とことん「本質追求」コラム第530話 会社は社員のために存在するのか?

 

「構造的な変化で大幅は事業転換を迫られています。このままだとリストラせざるを得ませんが…何とか会社の規模を維持したいと思っています。新規事業を立ち上げたいのですが、お手伝い頂けますか?」

 

コラムの読者さんから新規プロジェクトの問い合わせが入りました。

月末にミーティングをする予定ですが…

少々気になる思考があったので、前置として藤冨なりの意見をこの場を借りて述べさせてもらいます。

 

リストラをしたくない…

雇用を維持し、社員の生活を守る姿勢は、とても大切だと思います。

反面、会社の規模を維持したい…という発想は非常に危険です。

まして、新規事業で会社の規模を維持しようとする姿勢には、とても賛同できません。

 

会社は「顧客」のために存在するのであり、社長の願望実現のために存在するのではないからです。

そして、大胆に言ってしまうと、「社員のために」も会社は存在していません。

 

社員の生活を軽視するつもりはないので、誤解しないでください。

顧客に商品・サービスを提供し、満足を勝ち取るために必要な規模が規定されているだけのこと…

つまり、会社や事業は、顧客に貢献するという外向きの目的思考を持つことが大切で、間違っても内向きの目的思考に陥らないことを肝に銘じる必要がある…。

そう理解してください。

 

 

ドラッカー 氏も「マネジメント(エッセンシャル版)」の中で、「顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的である」ときっぱりと定義しています。

さらに、「企業そのものは、より大きくなる必要はないが、常により良くならなければならない」とも言及しています。

 

先週末、日経新聞に【「アンダーアーマー」売却、名物社長は何を間違えたのか】と題して、2020年に業績低迷の責任をとって米国アンダーアーマーの創業者ケビン・プランク氏が退任。

そして、創業期に足並みをそろえて日本法人を立ち上げ、一大ブランドを築き上げた日本総代店ドームの安田秀一社長も、伊藤忠商事に事業売約。

代表を辞任したと報じられていました。

 

同記事を読むと、まさに「ドラッカー の指摘」が事業衰退の原因であることがわかります。

アンダーアーマー社は、拡大戦略に基づいてカジュアルウエアなど品ぞろえを増やした結果、販売不振で不良在庫が膨らみ、ブランド価値も希薄化していったとされています。

日本法人のドーム社も、米国本社の戦略に同調した結果、一時400億あった売上が300億まで縮小したとされています。

 

自らのブランド価値に自惚れ、人気を博した「ブランド」が、大勢の人に愛されていると錯覚したのでしょうか?

ブランド価値が支持された「アスリートのパフォーマンスを高める」と言うコンセプトを忘れたために、事業が停滞してしまったのです。

 

 

「企業規模を維持するために”何か新規事業を立ち上げる”」と言う発想は、アンダーアーマー社の二の舞になるリスクがあります。

 

先日も、コンサルティング現場で「節操のない新商品を乱発していた社長」にズバリ指摘をしてきたばかりです。

急場を凌ぐ状態であったために、極力「本業」以外の新商品には時間、費用を費やさない範囲で進めましょう…と助言しましたが、コンセプトから逸脱した新商品の乱発や事業拡大思考は、じんわりと企業体力も奪っていきます。

 

・商品企画についやす時間と人件費

・開発についやす直接原価と時間、そして人件費

・販売のためのコミュニケーションコスト(WEBサイト制作やチラシ作成など)」

・営業マンの活動時間と人件費

・販売管理、仕入管理、在庫管理などのバックオフィス業務の肥大化

 

などなど、一つの商品を作り上げ販売するための時間・コストは並々ならぬものがあります。

さらには、やるべきことに集中できた場合のチャンスロスを考えれば、新規事業の育成には、莫大な投資が必要となることが容易に想像できるはずです。

 

自らの成長を願って立ち上げた新規事業が、逆に衰退の原因となってしまうことにならないよう「誰にとっての何のための事業なのか?」と言う外向きの目的思考を強く持ちたいものです。

 

御社は、企業目的は外向きの目的思考になっていますか?