とことん「本質追求」コラム第609話 部門横断チームにおける「リーダー」の見つけた

『部門横断チームのリーダーにCMOの資質を持った人材を当てがうという考えは、参考になりました』

先週金曜日に実施した弊社自主開催セミナー『部門横断チームの育成法セミナー』のご参加者からアンケート用紙に嬉しいメッセージが書かれていました。

本題に入る前に、ご参加頂きました皆様、ご多用のなか長時間にわたるセミナーにご参加頂きましたこと、深く御礼を申し上げます。

さて、(株)キーエンスの営業利益率を抜いた(株)オービックも『ワーキンググループ』と言う名の部門横断チームによって、高収益をもたらしていますし、サウナメガネでヒット商品を打ち出した(株)ジンズ(JINS)も、新商品開発プロジェクトを部門横断チームで運営していました。

流通業で急成長しているロピアも、職種の垣根を取っ払い、青果、鮮魚などの部門長が、採用、シフト、バイヤー、販売まで、全権限・権限をリーダーに持たせています。

変化の激しい時代には、迅速に対応できる組織が競争力を持つのは、自然なこと。
そう捉えると、これからの時代、商品企画と製品開発、営業部門の協働チームによる顧客起点経営は、これからスタンダードになることは、間違いないと感じています。

しかし、営業・生産技術、企画などの部門別組織の人たちを一つのチームにまとめ上げるのは、そう簡単ではありません。

実際、藤冨がIT企業のサラリーマンだった20余年前、顧客の要求に応じた開発をスピードアップするために、山口県にある開発部門と東京の営業部門の共有会議を開いたのですが…

会議室を出た瞬間に倒れるような壮絶な会議だったことを昨日のように思い出します。
朝9時からスタートした会議は、終電ギリギリの深夜まで続きました。

・目の前の顧客しか見えない営業
・ムダな開発要求は突っぱねたい開発

お互いに自分たちの部門にとって都合の良い結論に持ち込もうとするから、議論は平行線をたどり、時間だけが過ぎていくという状況に陥ったのです。

結局、初回の共有会議では結論に至らず、継続的に実施されることになり2週間おきの定例会となりました。

・営業は、目の前の受注の話をしないこと
・同じような問題や要求を抱えているテーマや横展開できそうなテーマの開発への要求を広義に捉えていくこと。
・また開発も、できる・できない…と一蹴するのではなく、「どうずれば開発できるのか」「何を基準として開発可否の判断をするのか」、前向きな発言をすることをルールとしました。

少しずつ議論が噛み合い始め、少しずつ相手の仕事を理解し始め、少しずつ相手に好意を持ち始めてから、状況は霧が晴れるように変わっていきました。

今から思えば、社内にマーケティング視点と共通認識が出来上がったことが、功をなしたことに気付かされたのです。 

マーケティングは、価値を生み出し、価値を伝達することによって、販売に繋げていく一連の活動です。

デジタルマーケティングという言葉が流行してから「ネットで見込み客を集客し、モノやサービスを販売するための活動」と狭義の理解をしている人が多いのですが、マーケティングの出発点は「誰かにとっての価値を生み出すこと」です。

この価値を創造する仕事は、技術・生産部門だけでもできないし、営業だけでもできません。
マーケティングとは、本来部門の垣根を超えた企業全体の活動なのです。

だからこそ、部門横断チームのリーダーは、マーケティング思考が脊髄にまで浸透していることが条件となります。

今ある商品を腕力で売り込むようなタイプではなく、企業と顧客が価値観を共有できるような関係性を築き上げるタイプでなくてはなりません。

メンバーの誰かが「売り手目線の発言」をしたら、厳しく顧客目線に引き戻すことがリーダーに求められます。

机上のマーケティングではなく、買い手の気持ちを理解し、彼らが得たいと思っている価値を見出し、カタチに変えて商売にしていく実践のマーケティングを統括するリーダーが部門横断チームには必要となります。

具体的には、顧客に対する真摯な姿勢を崩さないファシリテーターというイメージです。

ファシリテーターは、メンバーを合意形成に持っていくことが最大の役目です。

その役目を果たすためには、顧客に新しい価値を与え、それを収益に変えていく…というゴールを明確に定め、それに必要な施策を合意形成させていくための能力が必要です。

・メンバー間で意見が対立したら、顧客視点に立ち戻って衝突を調和させる能力
・合意形成に不要な議論が展開されたら、差し戻すコミュニケーション能力
・メンバーの自信がなくなったら、背中を押すようなリーダーシップ
・小さな声でも、大きなヒントが隠されていたら、それを拾い上げる洞察力
・本音の議論が活発になるような調整能力

などです。

顧客に新しい価値を与え、それを収益に変えていくために、顧客、メンバー、組織と真摯に向き合い、高潔であることにコミットできる人はそうそう多くはありません。

もし、組織に該当者がいなければ、社外から引き込むか、社内メンバーを育てるしかありません。

大丈夫です。
会社がビジョンを示し、死ぬ気でビジョンを実現する覚悟を示せば、必ず適材は現れます。

まずは、会社がマーケティング思考を目指し、徹底する覚悟を持つこと。

御社は、顧客に価値を創造し続けるビジョンを掲げるマーケティング思考を、社員に示すことはできていますでしょうか?