紐解けば火を見るよりも明らかです。

 

新規事業を成功させるには、まずは以前のコラム「第239話 失敗しない新規事業の選択」にも書いた通り、シナジーを効かすこと。

 

 

そして、そのシナジーが働く分野の中でも、成長分野とは真逆の方向を見てみることです。

 

少子高齢化であれば、幼児、育児、子供マーケットといった具合です。

 

 

優秀な企業や人材。

血の気盛んな勢いのある企業や人材などは、成長市場に群がってきます。

 

成長市場は、単に競争が激しいだけでなく、手強い相手と戦わざるを得なくなるので、知力・体力・財力を十二分に備えている必要があります。

 

逆に縮小マーケットは、優秀な企業や人材、勢いのある企業や人材は、退場していくこともあります。

 

つまり縮小マーケットは、競争環境が緩くなる可能性が高い。

 

そうなれば、羊の群れの中に、オオカミとして存在することが出来るわけです。

 

楽勝で勝てる分野を探し、自社の兵力・財力をムダに疲弊させないことは「殿(経営者)」の仕事です。

 

著書の名前と正確な表現は失念してしまいましたが、日本マクドナルドの創始者である藤田田氏は、こんなことを言っていました。

 

「外食産業は、パパママストアばかり。そこに東大卒の私がいけば、赤子の首をひねるようなものだ。だから私は外食産業に進出したのだ」と。

 

ご存知の通り、日本マクドナルドは短期に成長し、藤田田氏が生きている間はずっと売上高1位とトップ企業として君臨し続けていました。

 

氏が死去した後は、同じく東大卒で外食産業に進出した小川 賢太郎氏率いる「すき家」のゼンショーが活発なM&A戦略によりトップに躍り出ました。

 

別に学歴云々という話をしているわけではありません。

楽勝で勝てる市場で戦うことの分かりやすい一例を示したにすぎません。

 

孫子の兵法でも「自軍と敵軍の兵力を見極め、勝てる時にしか戦わない。負け戦は決してしない。出来る事なら、戦わずして勝つにはどうするかを考える」のが基本と教えています。

 

相手から攻め込まれるなら、こんな理想論は言っていられませんが、自ら攻め込むなら、楽勝で勝てそうな「土俵」を見極めることが「勝つため」の原理原則です。

 

もちろん、そんなに簡単に「自社にとって都合のよい市場」を見つけることは出来ないでしょう。

 

が、これを見つける思考の胆力こそ、事業の成否を分ける要であると言っても過言ではありません。

 

社運を賭けた新規事業であれば、それこそ生死を分ける境目です。

 

良い商品を真面目に作り、適正価格を遵守して発売すれば、きっと売れるだろう!という発想は、これまで下請け企業で生き残ってきた製造業の方にありがちな考え方です。

 

でも、安くて品質の良い商品が売れるわけではありません。

平たく言うと、「出来るだけ多くの人に価値ある見せ方をした商品」が売れるのです。

 

つまり、多くの人(企業)の期待値を高めた商品が売れるのです。

そして、利用したフェーズで、その期待値を超えた満足度の高い商品が、ロングセラーになっていきます。

 

競争が激しく、情報が氾濫している市場で、自社の価値を正しくコミュニケーションするには、知力・体力・財力が必要です。

 

それならば、情報量が少ない市場で、情報発信していった方が目立つわけです。

 

新市場に参入する際、体力・財力に限りがあるなら、知力で優位に立てる「戦いの場」を探すことが大切。

 

 

御社は、新規事業参入において、楽勝で勝てる戦いの場所を徹底して見極めていますでしょうか?