とことん「本質追求」コラム第593話 なぜ、生産と営業の融合戦略なのか?

『〈部門横断チームで稼ぐ組織を育成する〉』を一気読みしました。実践的で面白かったです。ところで、なぜこの本を書こうと思ったのですか?』

旧知の社長から、拙著を読んだ感想メールが届きました。
書籍が、役に立ってくれることは、著者としての冥利につきるので、実践的…という評価はたいへん嬉しいです。
この場を借りて、感想メールを頂きましたこと、改めて御礼致します。

さて、ご質問への回答ですが、大事な視点が書籍では書ききれていなかったので、本コラムでご回答したいと思います。

恐らく藤冨は営業の専門家なのに、なぜ組織論的な本を書いたのか?という疑問が皆さまにもあるかも知れません。

しかし、私は組織論による業績向上アプローチ策を伝えたかったわけではありません。
商品戦略と営業戦略の一貫性を持たせると、売上利益は増加することをお伝えしたかったのです。

そもそも、売上利益をあげるための手段であるマーケティングとは、価値を作り出し、その価値を市場に売り込むトータル的な活動です。

著者やYouTubeなどでは、著名人が「マーケティング=営業戦略」だと誤解されているような教え方をしているので、まだまだ正しい認識が普及していないように感じますが…

マーケティングは、販売や営業活動だけを指しているのではありません。
事業と顧客の橋渡し役をする全体的な活動です。

営業戦略だけ最適化したって、売上利益をあげるには、限界があります。
以下の公式を見れば、一目瞭然です。

商品力>営業力=販売不振
商品力が高くても、営業力がなければ、思うように売上は上がりません。
だから、頑張って営業力を強化しようと努めるのは、自然な働きです。
しかし、商品力がないのに、営業力だけ強化すると、反動があることを忘れてはなりません。

商品力<営業力=顧客不満足
という公式が働いてしますと、次第に「新規獲得」が困難になり、営業マンも「過剰なトークをしてまで販売するのは如何なものか?」とモチベーションが下がっていきます。

そのようなケースを幾度となく見てきました。
顧客にとっても、経営者にとっても、社員にとっても不幸です。

特に、今はSNSやネット上での「レビュー」が、新規顧客の獲得に影響を及ぼす時代です。
尚更、商品力と営業力が噛み合うような、組織活動をする必要性が高まって来ているのです。

事例を踏まえて、重要性を再認識してみたいと思います。

以前、建材メーカーから『閉じたままでも換気できる窓』を作ったけど、売れなくて困っている…という相談に乗ったことがあります。

室内の温度を保ちながら、自然と換気できる画期的な「窓ガラス(サッシ)」です。

優れた技術力の結晶で、会社としても肝入りの新商品だったのですが…思うように売れません。

商品力に問題があるのか?
それとも営業力に問題があるのか?
商品開発担当者は、頭を抱えてやってきました。

詳しく話を聞くと「騒音のうるさい地域に建つ新築マンション」では、数件の販売実績があったとのこと。

ここに明快な答えがありました!

大手建材メーカーが手を出すには、市場規模の小さすぎる「商品」だったのです。

と言うのも、『閉じたままでも換気できる窓』は、窓枠の工事が必要な商品なので、取り替え需要はハードルが高い商品でした。

騒音が激しいエリアでも、窓を開けずに換気ができるという「ベネフィット」 は、確かなニーズがあるものの、「そこまで要らないよね…」と言われるほどのハードルがあれば、営業が苦戦するのは当たり前です。

ただでさえ通常のサッシよりも1.5倍以上も高いのです。
それに+αの工事費がかかれば、躊躇するのは当然なこと。

お値段以上の価値を感じてもらえないとなれば、商品力の限界と判断せざるを得ません。

この状態で、闇雲に営業活動を強化するとどうなるか?

・営業マンは成果の上がらない仕事を強いられ、モチベーションが次第に下がっていく…

または

・あの手この手で「売り込んだ」としても「換気できているか…の実感も薄いし、そもそも防音ガラスではないので、騒音はあまり変わらない」という酷評がたてば、新規開拓は次第に困難になる

のどちらかが容易に想像がついてしまいまうわけです。

営業戦略から逆算していけば、このようなニッチな商品を企画・開発するようなことは避けられたはずです。

もちろん、ターゲット層を広げて、市場規模の再評価することも、まだまだ考えられます。

「閉めたままでも換気」をしたい「場面開発」というアプローチを行えば、「匂いのきついエリア」や「空気汚染がひどいエリア」などの新販路が見えてきます。

また、換気をすることの重要性の高い「場面」や、換気ができているか「知覚しやすいターゲット」であれば、売れる可能性は秘めています。

いずれにせよ、商品力と営業力の両輪が噛み合わないと、売上利益を伸ばしていくための「道筋」が見えてきません。

部門横断チームをつくる必然性を説いたのは、営業戦略を成功させるためには、商品戦略と連動させることが、効率的であり、効果的あることを証明したかったからです。

組織全体が一体となって働くことが、長期的な成功には不可欠です。

「キーエンス」「ユニクロ」「アイリスオーヤマ」などの売上利益を着実に伸ばし続けている組織の共通点でもあります。

本来、中小企業は、小回りが利くことが「強み」であるはずです。
この強みを活かすためにも…部門横断チームは効果的に働くのです。

御社は、すべての部門が連携して、真摯に顧客に向き合う体質が定着していますでしょうか?