とことん「本質追求」コラム​​第541話 営業トークから逆算する「商品開発」のススメ

 

「顧客ニーズにマッチした商品を開発しろ!と言われているのですが、どうやったら顧客ニーズにマッチできるのか…雲を掴むような指示を言われているので、学びにきました」

 

 

先週の火曜日、日刊工業新聞社が主催している「自社製品が面白いほど売れる〈独壇市場の構築法〉」セミナーを実施した際に、受講者のAさんが言った参加目的。

 

雲を掴むような指示…と、表現されていたのは、なかなか的を射た表現で、思わず膝を叩いてしまいました。

 

・確かな存在があるように見えて、近寄ってみると気体のように存在しない顧客ニーズ

・常に形を変え、捉え所がない顧客ニーズ

 

確かに、「顧客ニーズをつかめ!」という指示は、雲を掴むようなものです。

きっと、上司も具体的なアプローチを知らないから、具体的な指示が出せないのでしょう。

 

これは、Aさんの会社だけではありません。

意外にも多くの企業では、「顧客ニーズに合致した商品を生み出すプロセス」が個人の力量に委ねられているのです。

 

これでは、生産性が向上しないは、ある意味アタリマエです。

日本の製造業は、生産現場での労働投入量が減少し、効率的になっているために、サービス業などの他の産業と比較して、世界的にみても、そこそこ高い生産性を確保しています。

 しかし、付加価値の高い商品を作りだす… という最も直接的に「生産性の向上」につながる全社的アプローチは、脆弱だと言わざるを得ません。

 

・粗利益率の高い商品開発

・営業マンの労働投入量が抑制しても、売上が伸び続ける「売れる商品開発」

 

この必要性が、今こそ求められていることを、先週のセミナーでヒシヒシと感じました。

 

なので、今日のコラムでは実践的に、どうやったら「雲を掴むような商品開発」から脱却し、「地に足のついた商品開発」の体制が作れるか?

 

掘り下げて言語化してみたいと思います。

 

 

「顧客ニーズ」正確には、顧客の欲求と表現したいのですが、これをうけたまには、顧客が抱える「不」の要素に着眼することが大事です。

 

なんだ、よくある話か… とページを閉じないでください。

最後まで読むと、机上でのよくある話ではなく、極めて実践的に落とし込まれていますので、最後までお付き合いください。

 

不の要素とは、消費生活者や企業活動において、満たされていない欲望や願望、期待などをいいます。

 

具体的には…

 

・「不満」 :作業が辛い 余計なコストが発生

・「不自由」:時間が拘束される 工具が限定される 

・「不便」 :作業工数が多い 手間暇がかかる

・「不足」 :一部の情報が手入力になる

 

などなど、他にもまだまだたくさんの「不の要素」がありますが…

 

この「不」を解消することで、買い手の満足度が向上する商品は「営業しやすい商品」になります。

 

ところが、法人営業の場合は、単に「不の要素」だけに着眼しても、顧客ニーズ(顧客の欲求)には辿りつきません。

受講生のAさんも、これを知らずに、まさに地獄の釜を覗く可能性が高い道を歩もうとしていました。

 

Aさんは、肉体労働を伴う職場環境で、当社製品を使えば「疲れない」という”とある商材”を製品化しようと企画していました。

コンシューマ向けの商品(BtoC)ではなく、法人向け商品(BtoB)としての販売です。

ただ、上司がなかなかGOサインを出さないとのこと。

どうやって説得したら良いか? と相談してきました。

 

残念ながら、私も「それは売れないのでは?」と、悶々としました。

 

理由は簡単です。

パンチ力のある「営業トーク」が、どうやっても思いつかなかったからです。

 

Aさんは、さらに突っ込んできました。

「疲れない!というエビデンスがあれば、売れるでしょうか?例えば、導入する前と、導入後の乳酸値を計測するとか…」と。

 

なるほど、確かにエビデンスは必要です。

しかし、エビデンスというのは「欲しい・買いたい!」と情動が高まった後に、要求される要素です。

「それ購入したいけど、本当なの?」という信用を獲得するためのコンテンツなのです。

 

これは「購買心理プロセス」を整理すると分かります。

 

欲しい・買いたい → でも、本当に効果あるの? → どうしよう…他に良い商品があるかも

と、購買心理は遷移していきます。

 

なので、まずは「この疲れない商品」のプレゼンを聞いて、「欲しい!買いたい!」というモチベーションを高めるコンテンツを作り込むことが先決。
つまり、営業トークをクリアにしないと、売れるか売れないかの判断が付かないわけです。

 

Aさんの企画は、法人向けに「社員やパート・アルバイトが疲れない労働環境」というコンセプトを提案しようとしています。

決済者は、大企業なら総務部長になるでしょうか。中小企業なら役員か社長が出てきて、そのコンセプトの魅力を判断し、購入するか否かの意思決定をするでしょう。

  

このとき「疲れない労働環境」を会社が提供することによって、会社側がどんなメリットが享受できるのか?

会社がお金を払うのですから、ここを明確にプレゼンする必要があります。

 

作業環境の改善によって…

・生産量が増加するのか?

・離職率の高い職場では、離職率が改善されるのか?

・働きやすい職場と評価されることで、人材募集に良い影響を与えるのか?

 

などなど、明確にすることで、法人担当者は食いついてきます。

営業トークの冴えない商品は、売れません。

そんなのは、商品の企画時点…つまり開発する前にわかるはずです。

 

商品を作る前に、営業トークを作り込む。

 

このなんてことないプロセスを「商品の企画開発体制」に組み込むだけで、着実に生産性が高まっていきます。

 

御社は、モノを作ってから営業活動をしていますか?

それとも、営業トークを作り込んでから、モノづくりをスタートしていますか?