とことん「本質追求」コラム第723話 AIを協働パートナーにする方法


「こう言っては失礼ですけど…藤冨さんの年齢から”AI”を駆使するってすごいですよね」

先日、クライアント企業の方から、褒め言葉なのか、貶されているのか分からない発言がありました(笑)。

おっしゃる通り、Podcast番組を聴いている方はご存知の通りですが、私はいま「AI(Claude Code)を使ったプログラム開発」に夢中になっています。

毎日のようにAIと対話しながらコードを書き、修正し、また書く。この繰り返しの中で、ふと気づいたことがあります。

現時点でのAIの最大の弱点は、「言語化されていない人間の世界」が見えていない……ということです。

AIは驚くほど正確にコードを生成し、論理的な回答を返してくれます。
しかし、「なぜこの機能が必要なのか」「誰がどんな場面で使うのか」という、人間の文脈…つまり現場のリアリティは、こちらが丁寧に言語化しなければ汲み取れないのです。

このアルゴリズム(※)を理解することは、今後ビジネスをしていく上で…いえ人間として生きていく上で非常に重要なテーマなので、共有したいと思います。
※アルゴリズとは、特定の目標や問題を解決するための「計算手順」や「処理のやり方」のこと

私が、2016年に「人工知能はなぜ未来を変えるのか」(松尾豊著)を読んだ直後、興奮しながら「第196話 人工知能が経営に与える影響を予測していますか?」というコラムを書いたことがあります。

同著の中で、私が最も「面白い!」と感じたのは、「ノイズ」という概念でした。

AIは当初、膨大なデータを一対一で記憶させる「機械学習」が主流だったそうです。
機械学習とは、馬の画像をコンピュータに与え、「これは”馬”です」というテキストで教え込むという、正解データをそのまま覚えさせるアルゴリズムです。

ところが、この構造には致命的な欠陥がありました。
学習データに固執しすぎる「過学習」という概念です。
少し画像がぼやけたり、背景が変わったりするだけで、正解を出せなくなる…その結果、AIは長い間「使い物にならない」と無能扱いされていたのです。

ところが、あるとき革命的な転換が起きます。
「ノイズ」…つまり不完全なデータを与え、その空白を埋める「推論」という能力をAIに獲得させたという、新しい視点をヨシュア・ベンジオやジェフリー・ヒントンといった研究者たちがAIに埋め込んだのです。

これによって、完璧なデータを覚えることをやめたAIは、飛躍的に能力を向上させました…と同書には書かれていました。

私が興味深いと感じたのでは、人間も、不完全な情報の中から文脈を読み取り、空白を「推論」で埋めることで世界を認識している点です。

ビジネスの視点で、掘り下げてみるとイメージしやすいと思います。

ビジネスの世界では、不完全なデータ(ノイズ)ばかりです。
・この商品が売れている本当の理由は何か?
・なぜ、売れないのか?
・顧客は本当は何に困っているのか?


こうした問いに対して、完璧なデータが揃うことなど、まずありません。

見えない理由、言語化されていない顧客の痛み、数字の裏側にある文脈…。
まさに「ノイズだらけ」の世界です。

ところが、多くの企業では、この「ノイズ」に対して「正しい答え」を求めようとします。
売上データを集計し、顧客アンケートを数値化し、競合のシェアをグラフにする。
データは揃った…がしかし、それだけでは売れる理由も、売れない原因も、本質的には見えてこないのです。

なぜなら、データの裏側にある「人間の文脈」…すなわち、顧客がどんな場面で、何を感じ、どう行動しているかは、数字には映らないからです。

ここで重要になるのが、「アタリをつける力」です。

完璧なデータがない中で、「本質的にはここに困っているので無いか?」「ピントがずれている理由は、ここにあるのでは無いか?」と想像する力。

いわば、ノイズの中から仮説の種を見つけ出す、人間ならではの直感と洞察です。

そして、ここからがAI時代の真骨頂です。

人間が「アタリ」をつけたら、その仮説をAIに投げる。
AIは膨大なデータと推論能力を駆使して、その仮説を緻密に検証し、構造化してくれます。

「この仮説が正しいとすれば、こういうデータの傾向が見られるはずです」「逆に、こういう反証データもあります」と。

しかし、ここで「なるほど」と人間側が思考停止してはいけません。
AIが返してきた検証結果に対して、人間が再び深掘りする。
「なるほど、反証データがあるのか。では、こういう切り口で見たらどうか?」と、仮説のレベルを一段昇華させて、再びAIに問いかける。
すると、AIは、人間側の知的能力を踏まえた上で、さらに高度な仮説を組み上げてくれる。

つまり、

・人間が、現場のノイズから「アタリ」をつける
 ↓
・AIが、そのアタリを起点に緻密な仮説を構築する
 ↓
・人間が、AIの仮説に対して深掘りし、問いの精度を上げる
 ↓
・AIが、昇華された問いに応じて、さらに高度な仮説を返す

 ↓
・そして、現場で検証し、結果をAIに学習させる。
 

このサイクルを回していくことで、仮説の解像度は飛躍的に上がっていくのです。

ドラッカーが「顧客の創造」と呼んだものの本質も、ここにあると私は考えます。
まだ見えていない顧客の文脈を「推論」し、新しい価値を創り出すこと。

かつては、この営みをすべて人間の頭脳だけで行う必要がありました。
しかし今、AIという強力な「推論パートナー」を得たことで、私たちはこれまで到達できなかった仮説の高みにまで登れる可能性が開けているのです。

ただし、ここで見落としてはならないことがあります。

このサイクルの起点は、あくまで「人間のアタリ」です。
現場に足を運び、顧客の表情を読み、言葉にならない不満を感じ取る。

この一次情報に触れる力だけは、どれだけAIが進化しても、人間にしかできません。

日本アイ・オー・シーが一貫して「一次情報の収集」を重視し、現場起点の仮説構築を推奨してきた理由は、まさにここにあります。

AIは、ノイズから推論する能力で飛躍しました。
しかし、そのノイズそのもの「現場の生々しいリアリティ」を拾い上げ、「アタリ」に変換できるのは、人間だけです。

御社は、AIを協働パートナーとして組織的に活用していますか?