とことん「本質追求」コラム第608話 キーエンス否定派の見落としている本質

「講演の依頼を受けてもらえますか?」

昨秋「国際フロンティア産業メッセ2023」でベスト展示賞の審査員を務めた際、ご一緒した「工業会」の事業部長から、2024年度のキックオフ総会の講演依頼をいただきました。

同工業会では、DXと捉え方を間違って認識している企業があまりにも多いことを危惧して「トランスフォーメションbyデジタル」を提唱。

DXの概念をもっと広義に捉えるべきとの方針を打ち立てています。

皆様のご認識の通り、DXとは「デジタルによる業務効率、工場の自動化(スマート工場化)」を意味しています。

しかし、本質的には、DX(デジタルトランスフォーメーション)における「デジタル」は手段に過ぎず、目的は「トランスフォーメーション」を実現することです。

トランスフォーメーションとは、変換、変形、変革、変質、変化と訳し、DXにおける意味合いは、変化対応力を強化するために、自らの組織・事業活動を変革することにあります。

同工業会においても、狭義のDXに加え「トランスフォーメーション」に力点を置いた活動を、会員企業に啓蒙活動を行っているとのこと。

まさに、拙著「部門横断チームで稼ぐ組織を育成する」の目指すところと一緒なので、喜んで講演をお引き受けすることになりました。

ただ、その講演依頼の中で、1つだけ懸念していることがあります。

当日の講演では、キーエンスの事例は控えめにしていただきたい…とのオーダーがあったことです。

伺えば、キーエンスは、ブラック企業と捉える人たちが多いとのこと。

1時間の講演では、深く解説することができないので、下手に話さない方が良いというのが、オーダーの理由になります。

しかし、キーエンスは今後DXの権化になる可能性が高いので、本質を伝えることが目的の講演なら、ぜひ事例として組み込みたい!というのが、私の本音です。

従って、今日のコラムでは、講演の補足として、事前に「キーエンスはブラックなのか?そしてブラックであり続けるのか?」その現実と可能性を深掘りしてみたいと思います。

現実と可能性を深掘りするテーマは、3つの視点から行います。

1.     採用時点におけるコミットメント

2.     若手社員に成長の機会を提供している。

3.     超ホワイト企業への急速転換の可能性

一つずつ簡単に解説したいと思います。

1. 採用時点におけるコミットメント

本コラムで一度お伝えしましたが、整理のために改めて掲載します。
大学3年生の就活生が、2023年夏にキーエンスのインターンに応募した際、次のように説明されたそうです。
「普通の会社は、9−5時(17時)だけど、ウチは、9−9時(21時)だけど、大丈夫?」と。
確かに、就業規則で9−17時と約束しているのに、極端な残業、長時間労働をさせれば、ブラック企業と言われ兼ねません。

しかし、最初から21時までが就業時間と伝えているのであれば、問題は起きません。

長時間労働を前提として、入社する社員が、ブラックだと会社を訴えるでしょうか?非常に考えにくいと思いませんか?

そうした現実を無視して、キーエンスをブラック企業と断定するのは適切ではないでしょう。

2. 若手社員に成長の機会を提供している

今の若者は、自ら考え、自ら行動するのが苦手だと言われています。
考えることが苦手な人は考えろ!という指示をするのは、ある意味拷問と一緒です。

逆に、明確な指示を与え、指示通り業務が遂行できているかチェックし、自らの成長が実感できるなら、それは幸せなことです。

・1日5件の訪問予定がないと、外出禁止。
・訪問予定のチェック
・事後報告と次なる対策の立案
・成果と給与の相関関係の実感

などなど、商談単位の徹底したマネジメント体制は、角度を変えれば、社員に優しい制度と捉えることもできます

なぜなら、自らの考える能力と成果(給与)の因果関係が薄くなるからです。
商談単位で上司がマネジメントするので、成果の所在と責任は上司にあります。

部下から見れば、細かく徹底された指導は、その瞬間にはキツイと感じるかも知れません。
それでも、習慣化されれば、その苦痛も和らぎます。

しかも、優れた指導内容であれば、必ず自らの成長を実感できます。
内面的にも給与面でも、自己承認欲求が満たされます。

マネジメントの甘い企業よりも、真の意味で優しい環境だと捉えることができるのではないでしょうか。

3.超ホワイト企業への急速転換の可能性

最後に、キーエンスはいつまで経っても社員を酷使する企業であり続けるのか…という考察が必要だと感じています。

キーエンスでは、営業先の情報を徹底したドキュメント管理を行っています。

・キーマンの情報
・意思決定ルートの情報
・営業先の現状
・そこから生じる課題
・解決できそうなソリューション
・提案内容
・解決した際の顧客メリット(利益)

などなど、詳細な報告書の提出が課されています。
これが、労働時間が長くなる一つの原因です。

しかし、最新のボイスレコーダーの文字起こし機能を利用すれば、その作業時間は無くなります。
さらに、上述の通り列挙された膨大なデータベースをAIに学習させれば、上長との打ち合わせ時間も削減できます。

営業情報を自動的に、AI(大規模言語モデル)に流し込むことで「データベース作成(報告書)」「ニーズと競争環境の集計」「効率的な営業アプローチの考案」「商品と市場の親和性」などの営業ナレッジが構築されるので、営業活動で最も時間のかかる作業・打ち合わせ時間を大胆に圧縮することが可能になります。

テクノロジーの進化から透かしてみると、あっという間に「ホワイト企業」になる可能性が見えてきてしまうのです。

キーエンスの経営陣が本気でAI化に取り組んだ瞬間、ブラック企業だと後ろ指を刺していた人たちは、その指を咥えるしかなくなるでしょう。

表面的な出来事や現象に目を奪われることなく、モノゴトの本質や仕組みを見極めることが大事です。

あなたは、それでもキーエンスをブラック企業と断定しますか?


追伸
誤解を避けるために明言しますが、私はキーエンスの信望者ではありません。
ただ、価値を作り出す仕組み、強い営業を支える基盤づくりは、見習うべきだと考えているだけです。