とことん「本質追求」コラム第648話 交換条件なき値引きは不誠実である。

「値引きは″悪″なのでしょうか?どのようなケースでも値引き禁止…と言うお考えですか?」

先週のコラムを読んだ読者さんからご質問を頂きました。
この場をお借りしてご回答させて頂きます。

結論から申し上げると、値引きは悪ではありませんし、絶対にしてはいけない…という訳ではありません。

ただし、値引きをする際に必ず押さえておかなければいけないポイントがあります。
それは、値引きする際は、必ず「交換条件」をつけることです。

よくよく考えてみればわかることですが、条件のない値引きは不誠実です。

これは、30年以上前から藤冨の変わらぬ思想と行動哲学です。

あるお客様には定価で販売し、あるお客様には20%引きで販売する…
定価で買ったお客様はどう思うだろうか…と考えを行き届かせる必要があると思うからです。

公の場に出ても正々堂々と値引きの理由を語れるなら全く問題ない…
当時からそう考え、値引きを要求する相手に必ず交換条件を提示していました。

今日のコラムでは、その当時よく提示していた交換条件と、その後コンサルタントになってから新たに編み出した新しい交換条件を加えて、皆さんにもお伝えしたいと思います。

商談相手が経営者の場合、私はよく決めて頂ければ◯◯円まで値引きをします」という決め台詞を多用していました。

値段を言い訳にして契約を拒んでいるのかを見極めるためです。

値引きをすれば契約が決まる!と感じたら、「社長決済を取りますから、今しばらくお待ちください」と伝え、その場で上長(社長)に電話をかけます。

商談というのは「生もの」なので、盛り上がった感情が鎮火すると、再燃させるのに一苦労を要します。

その一苦労のコストは、自分の年間売上÷年間労働日数(≒260日)で計算すると、すぐに分かります。
年間5億の数字を達成していたら、1日あたりの労働単価は約190万円です。

つまり、即決してもらえれば、190万円の再燃に要するコスト(1日あたり)が抑制できますから、それだけ値引きをする価値があることを説明できるわけです。

この説明までしっかりと伝えることができると、経営者の多く感心・納得してくれます。
ここまで煮詰めて失注した経験は一度もありません。

また、稟議を通さないと決済がおりない商談もあります。

その場合は、次のような「交換条件」を提示して、商談の成功確率を向上させていきます。
ポイントは、本当に「売り手、買い手双方がメリットを強調すること」です。

最も効果的なのは、「広告塔になってもらうこと」です。

製品やサービスを通じてお客様が得たメリットや経済効果を「取材」させて頂き、その「導入評価インタビュー」をホームページやチラシとして利用させていただくことを「値引きの条件」にする方法です。

「導入評価インタビュー」は、新規開拓営業における非常に効果的な「営業の武器」として機能します。

他者の成功体験が、意思決定に影響を与える「社会的証明」の原理に基づいているからです。
社会的証明とは、他人の行動や評価を参考にして自分の意思決定を行う心理現象です。

自分にとって新しい商品や未知のサービスに接した際、「多くの人が選んでいる」「高評価レビューが多い」といった情報があると、「自分も選んで間違いない」と感じやすくなります。単なるスペックや理論上のメリットではなく、実際の導入メリットや経済効果は、購買意思決定に強く影響を及ぼしているのです。

値引きを「広告宣伝費」として捉えれば、「導入評価インタビュー」は、とても有意義な戦術案となります。

他にも「複数台まとめて購入」や「継続契約や保守の長期契約」などを交換条件とした「初回価格の調整」も有効です。

値下げは「受注を獲得するための戦術」であって「妥協」になってはいけません。

「値下げ=妥協」という構図が働くと、自らの「価値」を下げることになりかねないからです。

コミュニケーション心理学(交流分析)には、「ディスカウント」という概念があります。
日本語に訳すと、「値引き」です。

心理学上での「ディスカウント」とは、自分や他人の能力・感情・状況・問題解決の可能性などを過小評価したり、無視したりすることを指します。

行動の変化や問題解決を妨げる心理的メカニズムであり、営業現場「値引き」でも、同じ問題を引き起こしてしていまいます。

つまり、値引きを安易に受け入れてしまう営業担当者は、自社製品の本当の価値や、お客様が得られるベネフィットを十分に理解していないか、もしくは相手の反応を恐れて“自己評価”を下げてしまっているのです。

つまり、無条件の値下げを繰り返すことは、単なる売上の目先の確保ではなく、自らの価値、ひいては会社のブランド価値まで「ディスカウント」してしまっていることに他なりません。

だからこそ、値引きを交渉戦術のひとつとして活用する場合は、 

✔︎ なぜこの値引きが可能なのか 
✔︎ どのような条件を満たすことでその価格が成立するのか 
✔︎ 値引きによってどのようなWin-Winが生まれるのか 

といった「論理的な裏づけ」と「対等な交渉意識」を持つことが不可欠です。

営業とは、価格の交渉ではなく、「価値のすり合わせ」であるべきです。

「このお客様にとって、我々のサービスはどう役立つのか」 
「その価値をどれだけ正確に伝えられているか」 
「条件付きの価格調整によって、お互いにとって最良の着地点を導き出せているか」 

こうした視点を持ち、戦略的に値引きと向き合うことが、結果的に顧客満足を高め、継続的な取引と信頼を育む第一歩になるのです。

あなたは、どのような交換条件を提示して、価値ある価格提示をしていますか?