とことん「本質追求」コラム第598話 売価を感覚で決めるな。儲かる売価は論理で決まる!

「このくらい(売価)なら、売れると思いますけどねー」

旧知の経営者たちと、四方山話をしていた際、これからリリースする新商品の話題になりました。

そこで、知人のお友達経営者のAさんが、今後の展望を披露。

新商品(システム)を開発した背景から、仕様、そして販売予定価格まで話をしてくれたのですが…
そこにいた全員が、「そんな価格じゃ売れないよ」と大反対。

Aさんもムキになって「これくらいの価格じゃないと面白くない!」と反論を試みます。

売れなければ、面白いも、面白くもないだろう…と感じたので、すこし深掘りして、価格の妥当性を協議してみることにしました。

詳しく聞けば、業界初の新商品になるであろうシステム開発に成功したとのこと。

これまで手作業だった業務が、IT化することにより大幅に業務負担を削減できるシステムだそうです。
だから、月額1万円なら契約してくれるのでは…という皮算用でした。

経営者の直感は、当たることもありますが、やはり論理的につめることも大事です。

なので、少しだけコンサルティング的な話をさせてもらうことにしました。

法人営業は、個人営業と異なり、販売単価を合理的に導き出すことができます

法人が、何らかの売買契約を締結する際、ほぼ全てのケースにおいて財務に影響するためです。

つまり、売上があがるか、または経費が下がるか…そのどちらかの目的に何かしらの経費が支払われています。

例えば、応接セットを購入しようと計画をしていたとします。

個人なら、意思決定の基準は「趣味嗜好」となります。

しかし、法人は、趣味嗜好だけではなく、財務に絡む判断も入ることが一般的です。

・従業員の職場環境をよくしたい
・取引先から立派な会社と見られたい

などなどです。

職場環境を良くする目的は、従業員の定着=無駄なリクルート費用の抑制に繋がります。
取引先からの評価は、商談成立(売上拡大)や仕入先からの安定供給の確保(仕入原価の安定やムダな調達調査費の抑制)に繋がります。

応接セットは、いささか極端な例ですが、いずれにせよ法人営業は、意識・無意識に関わらず「財務」に影響する購買意思決定をしています。

高額商品またはサブスクのような固定支出なら、尚更その傾向は強まります。
上述の新商品(システム)もサブスク型です。

手作業だった業務がIT化され、人件費が削減されるなら、市場から受け入れられる確率は高いと想定しても間違いありません。

しかし…
・その対価は適切か?
・そもそも、本当に削減効果は数字に現れるのか?

という疑問が、買い手の頭には浮かんできます。

営業経験を積んだ人なら、すぐにその様子が思い浮かぶでしょう。

しかし、価格決定は、営業部門が不在のところで行われることが少なくありません。

そのため、商品(システム)が完成し、販売価格を決め、さぁ売りに行こう!と思った途端に出鼻を挫かれるのです。

「そんなシステムいらないよ」と。

営業チームを価格決定会議に入れるべき!と言っているのではありません。

買い手が、「それなら買おう!」という納得ポジションを知った上で価格を決めることが大事だということをお伝えしたいのです。

上述の例で言えば、
・手作業による「ムダなコスト」はいくらなのか?
・手作業でミスを起こした際、損害は発生しているのか?
・損害の発生頻度と実際の損害費は?
・手作業が無くなったら、実質的な人件費削減につながるのか?
・実質人件費が削減できなくても、他に生産的な活動に割り当てられるのか?

などなど、実質的に財務に与える影響をしっかりと抑えることが大切です。

そのうち、何%だったら、売り手に対し支払ってくれるのか?
それは数字(売価)を持って、あらゆる商談を相手を説得できるのか?

ここまで煮詰めた金額が、本来の「適正売価」なのです。

新刊「部門横断チームで稼ぐ組織を育成する」にも書いた(株)キーエンス社の交渉力は、この「適正売価」に営業マンが揺るぎない自信をもっています。

でなければ、粗利80%も稼いでいることを買い手に知られながら、全営業マンが値引きもせずに粗利80%を死守できるはずがありません。

適正売価を、組織的に徹底的に磨き上げているからこその営業力なのです。

こうしたロジックを解説したところ、「現場が大事だ!」と議論の軸が出来上がりました。

そして、改めてターゲットとなる「現場」を想定したところ、月額1万円はあまりにも無謀
だとわかり、半額の5000円くらいが妥当なのでは?との意見が多数を占め始めたのです。

よしよし、と藤冨は安堵しましたが、Aさんは納得いかないようです。

なので、Aさんに全体像を俯瞰してもらおうと1つ質問を投げかけてみました。

「ターゲットとなる事業者数は何件くらいありますか?」と。

するとPCをポチポチといじり出し、数秒後に「8万件くらいです」と、答えました。

「8万件のうち、10%のシェアをとることを当座の目標としましょう。10%シェアで売上はいくらですか?」と、さらに質問を掘り下げました。

今度は、電卓を叩いて、1億弱… 年間で9600万円のストックになります!と、顔が緩み始めました。

売価5000円でも十分に満足できる!と察し始めたAさんをさらに勇気づけます。

「現場で成果を出し、さらなる信用を獲得できれば、年商で2〜3億円はいけそうな事業に育ちますよ」と。

Aさんは、適正売価を追求することに意欲がでたようで、すぐさま「テストユーザーを作って、現場検証してみます!」と、息巻いて帰りました。

システムは、ものづくりと異なり「原価」は、開発費用からの減価償却で計上させます。
1個、1個販売するたびに、逓増する「直接原価」がないためです。

したがって、販売数が伸びれば伸びるほど、原価率は下がっていきます。
つまり、売れやすくすればするほど、売上・利益は共に向上していくわけです。

現場にニーズがあっても、適正価格で提案しなければ、売れるものも売れません。
また、売りにくい商品は、契約率が悪くなるため、営業コストが増大することも忘れてはなりません。

システム販売の場合は、販売本数が伸びないと相対的に原価率も上昇します。

粗利が稼げなければ、人件費も増やすことができない。
そうなると、優秀な人材が定着せず、業績向上の土台を築くこともできなくなります。

売価の設定は、経営の要所です。

御社は、顧客視点から見た「正しい売価設定」のプロセスを取り入れていますか?

[著 藤冨雅則]