とことん「本質追求」コラム第549話 ​​戦略なくして、社員は動かない。

 

「社員に経営感覚がなくて、困ってます。全員指示待ち人間ばかりで…自主的に動ける社員を育成したいので、研修をお願いできませんか?」

 

日、とある企業の経営者から、自主的に動ける社員を育成する研修をしてほしい、との依頼を受けました。 

「えっ?自主的に考え、動ける人材の育成???」

全くもって理解できなかったので、オンライン会議で「研修を依頼しようとしている”背景”や”現況と理想の姿”」を伺ったのですが…。

まるで、頓珍漢な依頼だったので「残念ながら、そのような研修は行っていません」と、お断りをしました。

そもそも論で考えても、自主的にビジネスを組み立て、実行できるだけの能力のある人材が、サラリーマンを続けるでしょうか?

 ・会社にネームバリューがあり、そこに所属することで自尊心が高まる場合

・有能な社員のマインドがリスクに対して敏感で、独立の勇気がでない場合

は別ですが…後者においても、他力本願の経営者には見切りをつけ、転職するのがオチ。

結論、中小企業においては、社員に経営感覚を求め、自主的に現状打破策を考え、実行をする淡い期待など、持たない方が健全です。

 もちろん、解決策が皆無な訳ではありません。

唯一の解決策は、社長並の高額報酬で、右腕を雇用すれば、社内に自主的に考える人材を確保できる可能性があります。

 

 と、話をしたところ、「色々と研修会社にも当たったのですが、ピンとくる提案がこないのです。(藤冨の)コラムを毎週読んでいて、きっと先生なら何かしら考案してくれるのでは?と思っています。何とか相談に乗ってもらえないでしょうか?」と食い下がってこられたので、スポットコンサルティングに切り替えて、現況とあるべき姿を”経営面”から深掘りしてみると…

案の定、社長の仕事を社員に丸投げしようとしていたのです。

同社は、コロナ以降毎年5%程度の業績ダウンが続いているとのこと。

一気にドカンと業績が下がれば、必死にならざるを得ませんが、真綿で首を絞められるような微減が続くと、まるで茹でガエルのような状態になってしまうのでしょう。

社員の危機意識が低いと評価する社長ご自身の危機感も希薄なのですから、気がついたら会社が飛んでた…とならない保証はありません。

実際、5%の減収と言っても4年も続けば15%減。

コロナ前でも営業利益率が7〜8%だとおっしゃっていたので、確実な一手を打つ必要があるのは火を見るとより明らかです。

その状況を、社員に考えてもらうための研修をする?
ハッキリ言って、お門違いも甚だしいと言わざるを得ません。

その証拠に、同社の現状を踏まえた上での打開策の仮説をつくり社長に投げて、こう尋ねてみました。

 一つは、●社のような企業と業務提携することで、両社のシナジーが働くような収益モデルを構築すること。

もう一つは、営業部門に頼らずにWEBサイトから見込客を集め、技術部門に直接ヒアリングできるような体制を整えること。

それと…

 と、需要と供給の構造をネットで分析しながら、お伝えすると、社長もご納得の様子。

なので、続けてお伝えしたのです。

 

「アライアンスや、営業部門を頼らずに売る仕組みを作ることなど、社員が主導できますか?」と。

そして、矢継ぎ早に、アライアンス契約時の仕切り値、取引条件、サポートに必要な人的資源など、社長は権限を移譲しているのでしょうか?突っ込んでみると…

 

「ご指摘いただき初めて気づきました。事業の方針を考え、決めるのは、私の仕事ですね」と。

 そうなのです。

事業の再定義や方向転換などの意思決定は、基本的に社長をはじめとする経営陣で決定されています。

現状を打破し、収益構造そのものを見直すためには、投資、人材の再配置、シナジー効果の働く事業提携など、一社員の権限を遥かに超える構想と決定が必要なはず。

与えられた業務を逸脱すると叱られるのに、都合の良い時だけ、業務範囲を超えて考えろ!とは、冷静に考えれば、虫の良すぎる話です。

5000社を超える企業を指導し、多くの赤字企業を立て直した。社長専門の経営コンサルタントの第一人者である一倉定先生も「事業というのは、やり方の上手下手で運命が決まるものではない。決定によって運命が決まる。決定は社長。実施は社員の役割である。(社員に)任せるのは、実施であって、決定ではない」と喝破しています。

しかし、世の中は本当に危ない誘惑で満ち溢れています。

仮に、研修会社が「自主的に考える社員を育成するプログラム」を提案し、それを社長が受け入れてしまっていたとしたら…

社員からすれば、業務時間中に意味不明な講義を受け、社長は、講義を受けさせたのにウチの社員はまだ変わらない…と憤り、嫌な空気を感じた社員は、LINEグループで、「ウチの会社大丈夫か?w」と社長を軽蔑してしまう…という魔のスパイラルに陥ってしまうことは容易に想像がつきます。 

これでは、経営改革など、実現できるはずがありません。

会社の方針、進むべき道となる「戦略」を決定するのは、社長をはじめとした経営陣の仕事。

戦略があって、初めてそれを遂行するための「やるべき仕事(実施)」が、浮き彫りになっていくのです。

御社には、社員が自ら実施を生み出せる明確な戦略を社内に提示できていますでしょうか?