とことん「本質追求」コラム第599話 キーエンスから唯一マネできる成功要素とは


「粗利80%、営業利益50%以上。すごい利益率なのに、平均給与は2000万円超え…なんで、そんな経営ができるんでしょうね」

先週のコラムを読んだクライアント社長から質問を受けました。

製造業の平均年収は462万円ですから、実に4倍以上の給与を支払っている計算になりますが、それでも営業利益は50%超え。
それを可能にしているのは、労働分配率が16%と業界平均と言われる50%より遥かに低い数値だから
です。

数字を並べると、ややこしく聞こえますが、平たくいうと「一般的な企業は儲けの半分を社員に配っているけど、キーエンスは、その1/3弱しか配っていない計算になる」ということです。

でも、社員は不平不満を言いません。
絶対額が、他の企業よりも、4倍も多いからです。

業界平均と比較して、給与を4倍もらっているのに、会社は儲けの1/3しか社員に配っていない。

本質的には、平均と比較しても意味ありませんが、それでも「すごい仕組み」です。

今日のコラムは、仕組みを構造的に分解してみたいと思います。
もちろん、推測の域をでないところもあります。
それでも社員やインターン学生からの一次情報、キーエンス社のホームページで発表されている最新の有価証券報告書からの分析なので、カラクリとしては間違っていないと自負しています。

それでは、キーエンスの儲けのカラクリを分析し、我々でも見習える部分を抽出してみたいと思います。

キーエンスが高収益体質を維持している5つの要素を分解できます。

1. 高粗利を実現する商品開発力
キーエンスは、新商品の7割が世界初もしくは業界初 と公言しています。
これは、営業現場で価格比較のしようがない商談から逆算した商品開発が使命となっていることとも読み取れます。
拙著、「部門横断チームで稼ぐ組織を育成する」に詳細を記載していますが、粗利80%以上取れる商品でないと、開発にGOはかかりません。
キーエンスの営業は、そもそも勝てる土俵が用意されているのです。

2. 徹底した営業品質の維持
勝てる土俵が用意されていても、力士が弱ければ勝負には勝てません。
キーエンスでは、営業マネージャーが全ての商談に対して、商談相手の現状、問題を掌握し、我々が提案する価値を部下から吸い上げています。
その上で、どうやって商談をまとめれば、受注に至るか…を徹底してロープレさせています。
しかも、営業マンが訪問した直後に、上司が商談先に電話をかけ、事前に報告された商談内容に相違点がないかまで、抜き打ちチェックするとのこと。
キーエンスでは、これをハッピーコールと言っているそうです。とてもハッピーには見えませんが(苦笑)
さらに、GPSやETCの通過時間で行動は全て監視され、日常の営業活動を分単位で管理されています。
現代の風潮とは、真逆をいっています。

これを実現可能にたらしめているのは、採用時点から人材を厳選しているからです。

キーエンスのインターンに応募した大学3年生から直接話を聞いたのですが、その採用基準を聞いて驚きました。
説明会で『一般的な会社は9時→5時(17時)だけど、ウチは9時→9時(21時)だけど、大丈夫?』と釘を刺されたそうです。
普通の会社なら、パワハラだとか騒ぎ出す社員が出てきますが、キーエンスでは8000人以上の人材が世間一般で言われているプラック体質には無頓着なのです。
新卒採用時から、人材を厳選しておかないと、実現できるマネジメント体制ではありません

3.既存客も新規も逃さない仕組みづくり
粗利益率80%を維持している理由に、当日出荷の仕組みがあります。

これは日本だけでなく、世界レベルで当日出荷が実現されていると公表されています。
キーエンスの主要顧客は「製造業(工場)」です。
工場では、止まること=売上減 という図式が成り立っており、キーエンスは、商品を売るのではなく、止まらない仕組みを売っているポリシーが浸透していることが伺えます。
多少値段が高くても、常に在庫のあるという安心感があれば、顧客の工場は、適正在庫を保ちながら、安心して売上・利益を追求できます。
しかし、逆に言うと「在庫負担」が重くのしかかります。
事実、ジャストインタイムにより在庫を徹底的に圧縮しているトヨタの在庫回転率は8、キーエンスは2と、在庫負担が4倍近くなっていることが伺えます。
それを可能にしているのが、潤沢な営業利益(50%)を源泉としたゆとりあるキャッシュフローです。
卵(利益)が先か、それとも鶏(在庫負担を担保にした営業力)が先か。
一朝一夕では実現できない仕組みが動いていることが財務諸表からも読み取れます。

4. 商品ポートフォリオの柔軟性
企業の成長・将来性を見る指標として、新製品売上高比率というものがあります。
新製品売上高比率とは、全売上高のうち、過去5年以内に発売した新製品が占める比率です。
飛ぶ鳥を落とす勢いのあるアイリスオーヤマ では、何と60%を叩き出しているそうです。
これは、自社工場で企画・開発・製造していたら社内が疲弊してきます。
顧客が求めるものを実現しようとすると、専門知識が不足していたり、技術的な知見を補う必要があるためです。
新製品開発比率を高めるためには、商品ポートフォリオを柔軟に組み替える必要があるので、ファブレス経営(工場を持たない経営)が適しています。
キーエンスも、アイリスオーヤマ も工場を持っていません。すべて外部の協力会社への仕様発注です。
原価の高止まり懸念は、顧客起点の売価設定と、経験値に基づく需要予測でカバーするしかありませんが…
ここでも卵(ファブレス経営)が先か、鶏(顧客起点の売価設定と的確な需要予測)が先か…
というジレンマに立たされます。

5. 8000人もの社員が同じ方向性を向くマネジメント体制の構築
キーエンスでは、営業マンの育成を徹底した数値管理・科学的マネジメント体制のもとでおこなっています。
優れた営業マンの行動特性を分解し、数値化。
これをベースに全営業マンのスキルアップが「日々の現場」で訓練されているのです。
初期アプローチ、訪問、情報収集、提案素地の発掘…などの業務プロセス毎に部下と上司が二人三脚で商談確度を高める努力をする中で、行動特性がレベルアップするのですから、部下は逃げ場もなく同じ方向・同じ成長速度を保たないとならないよう仕組み化されています。
数値管理などは表面的にパクれますが、二人三脚っぽく一人一人の部下の商談にまで寄り添ったOJT(社内教育)なんて、マネできるものではありません。
高収益体制が経営的に確立されているからこその、マネジメント体制と言えるからです。

いかがでしたか?
高収益を維持する仕組みの大半が、卵が先か、鶏が先かで出鼻を挫かれるテーマばかりだと気づかれたと思います。

それでも、高収益企業への成長するための第1ステップとなる「高粗利を実現する商品開発力」だけは、そのまま構造的に見習うことができます。

すべての成果は第1ステップから。
御社も、「高粗利を実現する商品開発力」を身につけてみませんか?

追伸
「高粗利を実現する商品開発力」は、営業部隊を巻き込んだ「部門横断チーム」がないと実現できません。
「部門横断チームで稼ぐ組織を育成する」をお読みになっていない方は、ぜひお読みください。 → https://x.gd/baly2