とことん「本質追求」コラム第89話 販売代理店に依存するリスク

メーカーが、商社や販売業者を通じて売上拡大を図るのは、合理的な手段の一つです。

新規開拓コストのみならず、物流や小分け梱包さらには細かい連絡業務等を考えると「販売代理人」を通さないと、売上が拡大すればするほど固定費も増大していきます。

伸び率に従って、逓増するのならまだしも、おおよそのケースでは先行投資にならざるを得ません。

これだけ変化の激しい時代ですから、そのリスクは甚大です。

だからと言って、商社や販売業者に「営業や販売」を依存するのも、極めて危険な行為です。

販売代理人は、あくまでも「代理人」です。 
決して、「主体者」ではありません。

販売の「主体者」は、あくまでもメーカー・製造業なのです。

この認識が曖昧なまま事業活動を進めていくと、商社や販売業者に「骨抜き」にされてしまいます。

コンビニ等の小売業者が、カップ麺やお菓子などのナショナルブランドを棚から徐々に追い出し、プライベートブランドに置き換えて「利益率」を上昇させるのを見るまでもありません。

構造的に考えれば、当たり前のこと。 
商社や販売業者は、「儲かれば、それでヨシ!」なのです。

それでも、新商品を開発すると、安易に既存の販売業者に販売を委託して、スグに売上げを立てたい…という衝動にかられてしまいます。

この商品をどう販売していけば、最もブランド力が向上し、中長期的に見て売上げが最大化できるか…をも考えるずに。

思考の短絡化は、商品寿命の短縮化に繋がります。

これは原理原則。 
熟考せずに進めた事業が、中長期的のドル箱事業に育つはずがありません。

競争戦略を意識せずして、商品を市場に投入すれば、ハイエナが獲物に群がるように競合が次々と現れ、スグに市場を腐られてしまいます。

そもそも、販売業者に売上げを依存するという行為は、最終消費者の「心理」を注意深く洞察しよう…という努力を放棄してしまっています。

そのような姿勢では、事業が成長するはずがありません。

1986年にアサヒビールが経営危機に陥ったのも、この構造です。

営業マンが、酒問屋や商社に販売すれば売上が計上されるため、最終消費者への洞察を軽視し、事業が停滞していきました。 

問屋に売れば儲かる → 押込み販売が横行する → 問屋や小売で在庫が山積みになる →ビールの鮮度が落ちる → ビールがまずくなる → 売れなくなる。

という悪循環をもたらしたのです。

結果、最終消費者から不評を買い、店頭から商品が売れなくなっていきました。

最終消費者から支持されなければ、問屋だって買い控えます。 
当然のごとく当時のアサヒビールは、販売不振に陥り、危機に瀕してしまったのです。

聞けば、アタリマエに感じるのですが、当事者になると意外にこれが盲点になるのです。

販売代理店に依存するリスクは、 
1. 最終消費者が見えなくなること
2.競合が誰だか、不鮮明になっていくこと
3.社内の営業力が弱体化していくこと
4.目先の売上、利益に囚われ、中長期の利益を失うこと

そして、最大のリスクは… 
5. メーカーが死守すべき「ブランド構築力」が失われてしまうこと…

なのです。

経営の社会的責任が、ゴーイングコンサーン(継続企業)だとするならば、販売代理人には、あくまでも「代理人」として捉え、販売主体者は、メーカー自らが責任をもつ…という覚悟こそが、大切になるのです。