とことん「本質追求」コラム第558話 営業部門の意見は、なぜ会社の戦略に反映されないのか?

 

「”顧客の声”と”市場の声”の違いがよく理解できませんでした。もう少し詳しく解説して下さい」

先日、日刊工業新聞社主催のセミナーには、たくさんの方にお集まり頂きまして、心より感謝申し上げます。

さて、セミナー終了後にご質問を頂いた表題のご質問ですが、時間の都合上、簡潔な回答で終えてしまったので、この場を借りて改めてご回答させて頂きます。

とても重要なポイントとなるので、ぜひコラムの読者の皆様にもシェアさせて頂きます。

そもそも、なぜ”顧客の声”と”市場の声”の相違点をお伝えしたかったのか。
その背景を具体的な事例を持ってお話したいと思います。

数年前のことですが、プラントに組み込む「部品メーカー」のコンサルティングをした時のことです。

依頼主は、二代目社長と生産部門出身の取締役。
依頼の主旨は「営業部門が受け身体制で、攻めの営業を忘れてしまっている。波及営業を取り入れて、攻めの体制を取り戻したい!」とのことでした。

なぜ、攻めの営業を忘れてしまったのだろうか。
薄々の仮説を抱きながら、現場に行くと…案の定。

営業現場から経営層や生産部門に対して、不満の嵐。
会社を発展させよう!と言う意識は毛頭なく、その場しのぎの刹那的な姿勢で仕事に取り組んでいたのです。

これじゃ、攻めもクソもありません。
まずは、信頼関係の修復が先決です。

現場のヒアリングと商談現場の動向・観察を経て、社長と役員に「お断り」を前提に、会議の場をセッティングしてもらいました。

なぜ「お断り」を前提にしたのか。
それは、営業現場の重要な意見を、門前払いしていたからです。

もちろんそれにも理由があるはずです。
理由を聞き、それでもお話にならなければ「コンサルティングを中止」するつもりでした。

営業現場の重要な意見とは「部品の製造時に、メーカー名と型番が消えないよう刻印してほしい」との製造部門に対する依頼でした。

刻印したい理由を聞くと、現状のシールでは経年劣化でハゲてしまい、見えなくなってしまう事件があったとのこと。

事件というと大袈裟ですが、営業現場にとっては大問題!

実は、納入先の部品が稼働不調に陥った際、どこに連絡して良いか分からずに競合他社から同じような部品を調達してしまったという、非常に残念な出来事があったのです。

たまたま地方出張で、取引先周りを入れた営業担当者が同社に訪れると…

「あーあの部品は、御社のものだったのか。実は10年経って調子が悪くなってきたら、他社の部品に入れ替えたけど…以前のような性能が出なくて困っているんだよ。もうちょっと早く来てくれれば良かったのに…」と、残念がっていたとのこと。

当然ながら…一番落胆したのは、出張先で足を伸ばして真面目に表敬訪問していた営業担当者の方です。

会社に戻って報告すると「売れない理由を会社のせいにするな!もっとこまめにフォローしていれば良いだけの話だろ!」と部品にメーカー名と型番を刻印するアイデアを問答無用で却下。

結果、日頃の小さな不満が営業部門内で爆発し、静かなるボイコットが始まった、という顛末があったのです…と藤冨に不貞腐れてきたのです

この事件を振り返ると、経営陣、営業部門双方に問題点が存在します。

経営陣は、業績不振の原因を、近視眼的に営業部門の責任であると決め付けていること

営業部門の問題は、部品にメーカー名と型番を刻印すべきだ!と対応策を限定したことにあります。

もちろん、対策を限定したとしても、経営陣の器が大きければ「なぜ刻印なの?そもそも何故、刻印が必要だと思ったの?刻印以外の対応策はないの?」と営業現場にボールを投げ返せば良いだけの話ですが…

双方歩み寄る…という姿勢が同社には必要だと感じ、お互いにボールを投げてみたのです。

まず、現在はスマホ・インターネットの時代である…という大前提を、50代以上の経営者は脊髄まで浸透させる必要があります。

・部品の調子が悪い

・点検時に、メーカー名、型番を見つける

・問い合わせをする!

という流れは、誰にでもイメージできる至極当然の行動パターンです。

ここを否定するようであれば、ビジネスの現場から引退して、どうかご隠居生活をして下さい。

で、当然の行動パターンだと認識するならば、部品に「問い合わせ先」となる情報が経年劣化しないようにする対策を打つのは当然のこと。

何故、否定する必要があるのか?
ハッキリ言いますが、経営者と製造現場の怠慢以外にありません。

当時もぶっちゃけ言いました。
すると「いえ、先生ね。営業現場はやるべきことをやらないんですよ…」と話をはぐらかしてきました。

この会話で、このご縁は無かったことに…と、覚悟し「それとこれとは別問題です。分けて考えなきゃ、前にすすみません。やるんですか?やらないんですか?」と迫ると、「それは必要だと認識はしていました。すぐに対応策を実行します」と約束してくれたのです。

この言質を持ち帰り、営業部門と個別に面談。

営業部門には「市場の声を聞かない会社は、衰退する。しかし、この件に関しては、どうやら経営陣は”顧客の声”だと勘違いしたよう。だから却下になったので、次回からはこちらも気をつけましょう」と説得。

顧客の声を、会社にフィードバックする際は、子供みたいにそのまま進言しないこと。こういった現状があるが、本質的な問題は●●にある。対策案は、複数あるので、実現可能な案を協議したい」と伝えるべきですよ、というと素直に聞いてくれて、和解の土壌が出来上がりました。

「顧客の声」とは、その顧客特有の前提条件だったり、特有の要望のこと。

「市場の声」とは、何かの問題が起きる前提条件が、他の人や企業にも存在していること。

つまり、顧客の声に対応するのは、カスタマイズ対応であり、企業の生産性を阻害する要因の一つとなり得る可能性が出てきます。

しかし、市場の声に対応することは、PMF(プロダクトマーケットフィット)と呼び、プロダクトアウト型のマーケットイン 商材を作り出すヒントを与えてくれます

同社は、その後毎年110〜120%の売上増加を継続させ、当時と比較し新規顧客比率が40%以上になったと報告してくれています。
これは、部品メーカーにとっては、驚異的な数字です。

市場の声に対応する企業は、必ず伸びます!

御社は、市場の声に真摯に対応できる仕組みを確立していますか?