とことん「本質追求」コラム第719話 顧客文脈の把握が、業績向上につながる理由とは

前回、第718話では、顧客がまだ認識していない問題や、うまく言語化できていない痛点を引き出せた瞬間、商談は単なる条件交渉の場から、新たなソリューションを共創する場へと変わる、とお伝えしました。

新たなソリューションを共創できる関係ができれば、そもそも商談は「価格競争」や「条件交渉」に陥りにくくなります。

商談相手の課題を解決する代わりに、対価をいただくのですから、相手がその「対価」を納得し、気持ちよく支払ってくれる環境をいかに整えるか。

ここが経営における重要な分かれ道となります。
営業だけのテーマでありません。

多くの企業が、営業の腕力だけで売上を積み上げようと苦戦していますが、実はその手前にある「企画の精度」に、勝敗の 9 割が決まっていると言っても過言ではありません。

その企画の精度を高める「土台」となる高度なヒアリング技術について、お伝えしたいと思います。

本題に入る前に、クライアント企業の営業役員のAさんと会話した内容を共有させてください。

Aさんは、逆に自分が営業を受ける立場になったとき、目の前の営業マンたちのあまりにも惨憺(さんたん)たる能力の劣化に、愕然としたそうです。

ある営業マンは、冒頭から何の脈絡もなしに、「いま困っていることはありませんか?」と聞いてきたそうです。

空いた口が塞がりません。

見ず知らずの人が突然やってきて、「困っていることはありませんか?」と聞いて、答える人がいるでしょうか?
そもそも、どのような観点で質問されているのかも分かりません。

「いや、最近ウチの息子が反抗期になってみたいで…」と身の上話を相談しても良いのでしょうか?
そんな勢いでの対話をしようとしているのです。


Aさんとも、「これって、マニュアル至上主義の弊害なのでは?」と、苦笑いしながら話をしていましたが…

前提条件を考えずに、成功事例をなぞったりしても、同じ結果が得られないことは、少し考えを深めればわかるようなものです。


この「思考停止問題」は、もはや個人の資質というより、組織的な課題と捉える必要がきているようにも感じます

先週のコラムでもお伝えした通り、営業だけでなく、企画部門にも同じ課題が突きつけられるからです。

そもそも、なぜヒアリングが必要なのでしょうか?
答えはとてもシンプルです。

「顧客文脈の解像度」を高める必要があるからです。

顧客文脈とは、「顧客がどのような背景で、どのような不合理を感じ、それが解決されることでどの程度の経済的価値を生み出すか?」という構造的な真実のことです。 

この文脈を無視して、ただ「困りごとはありませんか?」と聞くのは、相手の事業構造に踏み込む覚悟がない、単なる「作業」でしかありません。 
商談相手は、こうした姿勢を敏感に察知し、「薄っぺらいな……」と興醒めしてしまうのです。

顧客文脈に意識を向けない営業活動は、いわば「博打」をしているようなものです。

それがうまくいくのは、私たちが提案する製品や技術を、買い手側が「たまたま」自分たちのメリットに変換できた時だけです。
つまり、顧客側の頭がキレキレで、こちらの提示した素材を自らベネフィット(便益)へ変換する能力を持っていた場合にのみ、商談が成立しているに過ぎないのです。


逆に失注した場合も、真の理由が理解できないまま終わってしまいます。
同じ過ちを何度も繰り返す、負のサイクルから抜け出せなくなるのです 。

私がサラリーマン時代、部下の営業マンに必ずこう聞いていました。

「今日の商談はどうだった?受注できると思う?」
すると多くは、「はい、決まると思います」と自信ありげに答えます。

しかし、「では、なぜ決まると思うのか?」と問い返すと、「いや…何となくです」という答えが自信なさげに返ってくる。

商談は、調印式になるまでどうなるか分かりません。
しかし、詰将棋のように、一手一手を論理的に積み上げていけば、受注確度は読み解けるはずなのです。


将棋で「何となく勝てそうです」と言う棋士はいません。
相手の王手に対し、どの駒がどう動くかを読み切っているからこそ、勝ち筋が見えるのです。


商談も同じです。

「この課題は顧客にとって本当に優先順位が高いのか」
「課題が示唆している見えない”問題”が隠れていないか」
「課題を解決した際の経済的な価値まで言語化できているか」

こういった「顧客文脈」が把握できてこそ、「勝ち筋」が見えてくるのです。

例えば、ベルトコンベアの駆動機を販売していた営業担当者が「省エネ率30%を実現できます」と説明したとします。その瞬間、相手が“なるほど”という表情で頷いた。
そんな場面を想像してみてください。

営業マンは、省エネが響いた!とと手応えを感じます。
そして多くの場合、そこでさらに説明を続けたり、表面的な質問によって、顧客文脈を探るチャンスを逃してしまうのです。

本来、確認すべきなのは「なぜ、頷いたのか?」という問いです。

他社の提案が省エネ率20%だったのかも知れません。
または、発熱低減による設備への負担が少なくなることを歓迎しているのかも知れません。
CO₂排出量削減目標が決められているのかも知れませんし、工場全体の電源容量の余裕を確保したいのかも知れません。

省エネというキーワードでなぜ、反応したのか?
その顧客文脈の解像度を高めることで、購入する理由が透けて見えてくるのです。

ここで営業マンの力量が試されるのが「ヒアリング技術」です。

相手が自覚しているテーマであろうが、自覚していないテーマであろうが、「顧客の文脈」を言語化させていく力です。

単に「どこにご関心をお持ちいただけましたか?」と聞くだけでは不十分です。
それでは相手は、「まあ、コストですかね」と無難な答えを返すだけでしょう。

重要なのは、相手の反応を具体的な現実(ファクト)を浮き彫りにする問いを投げることです。

例えば、
「現在の電力コストは、年間でどの程度インパクトがありますか?」
「直近で、設備トラブルによるライン停止はありましたか?」
「御社として、CO₂削減の数値目標は設定されていますか?」
「今後、ライン増設のご予定はありますか?」

という「仮説のボール」を投げかけてみるです。

この手続きを行うと、「なぜ頷いたのか?」という背景が見えてきます。

すると商談の空気が変わります。

「実は、昨年の夏にモーターが焼けてしまって…」
「本社から省エネの数値報告を求められているんです」
「新ラインを入れたいが、受電容量がギリギリで…」

などと、現実が見えてきた瞬間、商談はスペック比較から脱却して、“課題解決”の話になるのです。

ここまで到達すれば、営業は単なる製品説明者ではなく、課題解決のパートナーとして商談相手は認識してくれるようなります。

商品を販売してくる売り手ではなく、商品を通じて価値を提供してくれるパートナーとして位置づけられること…。

繰り返しになりますが、これは営業マンであっても、商品企画や技術提案をするエンジニアも同じ能力が求められています。

いえ、個人の能力にするだけでなく、組織的にこの「仮説のボール」を投げる文化を育成する必要があるのではないでしょうか?

御社には、組織として「顧客文脈」の解像度を高める「仮説のボール」は用意されていますか?