とことん「本質追求」コラム第52話 焦点を絞り過ぎると「視野狭窄」になる?

景気は「気分」とは良く言ったもので、アベノミクスにより株高、円安が進み、景気が浮上してきています。 
市場の「気分」をどう汲み取るか…。 
これは、事業運営においてもとても大切なポイントです。

以前、売上向上策を練っていた”とある化粧品会社”の営業の方が、ある企画を打ち出してきました。 「夏にはボディー、冬にはフェイシャルが売れている…。だから冬にボディーを、夏にはフェイシャルを売る施策を考えれば、売上全体が上昇するのでは…」といった思考をベースにした企画です。 
確かに、活性化していない市場は競合他社が目をつけていないケースが多いので、潜在的欲求に触れることが出来れば、売上は上昇します。 
しかし、そもそも論としても、落ち込んでいる商品を飛躍させるには、かなりのエネルギーが必要です。
顧客の気分に逆らって販売努力をするのは、非常に骨が折れる作業。 市場を啓蒙しなくてはなりませんから営業コストもかかり、利益を圧迫してしまいます。 

事業を組み立てる上では、この「気分」に敏感にならないと真逆の戦略を取ってしまい手痛い失敗をしてしまいます。 売れている時に、売れるモノを集中的に販売する。 これは原理原則です。 

しかし、あまり焦点を絞りすぎても「視野狭窄」になってしまいます。視野が狭くなると当然、本当のお客さんの気分が汲み取れなくなります。 

そんな気づきを与えてくれるのが、昨日日経MJ新聞に掲載されていた日本一のシェアを誇る傘メーカー「ウォーターフロント」です。
従業員35人で39億ですから、一人1億以上の売上高…年間2250万本もの傘を販売しているそうです。 
このウォーターフロントのユニークなところの一つとして「品揃えのノウハウ」にあります。 
通常、店頭の品揃えは、売れた商品を補充する形式で行うのが一般的。 ところが、このウォーターフロントは、売れた商品をベースとして5~15本単位でロット発注(同社ではアソート単位と表現)しているのです。 売れた商品だけ品揃えをすると、店頭が同一色になりがちで店頭から華やかさが消えてしまうから…というのがロット発注をしている理由です。 
浅草にある店舗に買いに来た外国の観光客は”花屋さん”と間違えて入ってきてしまったという逸話があるほど。 
その商品政策の効果なのか…晴れの日でも傘が売れるそうです。
気分で購買意欲を換気している象徴的なケースだと感じた次第です。 

ただ、購買意欲を刺激しているのは、店頭の華やかさだけではありません。 そこには地道なまでの戦略が実行されていました。 
傘をギフト需要に対応させるべく、季節ごとに企画を練って発信。 1月は縁起物の傘。2月はバレンタイン需要を狙って男性向けの大きめの傘。3月はホワイトデーを狙って「ぬいぐるみケース入り」などなど、季節ごとに商品企画と販売スケジュールを連動させています。

傘はそんなに高いわけじゃないのにガラが大きい。 プレゼントを贈る心理を考えると、非常に的を得た市場アプローチを行なっています。

どんな商売でも、顧客の気分や感情の動き…さらに無意識に行なっている行動などに注意深く観察すると自然「打ち手」は見えてくるものです。 
ちなみに、鋭い観察力を磨くには、常に「なぜ?どうして?」と疑問を脳みそに放り込んでおくことがポイントです。
答えが見つからない「なぜ?どうして?」を考え続けるのは、とても苦痛なことですが、これに耐えてこそ、新境地は開けていくんだと、最近常々感じています。