とことん「本質追求」コラム第713話 一次情報という聖域を、外注してはいけない理由

「そもそも当社には営業力がありません。アポを取る作業をアウトソーシングするなどの検討を進めているが、どう思いますか?」

先週のコラム「成果を上げるために『マーケティング体制』を問い直す」を読んだ読者さんから、相談メールを頂戴しました。


一見すると、極めて合理的で、経営判断としても“正しそう”に見えますが…私はこの相談に危険な香りを感じました。

なぜなら、「アポ取り」という泥臭い初期接点のなかにこそ、企業が成長し続けるための
最も濃い「金の匂い(勝機)」が潜んでいるからです。

多くの経営者は、アポ取りを単なる「作業」や「管理的アプローチ」として捉えがちです。

確かに、効率化・省力化という観点に立てば、外注という選択肢は自然に見えます。

しかし、新規事業や、思うように売れていない商品を扱うフェーズにおいて、アポ取りは作業としての管理対象ではありません。

それは、紛れもなく創造的アプローチの中心軸です。

そもそも、私たちが最も警戒すべきなのは、効率化の代償として、組織が静かに思考停止へ向かっていくことです。

人間の脳には約860億個のニューロンが存在し、それをつなぐシナプスは、使われることで強化されます。
これは、組織においてもまったく同じです。

一次情報としての顧客の生の声を聞き、断られたら、そこから「なぜ響かなかったのか?」と問い続ける。
この反復によって、組織のシナプス…すなわち、情報伝達と思考の回路は磨かれていきます。

アポ取りを外部に丸投げするということは、この最も重要なカルチャーを、自ら放棄することに他なりません。

顧客との最初の接点である「市場との対話」を失えば、顧客が抱える真の「痛点」や、時代とともに変化するニーズの兆しを察知する機会も失われます。

機会が失われれば、能力もまた失われる。

結果として残るのは、「アポが取れた・取れない」という、文脈を失った乾いた数字だけです。
その数字だけを頼りに、経営判断を下す…これは、極めて危うい状態だと言わざるを得ません。

本質的に重要なのは、顧客の真の姿を理解し続けることで、商品のコンセプトを創造し、磨き込み続けることであるはずです。

たとえ、新しい技術を提案する「創造的な市場開発」であっても、顧客理解を抜きにして成立することはありません。

では、「顧客の真の姿を理解する」とは、どういうことか。

それは、現場で得られた一次情報(ファクト)を、組織で共有することに尽きます。

アポ取りのプロセスで得られる「断り文句」や、会話の途中で顧客が漏らす、ほんの一言の違和感。

これらは、すべて情報の宝庫です。

・「他社を使っている」という発言から浮かび上がる、競合の存在

・「今は不要だ」という回答の陰に見える、代替案の存在

・「興味がない」と言われる瞬間に露呈する、こちらの価値訴求のズレ

こうした一次情報こそが、商品企画をアップデートし、営業戦略を練り直すための、唯一の羅針盤となります。

先週のコラムでも、マーケティングとは、「価値を創り出すこと」と「価値を伝えること」である…とお伝えしましたが、その中心を貫いているのは、市場とのフィードバックループです。

このループを外部に依存したままでは、自社の中に「売れるロジック」を構造化し、再現性のある勝ちパターンを築くことはできません。

「当社には営業力がない」と嘆く企業を分析してみると、多くの場合、問題は営業マン一人ひとりの活動内容の是非ではありません。
そもそも、売れるロジックを磨き上げ続けるためのカルチャーが、組織の中に存在していないのです。

「どの顧客層が、どんな構造的な痛みに悩み、自社はそれをどう解決し、どんな経済的価値を生み出すのか」
この勝ち筋が見えないまま、アポ件数や行動量だけを増やしても、組織は疲弊するだけです。

以前、「見込客を予算の2倍積み上げれば、目標は必ず達成できる」という考えを真に受け、疲弊しきっていた組織を、私は何社も支援してきました。

共通していたのは、「商品を売っているのか」それとも「商品が売れているのか」
という本質を問い直さないまま、行動量という管理指標に逃げ込んでいた点です。

ドラッカーが指摘するように、管理的アプローチは「予測可能な結果を、安定して生み出す」ための仕組みです。
すでに勝ち筋が確立された作業に対しては、非常に有効です。

しかし、「どうすれば売れるのか」というロジック自体が未確定な段階で、行動量だけをKPIに設定することは、組織にとって“弊害”にしかなりません。

アポ取りの外注とは、この本来向き合うべき問いから目を逸らし、安直な解決策にすり替えてしまう行為なのです。

もちろん、すべての外注が悪だと言っているわけではありません。
アウトソーシングを「武器」に変える条件は、極めて明確です。

・自社で市場と対話し、ターゲットと訴求すべき価値が特定されている

・「誰に、何を、どう伝えれば、どの程度の確率でアポになるか」が言語化されている

・そのプロセスが、創造的アプローチから反復作業へと移行している

この条件が揃って初めて、外注はレバレッジとして機能します。

逆に言えば、このロジックが曖昧なまま外注に頼るのは、自社の「目」と「耳」を塞ぎ、戦略立案を運任せにする行為に他なりません。

今、AIの台頭によって、多くの「作業」が自動化されようとしています。

しかし、ここでも同じ問いが突きつけられます。

「その作業は、すでに管理的アプローチに移行しているのか」

それとも、
「まだ創造的アプローチの途上にあるのか」

こうした問いは、時に上層部や他部署の誰かを否定する思考にも繋がる場合もあり、即座に「管理的アプローチ」へと移ってしまうことがあります。


しかし、私は、摩擦をネガティブなものだとは捉えていません。

むしろ、摩擦は創造の母だと考えています。

「まだ分かっていないことがある」という前提に立ち、事実を集め、仮説を立て、検証し、言語化する。
きわめて知的で、再現性を志向した営みであるはずです。

御社の社風は、その「創造的アプローチ」を歓迎する雰囲気を、大切にしているでしょうか。