
「GoogleやYahoo!の検索窓に“解決策の名前”を打ち込む時代から、ChatGPTやGeminiに“いま抱えている課題”そのものを入力する時代へと、移行しつつある…って確かにそうですね。でもビジネスにどう影響するのか、もう少し詳しく教えてください」
先週のコラムを読んだ方から、「もう少し詳しく知りたい」という声を複数いただきました。
前回は「気づき」に触れるざっくりとした概要で終わってしまったので、今回のコラムでは、少し整理してお伝えしたいと思います。
現在の業務への影響範囲という観点から見ると、極めて広範囲で影響を及ぼしてきます。
・商品企画のあり方と進め方
・技術開発の適切性
・販売促進の組み立て方
・営業マンの役割とマネジメント方法
・部門間の情報共有方法
など、組織の制度設計から見直さないと、ツギハギだらけの制度設計になるリスクがハッキリと見えてきました。
単に、検索ツールが変わっていく、という論点ではなく、顧客の購買行動そのものに変化がおきるわけです。
顧客の購買行動が変われば、当然ながら、私たちの売り方も、作り方も、組織のあり方も変えざるを得ません。
これまでの購買プロセスは、ある意味で“段階的”でした。
課題が発生する→自分で解決策の仮説を立てる→検索エンジンで調べる→解決策の名前を知る→問い合わせをする…このプロセスの中で、企業は「解決策の名前」で待ち構えていればよかったのです。
しかし、生成AIを介在させた購買行動は、構造が違います。
課題をそのまま相談する→AIが問題の構造を整理する→解決策の選択肢が提示される→ある程度“絞られた状態”で比較検討が始まる…
つまり、顧客が営業に接触する前に、思考整理が進んでいるのです。
ここが本質です。
この「問題の構造化」を、顧客目線で捉え、商品の企画から販売まで一気通貫で、制度設計していくことができれば、企業の競争力は飛躍的に高まります。
なぜなら、場当たり的な改善や思いつきの商品企画ではなく、「顧客がどのような環境に置かれ、どのような不満足を抱え、その背景にはどんな構造があるのか」という前提から出発できるからです。
AIによって顧客の課題が構造化・データ化されることで、これまで埋もれていた『共通の悩み』が可視化されやすくなります。
つまり同様の問題を抱えた顧客層の厚み(市場性)が見えてくれば、当社として商品開発を進めるべきか否かの判断材料に確信が持てるようになります。
これだけの痛点を持った顧客が、これだけの数存在するのか…
この手応えが掴めるまで市場との対話を繰り返せば、事業判断の確度は飛躍的に高まります。
さらに、的確な商品企画は、効率的な「機能開発」にも繋がります。
こんな機能が必要かも、あんな機能が必要かも…と机上の空論で考えることがなくなるからです。
このようなケースであれば、あるべき機能はこれ、と定義しやすくなります。
技術部門を超えて、部門横断チームで議論すれば、なおさら「的確な機能か否か」の判断精度は高まります。
市場から求められる「価値」が創造できたら、次は、その「価値」を市場に正しく伝達していく必要があります。
ここで、もう一つの注意点が、今回のテーマでもある「生成AI時代の情報発信術」となります。
検索エンジン時代は、「解決策となる商品」を、できる限り詳しく掲載することが、「価値の伝達」の中心でした。
例えば、工場の「アンドン」が有線式の場合、レイアウト変更のたびに配線工事や移設コストが発生します。
だからこそ、「当社のアンドンは無線式です」と伝えるだけで、十分に価値を訴求できました。
“機能の優位性”を明示すれば、検索キーワードにヒットし、比較の土俵に乗れたのです。
しかし、生成AI時代は様相が変わります。
買い手は、特定の商品名や機能を検索するのではなく、もっと抽象度の高い「問い」を投げかけます。
例えば、「来期、生産ラインの変更があります。コストを抑えた変更計画を提案してください」と入力します。
ここには「アンドン」という単語すら出てきません。
買い手の関心は、あくまで“変更コストを抑える方法”にあります。
生成AIは、その問いに対して、
・レイアウト設計の見直し
・設備のモジュール化
・無線化による配線コスト削減
・段階的移行計画の策定
といった、複数の選択肢を提示するでしょう。
つまり、機能単体ではなく、「問題構造の中の一要素」として提示されるのです。
ここが大きな転換点です。
AIは、ユーザーの『背景(コスト削減したい、レイアウト変更したい)』というコンテキスト(文脈)に最も合致する回答を優先するアルゴリズムであるため、スペック単体の情報は『文脈不一致』として埋もれてしまう可能性が高いのです。
・工場のレイアウト変更をきっかけに、アンドンの無線化を導入する企業が増えていること
・自動化が進み、さまざまな無線通信が飛び交っていること
・できる限り、既存設備を活かす取り組みが求められていること
など、顧客の課題や痛点が発生する背景から、課題の全体像まで把握し、自社商品との接点を設計していく必要があるのです。
・無線化にする経済的メリット
・電波干渉を想定した「幅広い周波数」の対応
・既存設備と簡単に連携できるAPI化
こうした背景、すなわち顧客の痛点が発生する「構造」まで理解し、その全体像の中で自社商品との接点を設計していくことで、生成AIが参照する情報構造に組み込まれるようになります。
その結果、自社が「有力な選択肢の一つ」として提示される可能性が高まるのです。
なぜなら、顧客はザックリとした「課題(痛点)」を生成AIに相談するのですから、「痛点」と「製品」がキレイな文脈で語られていないと、両者は結びつかないからです。
次に、価値に気づいた顧客は、営業マンとどのように接するのでしょうか。
あたかも、問題の構造を理解し、適切な解決策まで描けているかのように見えるため、「あとは条件交渉だけ」という役割に営業が限定されそうにも思えます。
しかし、そんな世界が訪れるのは、まだ先の話です。
なぜなら、生成AIでは知覚できない「問題構造の奥行き」や「幅」が存在するからです。
そもそもAIは、言語化されていない世界を構造化することができません。
仮に推論をすることはできても、その顧客の現場で起きている固有のファクトを特定することはできません。
顧客自身が言語化できていない問題や痛点、あるいは認識すらしていない「問題や痛点」については、AIは助言することができません。
となると、営業マンの役割は明確になります。
顧客がまだ認識していないこと、あるいは何となく不満に感じているものの、うまく言語化できていない問題や痛点を引き出すことができれば、商談は単なる条件交渉の場から、新たなソリューションを共創する場へと変わっていきます。
そのためには、従来以上に高度なヒアリング技術が求められます。
これは営業マンだけに求められるスキルではありません。
顧客の声にならない声を、言語化する技術は、新たな価値を発見する商品企画担当者にも求められます。
高度なヒアリング技術については、長くなってしまいますので、次回に譲りたいと思います。
次回に譲ります。
乞うご期待ください。
