とことん「本質追求」コラム第559話 カスタマイズ対応が、生産性向上の阻害要因となるたった一つの理由とは

「カスタマイズ対応は、企業の生産性を阻害する要因となる…と言っていましたが、当社の主たる事業は受注生産です。個別対応の方が無駄な商品開発がなくなるので、生産性が高まるように感じます。その点はいかがお考えでしょうか?」

先週のコラム(第558話 営業部門の意見は、なぜ会社の戦略に反映されないのか?)を読まれた読者さんからご質問のメールを頂きました。

誤解がないように補足しますが、藤冨は、受託生産企業の存在価値について、否定的な立場にはありません。
ご質問者の方が言うとおり、個別対応による受注は、売れない商品開発をしなくて良いと言うのも、その通りだと思います。

しかし、生産性という概念は、何を「前提」とするのか…
ここをしっかりと定義しないと、議論が噛み合わなくなります。

売れない商品を開発せずに済む=生産性が高い

と、製品開発だけを前提にした生産性向上策は、視野狭窄と言わざるを得ないと藤冨は考えます。

そもそも生産性とは、アウトプット÷インプット=生産性 の公式で表されます。

ご質問された方は、この公式に対して、以下のような理解をされています。
1受注当たりの売上高÷受注に対する製品開発のリソース総量(人材投入+資材費等)…

なるほど、確かにこの公式上で計算すれば、生産性が高いと判断できます。

では、もう少し視野を広げて考えてみましょう。
アウトプットを売上総利益と定義します。
インプットをPL(損益計算書)上の販売管理費(人件費を含む全ての経費)と定義します。
生産性を高めるには「売上総利益の向上」または「販売管理費の削減」しかありません。

こう捉えると受託生産企業は、生産性を高めるための努力ができますでしょうか?

もっと平たくして問題提起をします。
受注生産で、粗利益(売上総利益)を向上させることができるでしょうか?

もし、粗利益の決定権を、他社が握っているのであれば、生産性向上策には限界があります。
残るは、人件費を含む販売管理費を抑圧するしかないからです。
社員の給与を上げろ!という社会的機運が高まる中、流れに逆らって経営するのは、それこそ心労が絶えません。

となると、本質的に生産性を高める理想の姿は1つだけ。
粗利益の決定権を、自社で握るスタイルの確立しかありません。

方法は、大きく分けて2つあります。
一つ目は、自社商品を企画開発し、見込客の発掘→セールスを行う方法。
二つ目は、受託生産であっても、プロダクトアウト型の提案スタイルでセールスを行う方法です。

いずれにしても、商品の企画力を自社に蓄えることで、粗利益の決定権を自社で握ることが大事なのです。

無駄な商品開発が嫌なら、仕事の流れを見直せば良いだけの話です。
一つ目の、自社商品を市場に売り込むスタイルであっても、企画段階で、同時並行的に営業活動を行うことで、的外れな商品の企画開発を抑止することが可能になります。
詳しくは以下のコラムを合わせてご覧ください。

第473話 新商品戦略を確実に成功させる「テスト・セールス」とは_前編
https://www.j-ioc.com/wp2024/column/9294/

第473話 新商品戦略を確実に成功させる「テスト・セールス」とは_後編
https://www.j-ioc.com/wp2024/column/9379/

また、二つ目の受託生産であっても、プロダクトアウト型の提案スタイルでセールスを行う方法は、下請け企業であっても取り組みやすいとなります。

具体的には、この素材や部品は、こんな業界には歓迎されるはずだ… という発想を持って、提案営業する方法です。
できれば、素材や部品を二次加工や、ユニット化された部品や製品に仕上げて、提案することで、さらに粗利決定権を高める提案ができるようになります。

イメージとしては、自動車メーカーに部品を提供するデンソー やアイシンのスタイルです。
トヨタからの仕様書に基づいて、そのまま部品を作る奴隷型受託産業ではなく、自動駐車システムや足の動作で開閉できるトランク開閉システムを作り込み、こんな部品があったら最終顧客は喜ぶはずだ!という提案をしていくスタイルです。

相手(顧客)からの仕様書発注は、横展開営業できませんが、自らの企画であれば、問題ありません。
粗利決定権も横展開営業の自由度も高まります。

結果、生産性の因数であるアウトプット…つまり「売上総利益」が増加するので、もう一つの因数であるインプット…つまり「人件費を含む販管費」を無駄に抑圧しなくても、生産性の向上を実現できるようになります。

もちろん、完全オートメーション工場によって、人出のかからない工場運営によって、合理的にインプット(人件費)を抑えて生産性向上を実現するのも、正しい経営判断だとは思います。

顧客は、どこよりも安い価格で部品を調達できてハッピー。
人出が少ない代わりに、一人当たりの売上総利益は向上するから、給与も増えて、社員もハッピー。
Win-winの関係が築け、会社の存在価値も高まるから、社長もハッピー。

しかし、この意思決定には、2つのリスクを抱えていることを、しっかりと頭に叩き込んだ上で、最終的な事業判断を行う必要があると藤冨は考えます。

1つは、設備産業ゆえに市場の変化に対応しにくくなること。(初期投資回収リスク)
2つ目は、変化の起きにくい環境に思考と身体が慣れてしまうので、変化対能力が損なわれること。

この2つのリスクを承知した上で、設備投資による生産性向上に取り組む必要があります。

いずれにしても、コスト競争に打ち勝つための施策として設備投資をしたとしても、提案先に受け入れてもらえなければ、売上・利益は1円にもなりません。

どっちに転んでも、提案力は必要です。

その提案の頻度が多いか少ないか。
外向きなのか(アウトプット=売上総利益の向上)
それとも、内向き(インプット=人件費を含む販管費の抑制)なのか。

それだけの違いです。

どうせなら、環境変化に強く、どのような時代になっても、生産性向上策を実行できる力を身につけたいものです。

御社は、生産性向上策を、アウトプットの向上に目を向けますか? それともインプットの抑制に目を向けますか?