とことん「本質追求」コラム第589話 顧客の声に耳を傾けば売れる…はウソ?!

 

「取引先から注文を受けて”これは他の企業にも売れる!”と思って、金型まで発注したのに…まったく売れないんです」

今、Amazonの電子書籍の原稿を書いている最中ですが、原稿を書く中で以前ご相談いただいた内容を思い出しました。
確かな顧客ニーズを感じ、商品化したのに売れない。
あるある話として、よくよくご相談いただく内容です。

ただ、この問題の核心は、たった一つです。
「顧客」と「市場」の見極めが出来ていなかったことです。

イメージしやすいように、事例を通して、このテーマを深掘りしてみましょう。

例えば、木材加工業者を営む社長が、友人から「こんな鳥カゴを作ってほしい」と言われた時をイメージしてください。

友人は、自分の家のインテリアに合う「大型サイズの木枠で作った透明ケース」が欲しいと依頼してきました。

「なるほど、世の中の鳥カゴは、金網のようなケースばかりで不格好なものが多いな…。小洒落た木枠の透明アクリルケースなら確かにインテリアに溶け込む。これはニーズがあるぞー」と社長は思い込んでしまいました。

専用製材を買い込み、生産性をあげるための加工機も購入し、売れることを前提に「在庫」も作りました。
ホームページも新規に制作し、Facebook広告にもトライ!

さぁ、注文がバンバンくるぞ!と、わくわくして待っていたものの…。
現実は、そう甘くありませんでした。

数ヶ月が経過しても、友人からの依頼以外には全く注文が入らない。たまに問い合わせがあっても、「サイズが合わない」「もっと色のバリエーションがほしい」といった内容で、販売には至らない。

何かが違う…そう思って、気づいても後の祭り。
加工機の購入費用、ホームページ制作料、Facebookの広告料…
すべてをドブに捨ててしまってから、違和感を覚えてしまうケースが、本当に後を絶ちません。

なぜ、このような悲劇が起きるのでしょうか。
それは、顧客の声に耳を傾ければ、商品は売れる!といった幻想が世の中に蔓延っているためだと藤冨は感じています。
残念ながら、これは大きな過ちです。
顧客の声に耳を傾けても、売れる商品は作れません。
顧客の真の欲求に寄り添って、初めて売れる商品が作れたり、売り方が決まるのです

インテリアに溶け込む透明ケースというアイディアは確かにあるでしょう。
しかし、それが全ての人にとってのニーズであると考えるのは早計です。
それにインテリアの嗜好は、人それぞれです。

嗜好の違いは、最初から見向きもされないか、問い合わせで無理難題を言われがちです。

受託生産なら、目の前の「顧客の声」を聞くだけで十分です。
しかし、市場に広く売っていくなら、自分の思い込みや一部の声に流されず、もっと深く顧客の欲求を突き止める必要があります。

例えば、鳥カゴのケースを再考すると、友人は本当にインテリアにあるモノが欲しかったのでしょうか?
なぜ、透明のアクリルケースを指定してきたのでしょうか?
なぜ、彼は大きさを指定してきたのでしょうか?
ニーズには、必ず背景があります。
その背景が、欲求に「因果関係」をもたらしていることが多いのです。

したがって、ニーズを徹底的に掘り下げて、欲求を突き止める必要があるのです。

友人がアクリルケースを指定したのは、鳥の鳴き声がうるさいからだったかもしれません。
また、ヒーターの効率を良くし、保温効果を求めていたからかも知れません。

大型サイズを指定してきたのも、鳥のストレスを軽減し、鳴き声を減らそうとしていたのかも知れません。

問題の核心は何か?
その問題に、困っている総数がマーケットサイズとなるのです。

顧客ではなく、市場(マーケット)を見るというセンスは、ここにあります。

「インテリアに合う鳥カゴ」では、誰に対して、何のための商品なのか…
わかるようで、わかりません。
対象顧客もいるようで、いないのです。(インテリアは多様性があるので)

しかし…
・ペット(鳥)の鳴き声がうるさい(近所迷惑になる)
・小空間を効率的に温めたい
・ペットのストレスを軽減したい
これらの「欲求」が見えたときに、はじめて「理想的な商品」が見えてくるのです。

友人は「大型サイズの木枠で作った透明ケース」が欲しかったわけではありません。
・防音効果の高い鳥カゴ
・暖房効率の高い鳥カゴ
・ストレスを軽減できる鳥カゴ
が欲しかったのです。

友人の頭の中では、アクリル板で囲うのでは、新鮮な空気が入らないのが不安だなー、とか。
アクリル板に空気穴をつけると、防音効果、暖房効率が下がりそうだなー、とか。
要望とは裏腹の「不安」を抱えているかも知れません。

でも、世の中の人の多くは、アクリルケースで不満や不安を解消しています。
だから、世の中の人たちは、仕方なく同じような行動をしているだけなのかもしれません。

そこで、防音効果、暖房効率は高いけど、息苦しくならない「通気性」を兼ねそろえた鳥カゴが登場したら、どうでしょう。
しかも、鳥のストレスを解消する様々なアイデアが埋め込まれていたら…
世の中の多くの人たちの言い知れぬ不安や不満を解消できる商品が生まれるかも知れません。

このように顧客の欲求を掘り下げることで、市場に広がっていく商品が創造できるようになります。

御社は、顧客の声に耳を傾けていますか?
それとも、顧客の真の欲求に寄り添う努力をし続けていますか?

[著:藤冨雅則]