とことん「本質追求」コラム第65話 戦略なきリーダーはA級戦犯

※今回のコラムは複数の方からご抗議を頂きました。
不愉快な思いをさせてしまった方には、改めてお詫び申し上げます。
なお、今回のコラムにつき、藤冨なりの見解を明記致します。
合わせてお読み頂けますと幸いです。【号外】A級戦犯という表現について…

■今回のコラム■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ここ数年、利益が取れなくなってきているんです。このまま行くと…」

以前、個別相談で伺った事ですが、同社の業界は完全に成熟期に突入しており、売上は一生懸命頑張っても微増傾向。ところが粗利益は、値引き合戦の商談が多くなり、低減傾向が続いた末に経常利益を圧迫し始めているとの事でした。

損益計算書を見るとわかりますが、役員報酬、給与、広告宣伝費など「売上を作るための虎の子」は、全てこの粗利益が原資になっています。 
車両費、事務用品費など会社を維持するための原資も全て粗利益です。

粗利益が取れない事業を放置することは、会社の維持発展に目を背けたも同然です。

後日、気になってご相談を受けた会社のホームページや競合他社と思われるホームページをチェックしました。 
ホームページだけでは断言できませんが、表面的に見る限りは、どの会社も似たり寄ったり…。特徴と言える特徴には、ほとんど「差」がありませんでした。

これは、いわゆる「コモデティティー化」と呼ばれる現象です。

商売とは「差」で”儲け”が決まります。 

顧客が受け取る価値に「差」がなくなれば、価格で「差」をつけるしかありません。 
「価格競争」と言われる、粗利益を無視した消耗戦への突入です。 
一度、このドツボに陥った市場は、iPhoneのように衝撃的な再発明を市場投入しない限り、ずっと消耗戦に耐え続けなければなりません。

シェアや利益率などの「比率」は変わっても、「構造」は変わらないのです。

従って、事業として捉えると、コモデティティー化した業界からは、優秀な社員を引き抜き、資金投下も現状維持に務め、惰性で利益を確保していくよう体制を整える必要があります。 
そして、優秀な社員と投下資金は、次なる事業の柱に集中させていくことが賢明な経営判断となります。

皆さんの記憶にも残っていると思いますが、パソコン事業で一時トップシェアを取っていたIBMは、もっと大胆な経営判断を断行しました。

「コモデティティー化した市場からは撤退すべき」という強い決意のもと、2004年にレノボにパソコン事業をまるごと売却したのです。 

驚くことに、5年後の2009年には売上高は1%減だったものの、最終利益でなんと141%増にもなっています。

利益の取れない市場を見極めることの大切さを、この数字からも読み取ることができるわけですが…

日本人の性質から見ると、なかなかこのような大胆な行動は取れません。

だから、惰性で続けても良いけど、優秀な社員や虎の子となる資金は、自社の次なる事業の柱となる「新規分野」に注いで行く必要があると提言しているのです。

何度も言いますが、商売は「差」でしか、儲けることは出来ません。

広告宣伝で頭脳戦に持ち込み「差」つけるとか、研究開発費を投じて、売上の元ネタとなる「商品やサービス」に「差」をつけることが重要です。

高度成長期時代なら、営業マンなどの「人件費」に資金を投下して「差」をつけることもできたでしょう。 

しかし、低成長期時代に加えて、ネットの普及で”営業マンが持つ情報に貴重性が薄くなった”現代では、営業マンにいくら資金を投下しても、投下資金を回収できにくくなっています。

「差」は、経営者や経営幹部が「企画力」を持って、立ち向かうべき時代なのです。 
今や、現場レベルで「差」をつけようとするのは、トップ層の怠慢以外の何者でもありません。

苦言を呈すようですが、先週の終戦記念日に靖国神社でお参りをして、私は改めてトップ層のリーダーシップのあり方について考えさせられました。

当時の日本国のリーダーが客観的な状況判断と戦略づくりが出来ていれば、無残な戦死者はあれほどにはならなかったと思うのです。

零戦の戦闘レベルは、極めて高かったと聞きます。

営業の現場も一緒です。 
個々の営業マンがどれだけ強くても、最終的な勝利を勝つとることは出来ないのです。

一商談、一商談の結果に一喜一憂していると、戦略負けした当時の日本軍と同じ運命をたどる事になります。

「差」は、上層部…つまり経営者および経営幹部が作るべきなのです。 
竹槍でB29を突き落とそうと賢明に訓練させたり、未来のある若者を特攻機で死なせたりしなくて済むように、「勝てる策」を企てる必要があるのです。

クライアントさんを見ていていつも思うことですが… 
儲かっている会社は、やはり「勝てる策」をじっくりと練り出し、競争軸を外す「差」を経営者や経営幹部がしっかりと見極めているものなのです。