「最近の若者は、胆力がないから営業に使えなくて…何か良い訓練方法はありますかね?」
先日、クライアント企業の社長から受けたご相談ですが…残念ながら「その質問には答えることはできません」と、お伝えしました。
理由は、営業という職種だけは、教育訓練で実力が向上するものではないからです。
もちろん生産技術、経理、研究開発などにも、向き・不向きはあると思います。
それでも営業に限って言うと、人として克服しにくい「不向きなクセ(性格)」が存在しているのです。
この不向きなクセは、「交流分析」というコミュニケーション心理学の下敷きにして、実際の営業活動を観察してみると、手に取るようにわかります。
交流分析では、16歳までに「人生脚本」が完成されるといわれています。
人生脚本とは、社会から受け入れてもらうために、無意識的に繰り返される反応パターンを言います。
若かりし頃、部下の飛び込み営業を指導していた時に、この「刺激-反応モデル」の強烈さを実感したことがあります。
飛び込み営業では、いち早く決済者に会うことが、より多くの成果を上げるポイントなので、「社長いますか?」と第一声で声掛けするよう指導していたのですが…
相手に威圧的な態度をされると「店長さんいますか?」に変わってしまうのです。
後ろで、私が監視しているのを知っているにも関わらず…です。
営業は、対人関係の調整力によって、成果を生み出す仕事です。
人-モノ(製造)
人-数字(経理)
人-空間(デザイン)
など、他の職種とは異なり、「人生脚本」が、強く成果に影響を与えてしまうのです。
人生脚本の中でも、最も顕著に営業の仕事に影響するのは、「禁止令」というものです。
禁止令は、13パターンもありますが、営業に影響する禁止令は、3パターンほど見受けられます。
簡単に解説してみましょう。
1.「近寄るな」
「忙しい!うるさい!」「ちょっと黙っていろ!」など、遊びたい気持ちで近寄った時に、拒絶された経験が上塗りされると、刷り込まれる禁止令です。
この禁止令があると、対人関係に深く踏み込むことが苦手となるので、成果につながる確率が下がってしまいます。
上述の新人営業マンには、まさにこの禁止令が刷り込まれていました。
2.「お前であるな」
「本当は、女の子が欲しかった」と言った性別に対する愚痴や、「太っているからモテないよ」など、アイデンティティを否定された時に刷り込まれる禁止令があります。
部活などで同性だけの集団にいるのが苦手だった人や、自分に自信がなく人前で発表するのが苦手な子は、この禁止令が刷り込まれている可能性があります。
自信がなく、まわりの評価や常識、世間体に左右されやすいので、人を説得することが苦手。
商談相手と膝をつけ合わせ、問題解決しながら、セールスするような仕事は不向きなタイプです。
3.「成功するな」
何か失敗をした時に、あざ笑われたり、バカにされた経験が何度も上塗りされると、刷り込まれる禁止令です。
親が、子供の成功に関心を示さず、失敗したときだけ手をかけると、子どもは勝手に「成功してはいけない」というように思い込むようになります。
クロージングすることが苦手な人と話すと、この禁止令が入っている人をこれまで何人も見ていました。「ご結論いただけますか?」などの、簡単なクロージングさえ言えないのです。何ヶ月も同じ見込み客が管理表にホールドされている人は、大抵「成功するな」の禁止令が入っています。
これらの禁止令は、幼児期における未熟な自分が生き残るために、親との関係を維持して助けてもらおうとする「生存本能」に直結しているので、簡単には解除できません。
つまり、営業の適性は、幼少期からの養育環境によって決まっているのです。
もしも、営業社員がこの禁止令によって成果を上げられないとしたら、外部の力でメンタル強化をさせようとしてはいけません。
対策は3つあるので、適切なアプローチを選択するようにしてください。
1つ目は、仕組みで解決することです。
例えば、お客様の背中を押すプログラムを会社が準備するとか、それでもダメなら、クロージングは上司が行うなど、成果を生み出すプロセスのボトルネックを見つけて、地道な対策を講じるアプローチです。
全社的な営業力を上げるには、必要なアプローチなので、まずは仕組みで解決するアプローチを突き詰めることが大事でしょう。
2つ目は、役割の変更です。
藤冨はサラリーマンの時代に、部下を自分の部門に置きながら、役割を変えたことがあります。
営業活動は一切させず、他部門とのパイプを繋ぐ役割に専念させました。
本人のやりがいは向上し、部門間のコミュニケーションのスムーズとなり、高い成果を上げる一つのファクターとなりました。
最後の3つ目は、本人に気づきを与える方法です。
交流分析を勉強させ、禁止令に自ら気付かせるので、極めて難易度の高いアプローチとなりますが…
本人の成長意識が高く努力家であれば、変わる可能性はあります。
ただし、長い年月と低い成功確率であることを承知の上で、取り組んでください。
しかし、改善よりも本来であれば採用段階で「営業に不向きな人」を見分けておくことが大事です。
営業力が高いと評判の上場企業の中には、営業部門に配属する新卒者は、営業の適性を見極めるテストを実施しているところもあります。
営業に不向きな人を、営業に配属させ、さらに成果を要求するために教育訓練を施すのは、心理学的に見れば「拷問」に近しい行為です。
御社では、営業の適性を見極めた採用や配属を実施する「仕組み」を構築していますか?