とことん「本質追求」コラム第34話 【信任】の時代のマーケティング・アプローチ

熾烈な顧客争奪戦を繰り広げている「生命保険業界」。

先日、日経MJにその生保業界に革命をもたらしている「ライフネット生命」の記事が掲載されており、時代が大きく動いている息吹を強烈に感じました。 

同社は、創業当初から、大手生保の「半額商品」を投入して安さをウリに市場開拓を仕掛けてきました。 
しかし、期待に反して市場はまったくの無反応。 

「どうせ、支払額が安いって事は、受け取り金額も低いんでしょ・・・」と消費者からは見向きもされていなかったそうです。 

そこで、ライフネットは業界のタブーに切り込みました。 

保険は「加入者が受け取る保険」である【純保険】と「保険会社が受け取る手数料」の【付加保険料】に分かれています。 

どんな業界でも自社の厳密な利益構造を公開する事はありませんが、なんとライフネット生命は、自らの利益である【付加保険料】を公開してしまったのです。 

保険会社が受け取る【付加保険料】は、生保レディー、営業マン、その他間接部門を含めた『人件費』や、店舗の維持コストなど、各社の事業運営コストによって変わってきます。

ライフネット生命は「ネット専業」の為、事業運営コストが低く、不可保険料を下げて販売しても、充分に利益が取れる体質を『強み』として勝負をかけようと判断したのでしょう。

結果、開業から5年間は契約が取れず低空飛行を続けていましたが、タブーを破った瞬間に業績が飛躍したのです。

消費者から「正直な姿勢は信用できる」「応援したい」との声が寄せられ、契約件数が上昇カーブを描き始めたのです。

市場が拡大している間は、どの業界でも「強い営業力」で業績を拡大することが出来ました。

たとえ多少強引な営業をしても、市場が新陳代謝するため、市場とのリレーションにさほど気を配らなくても業績は安定成長させることが出来たわけです。

しかし、市場が拡大しなくなると、市場とのリレーションが事業成長に強く影響するようになります。

市場からの「信任」が、確実に業績と連動するようになったのです。

30年ほど前の事でしょうか。

金八先生の放送を見て、何故か強く記憶しているシーンがあります。 

「信用」は、信じて用いられること。 信用ではダメだ。
「信頼」は、信じて頼られること。 信頼でも足りない。
「信任」は、信じて任せられること。 「信任」されて初めて人間関係ができる。

というセリフです。 (正しい記憶でないかも知れませんが・・・)

この言葉の記憶しかなく、前後のストーリーはすっかりと忘れてしまいましたが・・・ 

日経MJ紙の「ライフネット」の記事が読んだ時に、最初に浮かんだのが、この金八先生の言葉です。 

「そうか、市場が求められているのは”信任”のステージなのかも知れない・・・」と。 

これはあくまでも私見ですが・・・ 

時代の変遷と共に「信用」⇒「信頼」⇒「信任」のステージで、消費者の購買行動も遷移(せんい)していると見て取れたのです。 

もっと正確に言うと、時代というより、製品分野のライフサイクル毎に、購買行動が遷移していると感じました。 

第一ステージの「信用」段階では、消費者にとって「欲しいもの」を提供すれば、成功していた時代でした。

戦後に町工場から大企業にのし上がった大企業が扱っていた「車」「家電製品」など、消費者が求めるものを提供すれば「用いられる」時代だったわけです。

ところが第二ステージの「信頼」の段階では、ただ品質のよいものを供給すればよい・・・という単純な思考では成功できなくなりました。 

そう、市場に同じような商品が出回ったので、ライバル商品と差別化を図って、選ばれる存在にならなければ、生き残れなくなったのです。 

つまり、消費者から”違い”が認められ”私にとって最良の商品”として「頼られる」ようになることで企業は成長していったのです。 

そして、第三ステージの「信任」の段階では・・・
差別化された商品がゴロゴロと転がり情報が錯乱してくると、消費者は何が”違い”なのか知覚できなくなり、私にとって何が最適なのか・・・判断できなくなってきました。 

そこで商品やサービスそのもの以外にも、「この企業だったら私(当社)を最良の商品を提供してくれるだろう」と、企業の姿勢やあり方を見て「任せる」時代になってきたのです。 

つまり、自社商品を市場に投入するとき「商品やサービス」と共に「企業の姿勢やあり方」の情報をセットして、流通させることで「信任」が得られる時代になってきた訳です。 

これは、二番煎じが効きにくい「競争構造」です。 

なぜなら、消費者が好む「企業の姿勢やあり方」は、「私達に正直な会社」という位置づけであり、追従者が同じメッセージを投げかけても「利益を得たいというニオイ」しか感じ得なくなってしまうためです。

そうなるとむしろ、二番煎じは逆効果になってしまう可能性が高いでしょう。 

となると、この「競争構造」では、先手必勝が事業の成否を分けることになります。 

ありのままの姿勢やあり方を見せる事は、企業にとっては厳しい決断を迫られることでしょう。 

しかし、これを正直に見せることで、消費者はあなたの会社に魅せられるのです。 

正直さと使命感で、新しい時代を切り開いていきたいものです。