とことん「本質追求」コラム第722話 事業を伸ばす「組織的な痛点分析」

「前回のコラムで”痛みの総量”を測ることが大事だと書かれていましたが、イメージがつきにくかった。もう少し丁寧に解説してもらえますか?」

先日のコラムを読んだ読者さんから質問がありました。
確かにざっくりした内容だったので、詳しく解説していきたいと思います。

まず、「顧客はドリルを購入しているのではない、穴を購入しているのだ」……というマーケティングで有名な逸話を前提にしてお話ししたいと思います。
ドリルの逸話は、顧客は商品や技術そのものを購入しているのではない、その先にある「顧客ベネフィット」を購入しているのだということを、具体例を持ってイメージしやすく解説したものです。

大手企業の商品企画部門には、製品を開発する前に「ベネフィットを開発する」という制度フローが存在しています。
つまり「売りモノ」を作る前に、顧客はその製品を通じてどんなベネフィット……つまりメリットや利益を享受するのだろうか……と突き詰めていくわけです。

この顧客ベネフィットは、BtoCでは、かなり複雑な心理が働きます。

例えば、高級な腕時計を購入する人は、どのようなベネフィットを享受しようと考えているのでしょうか?
ある人は、資産価値としての投資とみているかも知れません。
また、ある人は、自己重要感を満たすためのツールとして購入しているのかも知れません。
他にも、機能美に魅了されて鑑賞する楽しみで購入している人もいれば、成功者としての自己優越感に浸るために購入している人もいるでしょう。

このように、同じ「高級腕時計」という一つの商品でも、購入者の数だけ異なるベネフィットが存在しているのです。

この顧客ベネフィットには、実は「ポジティブ側」と「ネガティブ側」の二つの軸があります。
ポジティブ側は、先ほどの腕時計の例のような「得たいもの・なりたい姿・手に入れたい感情」です。

一方、ネガティブ側というのが、「痛点(ペインポイント)」と総称されるもので、不満、不便、不快、不自由、不安……など、新しい価値を生み出すネタになる要素です。

BtoB(生産財)は、このネガティブ側のベネフィットで購入するケースが大半なので、比較的シンプルに捉えることが出来ます。
企業が求めるベネフィットは、基本的に経済合理性に基づくものだからです。

  • 手戻り、やり直し、確認作業
  • 不良、クレーム、再発防止
  • 段取り替え、待ち時間、停止
  • 監督者の張り付き、属人的な判断
  • 「また起きたらどうする」という不安
  • 誰が責任を取るのか、という緊張
  • 顧客への説明、社内稟議、監査対応
  • 持続的成長の足枷となっている「組織の問題」

などなど、これらの表面的な痛点を深掘りしていくと、最終的には『損益計算書(P/L)』か『貸借対照表(B/S)』に帰結しているわけです。

つまり、”痛みの総量”を測るとは、その痛みを解消することで、どの程度の経済的インパクトをもたらすか……を明らかにすることなのです。

具体的な例を挙げて、お話しましょう。

例えば、超軽量型の太陽光パネルを開発した企業が、住宅メーカーに「作業性の向上」を前面にPRして営業をしていたとしましょう。
しかし、住宅メーカー側が多少重たくても「痛点」だと感じていなければ、その営業活動は骨折り損のくたびれ儲けで終わってしまいます。

そこで「痛みの総量」という概念を用いてみます。

例えば、「軽い」という機能性が、相手先の組織にどのような好影響を及ぼすでしょうか?

  • 設置時間が大幅に短縮でき、短納期につながる。
  • 1日あたりの施工件数が1.5倍に増え、売上増につながる。
  • 重機の手配が不要になり、1件あたりの外注費が削減できる。
  • 腰痛などの労災リスクが激減し、若手や女性の採用・定着率が上がる。
  • 屋根への負荷が減り、古い物件のリノベーション提案という「新市場」が開ける。

このように「軽い」という事実を、相手の経営課題(損益計算書や組織課題)に変換して積み上げていく作業。これこそが「痛みの総量」を可視化するということです。

「第719話 顧客文脈の把握が、業績向上につながる理由とは」でお伝えした「仮説のボール」を投げるというお題目は、ここにつながっています。
「軽量化することで、設置時間は何分短縮できるのか?」
「本当に施工件数は増えるのか?」
「重機は不要になるのか?」
とヒアリングしたり、実際に確かめてもらうのです。
その結果、買い手が「あっ、本当だ!これはすごい!!」と言った瞬間に、確かな価値を実感し、購買意欲に火が灯るわけです。

商品企画にも、この営業目線、顧客目線が必要です。
単に「軽い!」だけでなく、作業性を高める工夫の余地はないか、手作業で高所まで持っていくための形状は、女性でも持てる取手のサイズは……。
顧客の購買動機を刺激する「機能性」を担保させていくのが、企画の仕事なのです。

日本アイ・オー・シーが「部門横断チーム」を強く推奨する理由はココにあります。
企画部門は、営業と共有した「痛点」を深掘りし、「痛点の総量計算」をしたり、同じような痛点を抱えている「市場」をラベリングして、売上規模を推定。
その結果をもって、リソース配分を決める必要があるのです。

痛点の総量を算出することは、部門の効率化や最適化といったテーマではなく、経営の最適化における重要テーマとなるのです。

営業と企画、そして技術や開発部門が、この価値基準と温度感を共有できれば、事業は面白いように伸びていきます。

御社は、部門横断チームを組織していますでしょうか?