「いま第一営業部を解体しようと思っているのです。と言うより、今の主力商品が無くなっても良いと思っています。賛同する社員がいないのが残念ですが、どう思いますか?」
以前、プロジェクトを承った社長から、3年ぶりに相談が舞い込みました。
当時ご一緒した新規事業は、いまや第三の柱に育っているとのことでしたが、主力商品は未だに売上の4割弱を占める重要なキャッシュポイントになっているとのこと。
企業として成長するには、この主力商品を持続的に成長させるビジョンが描かれていないといけないわけですが、今のままでは、その明るい未来が描けないとのことでした。
なんでも、全くの異業種から競争を仕掛けられ競争のルールが変わる可能性が高くなってきたとのことです。
現時点では、売上は微増傾向にあるためか、営業部も全く危機意識を持っていないようです。
しかし社長の嗅覚では、この状況を保てるのはもって5年。変化の激しい時代ですから、下手をすると3年もすれば、業績がだだ下がりするリスクの方が高いと判断されていました。
そこで、主力商品と明らかに競合する商品を世に出そうとしているわけです。
ところが、営業現場からは、「そんな商品を発表したら、既存顧客がそっちに流れてしまう。単価が取れない商品だから売上も粗利も下がってしまう」と、現状維持を強く望んでいるそうです。
まさに、イノベーションのジレンマです。
イノベーションのジレンマとは、元々は大企業が、イノベーションを起こそうとする新興企業の前で無力化している概念ですが、現代では大企業に限った概念ではありません。
老舗企業が、異業種から仕掛けられた競争の前で、無力化していく現実も同概念で捉えなければなりません。
このような現象が起きる根本理由は、「変化への恐怖」「カニバリズムへの恐怖」に他ありません。
同社の営業部隊も、今起きている競争の現実を直視することなく、目の前の売上・利益にしか目がいかず、本質を見極められていません。
ダーウィンの「種の起源」が示唆する通り、環境を感じ取れない個体、環境に適合できない個体、変化を拒む個体は、生き残ることができないわけです。
冒頭、「主力事業を担当している営業部を解体する」という社長の意見は、まさに的を得ており藤冨も諸手をあげて大賛成。
社員が変化を拒むなら、変化を感じざるを得ない環境を社内に作るしかありません。
そうしないと、全体組織が尻窄みになってしまいます。
第八営業部でも、未来営業部でも何でも良いので、新興組織を社内に立ち上げ、第一営業部を潰すマインドでことに当たることが、成長の糧になるはずです。
本コラムでもなんども取り上げていますが、時代を見極めるにはフレームワークとして、私の軸となっている「本質を見抜く考え方」(中西輝政氏著)にも書かれているように、大きな時代の流れの中で動いているものは、「慣性の法則」が働き、いつかは必ずその変化が訪れます。
「所有から利用」
「現金から電子マネー」
「溶ける国境」
「ビックデータ、AI化、自動化」
「労働の義務化から趣味化へ」
などなど、時代が推し進めている大きな変化のうねりは、急に停止したり、方向転換することなく、そのままの勢いで、時代を塗り替えていくのは間違いないわけです。
そこで取り残される商品は、どうなるのか?
そのまま生き残れるのか?
形を変えて生き残るのか?
それとも全くの新商品を作るべきなのか?
消費者の欲求を起点にして、当社として何を提供するべきなのか?を真摯に考え抜き、自ら変化を起こしていくことが大事です。
人間は困っていなければ、なかなか変化を起こすことは出来ません。
偉そうに言っていますが、私だって同じです。
ならば、わざと困る環境を作る他ありません。
困れば、変わらざるを得ないからです。
だから、既存の営業部とカニバリズムを起こす、新規事業を起こすのです。
トヨタが大規模な人事を発表し、製造業からサービス業への転換を本気で図ろうとする時代です。
カニバリズムとは、人間が人間を食べる行動のことを言いますが、経営の世界においては、既存の商品が新商品に飲み込まれてしまうことを意味しています。
社外の新商品に食われるくらいなら、自社の新商品で既存商品を潰してしまえ!ということです。
大きな時代の変化によって商売のルールが変わる時には、非常に重要な概念です。
世界的な著名投資家であるバフェットは、以前日経新聞のインタビューに「四半期決算は不要」という主張を展開してみせました。
長期投資家らしい発言です。
四半期決算の発表が義務付けられていると、経営者は短期志向になり、時代の大きな変化に対して対応が遅れてしまうという見識です。
まさにカニバリズムを拒む根元になる可能性が高いわけです。
ダーウィンは『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。』という名言を残しています。
御社では、変化を積極的に起こす「環境」を作られていますでしょうか?