
「会議では、いつも声の大きい人の意見が通って、議論にならないのです。だからでしょうか、当社では創造的な新商品が生まれた試しがないんです」
先月号をお読みいただいた読者の方から、落胆の色が濃く滲むメールをいただきました。
「摩擦は創造の母」である……という内容に触れて、気づきは得られたけど、どうすれば良いのかわからない…というお悩みです。
結論から、申しあげます。
気づいた人が、「変革」を起こす必要があるのです。
愚痴っている場合ではありません。
愚痴を吐くことは、自分自身を知らぬままに「無能扱い」しているのと一緒です。
と、言うと多くの人は「それが出来ないから、大変なんです」「うちの役員は本当に頑固で…」と、肩を落とされることが多いのですが、それでも「変革」への準備を整えることが大切です。
なぜなら、組織の問題に気づきながら、何も問題提起をせず放置することは、自分自身の課題から目を背けているのと同じだからです。
そんな姿勢や態度で仕事を続けていると、仕事に対する誇りも自尊心も日々、少しずつ削がれていってしまいます。
とは言っても、この変革が困難を極めることを百も承知しています。
それでもなお、変える必要があります。
AIの社会浸透、荒れる世界情勢など、企業を取り巻く環境が激変している時代です。
環境変化に適応し、自らの立ち位置を問い直し続けなければ、組織はあっという間に時代から取り残されてしまいます。
そして厄介なのは、衰退が音もなく進行する点です。
売上が急落するわけでもない。
大きな失敗が起きるわけでもない。
ただ、「新しいものが生まれなくなる」「挑戦する空気が生まれなくなる」「会議がいつも予定調和になる」…その小さな変化の積み重ねが、気づいたときには取り返しのつかない差となって現れます。
こうした組織は、決して能力が欠如しているわけではありません。
優秀な人材は、たいてい社内にいます。
問題は、その思考がぶつかる場が、排除されていることにあります。
解決策…つまり変革する方法は、二つしかありません。
・外部の人間(異物)を、議論の場に投入するのか。
・それとも、社内の誰かが「不退転の決意」を持って、変革するのか。
いずれかにしかありません。
異物を投入するメリットは、常識の熱交換を起こすことができることです。
手前味噌ではありますが、コンサルタントは、この役目を果たすことができます。
こうすれば成功する……という外部の常識と、長年その組織を支えてきた社内の常識を熱交換することで、初めて「思考の温度差」が顕在化します。
閉じた組織において、常識は循環するだけで、アップデートされにくい構造です。
会議で語られる言葉も、判断基準も、過去の成功体験の延長線上をぐるぐると回り続けます。
熱はこもり、やがて“ぬるま湯”になります。
そこに異物――つまり外部の視点が投入されることで、「それは本当に前提条件として正しいのか?」「なぜ、そのやり方を続けているのか?」という問いが生まれます。
この「熱い投げかけ」が、ぬるま湯の温度を上昇させ、熱交換の起点となります。
ただし、外部の常識を押し付ける「異物」には注意が必要です。
外の成功事例をそのまま当てはめても、ほとんどの場合うまくいきません。
なぜなら、組織には組織固有の文脈、制約、歴史があるからです。
だからこそ必要なのが、外部の常識 × 内部の現実を意図的にぶつけ合い、摩擦を起こし、「どこが過熱し、どこが冷え切っているのか」を見極めるプロセスです。
このプロセスでは、外部の異物もまた、自らの立ち位置と影響力を自覚する必要がありますし、内部の人間も、感情ではなく構造として、注意深く状況を観察する姿勢が求められます。
もっとも、外部の人間の存在が、必ずしも必須条件というわけではありません。
社内の誰かが、この役割を担うことも、理論上は十分に可能です。
ポイントは、「立場」ではなく「構造」です。
自らが「異物」として振る舞えるかどうか。
それに尽きます。
ただし、ここに大きな壁があります。
組織の内部から異物が生まれた瞬間、それを排除しようとする…それが「集団」という存在の本能でもあります。
変革したいのに、できない。声を上げれば浮いてしまう。だから、黙る…。
多くの人は、この構造を言葉では説明できなくても、身体感覚として理解しています。
私自身、33歳までサラリーマンとして組織の中にいました。
だからこそ、この息苦しさ、この正体の見えない圧力が、どれほど人の思考と行動を縛るのかが、痛いほど分かります。
100名以上が参加した合宿形式の会議で、私は組織が抱える問題を真正面から提起したことがあります。
その瞬間、会場にいた全員が一斉に下を向きました。
誰一人、視線を合わせようとしない。
あのとき感じた、背筋をなぞるような恐怖感。
さらにショックだったのは、普段は喫煙ルームで散々と愚痴をこぼしていた仲間たちでさえ、同じように沈黙し、下を向いていたことです。
あの疎外感は、今でも忘れることができません。
だからこそ私は、内部から「問題提起」を行うための定石を考え、実践し続けてきました。
感情でぶつければ、必ず排除される。
正論を振りかざしても、孤立するだけです。
では、どうすればよいのか。
組織に変革を起こすポイントは、次の3つです。
・対立構造をつくらず、話題を「拡張」させること
・言いっぱなしにせず、実行と責任を自ら引き受けること
・生まれた成功体験を、個人の手柄にせず、仲間に還元すること
この三つが揃って初めて、孤立せずに組織を動かせるようになります
内部から異物であり続けるには、「正しさ」よりも、「設計」が必要なのです。
長文になってしまうので、具体的な内容は次号に譲ります。
ぜひ、楽しみにしていてください。
