とことん「本質追求」コラム第568話 PASONAの法則が陳腐化した理由

 

先週、新商品のゴルフシューズを開発している企業さんの性能評価テストに立ち会ってきました。
プロ選手に履いてもらい別メーカーのシューズと比較し、シューズが変わると何がどう変わるのかを数値化するのが目的。
計測機は、ミサイルの弾道を解析するために開発され、その軍事技術をゴルフに応用した1台で300万円もする『TRACKMAN(トラックマン』を使用。
さらに、体重移動を足底圧計測器で測定し、様々なデータを取得してきました。

その後、場所をゴルフ場へと移し撮影会がてら、実践の場での履き心地をチェックしてもらったのですが、これまで立てていた(セールストークの)仮説よりも選手の声から出る実際の
「単語」の方が、明らかに肌感覚が伝わり、売れる匂いがしてきたのです。
20年ほど前、広告の投下資本効率をあげる広告手法としてダイレクトレスポンスマーケティング(DRM)が一世を風靡しました。

DRMとは、簡単にいうと見込客集客を第一ステップとして広告を仕掛け、集まった見込客リストに啓蒙活動・教育を施し、セールスに導く手法です。
「広告→販売」へと導くよりも「広告→リスト収集→啓蒙→販売」へとの導く方が、反応率が高くなり、これまでギャンブル的な要素の高かった広告が、科学的に進められるとあって、様々な業界に広がっていきました。

しかし、あまりにも効果が高かったこと…。そして広告の世界を劇的に変えたgoogleの出現により、DRMがさらに進化し広告費がめちゃくちゃ安くなったことで企業だけでなく副業目的の個人までDRMを実践し爆発的な普及を遂げたのです。

そのDRMの基本となる広告文書(セールスレター)は、PASONAの法則で構成すると反響率が高まるとされ、17年ほど前に藤冨も実践。
商材は、運転免許を失効・取り消しになった方々に向けて、試験場でストレスなく免許を取得する方法をまとめたマニュアルを販売し、月200万円以上の粗利をコンスタントにあげてきました。
累計で2億円近くの売上をたった1ページのホームページで叩き出すのですから、PASONAの法則はある意味「すごいセールス手法」だったのですが…

上述の通り、あまりにも流行しすぎたためにPASONAの法則で書かれたセールスレターが逆に胡散臭く感じられるようになってしまいました。

PASONAの法則とは、ターゲット層が抱える[問題(Problem)]を指摘した上で、その問題が抱える本質的な問題点や影響範囲を「煽り(Agitation)」、その問題の[解決策(Solution)」を提示した上で、購入できる顧客や期間を「絞り込む(Narrowdown)」で、で希少価値を生み出し、[行動(Action)を促進するという流れでセールスレターを書き綴る手法です。

この中で、「煽り(Agitation)」を強調しすぎると顧客の依存性や期待値が高くなりすぎるために、購入後のトラブルや事業の継続性が損なわれる問題があらゆるところで勃発しました。

この問題を受け「煽り(Agitation)」を[親近感(Affinity)」に変えることで、PASONAの法則の社会的信用を保とうという試みがされましたが、残念ながら思うような効果が得られないまま、再び過去の栄光を取り戻すことはありませんでした。

顧客の心理を操るような頭で考えるマーケティング手法は、顧客から見透かされるようになったためでしょう。

そもそも同じ成功モデルをそのまま横展開するようなマーケティング・販売手法は、それが流行すればするほど陳腐化する運命を持っています。
理由は単純。
想定客となる人たちが「またか…」と売り手の作戦を見透かすようになるためです。
藤冨が嫌悪感を抱く上場企業の某コンサルティング会社なんて、まさにこの手法ばかり。
歯科医、飲食店、美容室の繁盛モデルが出ると、全国の競合にそのノウハウをそのまま売りまくる。
結果、同じような店や医院が出まくり、最終消費者から見透かされ、結果ノウハウを購入した企業は高い金を払ったのに、効果が限定的…と泣きをみる事態に陥るわけです。

コンサルティングを受ける側も「楽して儲けたい」という不純な動機があるから罰が当たった、と笑われても仕方ありませんが、最も罪悪なのは「売り手」の問題です。

ドラッカー が言う通り、企業の目的が「顧客の創造」であるならば、差別的優位性を持って、いかに市場にコミュニケーションをしていくのか…をそれこそ脳みそに汗をかきながら考えなければならないはずです。

脳みそに汗を書くのは、販売のステージだけのことではありません。
もっと重要なのは、お客様にどんな価値を届けるのか…商品企画・製造の段階から脳みそに汗をかくことです。

頭で考えるよりも、顧客になり得る人たちを感じることが大事。
インターネットが社会浸透し、SNSによって消費者がメディア化した現代においては、お客様が感じる価値を追求した企業しか生き残ることはできなくなるでしょう。

冒頭の企画・開発中のゴルフシューズの性能評価テストに同行し、改めて実感してしまいました。
私も反省すべきことがあり、同社のセールスレターの方向性をゼロから見直す提案をしたところです。
御社は、お客様が感じる価値を愚直に追求していますでしょうか?