とことん「本質追求」コラム第495話 社長の仕事は「成長ポテンシャル」を引き出す「選択」をすること

 

「社長の仕事は、方法論を考えることではなく、方法論を選択することです… おっしゃる通りですね。これで経営に専念できます」

 

先日、プロジェクトが始まったばかりのクライアント企業の社長から、「これで成長できる!という実感を得られた」と頼もしい言葉が返ってきました。

 

同社は、新規事業が思う様に立ち上がらず、どうしたものかと考えあぐねていたところ、本年6月に藤冨が発信したコラム「第473話 新商品戦略を確実に成功させる「テスト・セールス」とは」(https://www.j-ioc.com/wp2024/column/9294/)を読んで、門を叩いてきてくれました。

 

部品メーカーであった同社は、営業部門がなく社長と息子の専務が顧客窓口を担当。

あとは、製造部門と経理などのバックオフィス部門だけという組織体制でした。

 

攻める営業をしたことがないので、コロナによって、受注が低迷しても指をくわえて待つだけ。

打ち手は考え、実行できずに業績低迷に甘んじる現状に嫌気がさし、清水の舞台から飛び降りる覚悟で新規事業に乗り出していました。

 

同社は、初めてB to C向けの商売をするから全てが手探り状態…という状況でした。

正直、ホームページを拝見しただけでは、95%成功しないだろう…と落胆せざるを得ない内容。

 

ところが…です。

 

この新商品を開発しようとした背景。

商品の生産工程における技術。

商品の持つ特徴と機能。

 

を訥々(とつとつ)と語る社長の話を聞くにつれて「これはイケる!」と感じてきました。

 

・商品の持つ特徴だけでは、顧客メリットがイメージできなかったこと

・想定していた使用場面より、もっと顧客メリットが享受できる「使用場面」があったこと

・その使用場面で商品をアピールするなら、想定ターゲットが異なっていたこと

 

など、商品の持つ「普及潜在力」が十分に活かしきれていない「営業戦略」だったのです。

 

秘守義務があるので、ここでは詳細をお伝えすることはできませんが、別な事例を持って具体的なイメージをお伝えします。

 

「海苔切りハサミ」って、ご存知ですか?

 

知らない方がほとんどだと思います。

でも、「シュレッダーハサミ」なら、ご存知ですよね?

 

この「シュレッダーハサミ」は、元々「海苔切りハサミ」として開発された商品でした。

 

たらこスパゲティーの上に細く刻まれた「海苔」が飾られていますが、あの「細い海苔」を切るために開発されていました。

 

しかし、ターゲットを「プロの料理人」とすると”あの太さ”では使い物にならないばかりか、出刃包丁で切った方が圧倒的に早いので、購入されることはほぼありません。

 

ターゲットを主婦にしてみても、そもそも料理にそこまでこだわらない人や、市販で売っている刻み海苔を買った方が便利、という人の方が圧倒的な大多数です。

 

滅多に食卓に登場しない「刻み海苔」を使った料理のために、ハサミが何重にも重なって引き出しを占領してしまう道具を購入するのは、ムダな買い物?

と連想されてしまうような、非常に限られた「需要」に対応した商品だったのです。

 

ところが、この「海苔切りハサミ」を使って、書類を切っている…というユーザーの声が上がってきました。

 

こう言った貴重な「声」をスルーしてしまうケースが非常に多いのですが、ユーザーの具体的な「利用場面」や「利用している背景」というのは、貴重な販売チャンスが包含されていることが多々あります。

 

藤冨が、コンサルティングの際に、クライアント企業の顧客に出向くのも、その「販売チャンス」を探るためにあります。

 

会社にシュレッダーはあるけど、わざわざ席を立ってまでいく「量」ではない。

もっと手軽にスピーディーに雑務処理したい…。

結果、こなせる仕事量は上がり、上司や周りの仲間からも頼りにされる。

さらに、その結果自己承認欲求が満たされる可能性があるとすれば、「強い欲求」に根ざした商品コンセプトと捉えることができます。

 

「薄くて柔らかいものを細く切る」という「機能」を、誰のための何のための商品に仕立て上げるか。

 

「海苔切りハサミ」は、「シュレッダーハサミ」として、ネーミングを変え、販路を変えて、売り出したところ、年間100万本のヒット商品に変貌しました。

 

単価1500円だとしても、15億円の売上高です。

下代、50%で流通させても、メーカー売上は7億円にもなります。

 

 

藤冨は企業には、2種類のパターンがあると感じています。

 

「マーケット視点の企業」と「技術視点の企業」です。

 

マーケット視点は、どの様なビジネスが儲かるか…が出発点になっている企業。

技術視点は、この技術を使って「何ものかを作り出す」…が出発点になっている企業です。

 

経営の神様「ドラッカー流」に言えば、顧客視点に立てない企業はダメ出しされますが、藤冨は理系出身の社長と話すたびに感じることがあります。

 

社長一人で売り物から売るための方法論まで、全ての方針を決定する必要はないと。

中小企業の社長は、全てを決定したがる人が多いですが、それでは「売上拡大チャンス」を自ら狭めてしまう様なものです。

 

技術を極めることは、とても大事。

そして、その技術を使って、何かの特徴ある商品を構想することも大事です。

 

洗練された技術から、世にない機能を持った商品を生み出すことは、イノベーションを巻き起こす可能性が高いです。

 

その発明された「機能」が、誰にとって何のメリットがあるのか?

 

あらゆる「視点」からその機能を眺めることで、売上拡大チャンスの高い「市場(ターゲット)」と「利用場面」が発見できます。

 

社長の仕事は、複数想定される「ターゲット」と「利用場面」から鑑みて、どの市場に絞って営業戦略を展開していくかを『選択』することです。

 

そこから「ネーミング」「価格」「流通経路」「PR方法」「営業戦術」などが決定されていきます。

 

ネーミングも価格も、流通経路などなども、専門知識を持ったプロがいます。

専門家の意見を丸呑みにする必要はありませんが、「視点」と「視野」だけを吸収した方が、売上拡大チャンスを発掘することはできます。

 

しつこい様ですが、社長の仕事は「選択」することです。

 

自分一人で考えてしまっては、成長ポテンシャル引き出すことができません。

 

御社は事業成長の可能性を「高い視座」と「広い視野」で見つめる体制づくりを心がけていますでしょうか?