とことん「本質追求」コラム第612話 顧客満足を追求しない社員を変えることはできるのか?

『「人間の脳は、人のために尽くすことに大きな喜びと幸福を感じる仕組みになっている」という内容を本で読んだのですが、全員が全員、人間の脳が本当にそうなっているのかなと感じてしまうことがあります。藤冨さんがおっしゃる、”ライスワーク”な人たちにどう伝えるかということの難しさを感じます。』

コンサルティング先のプロジェクトメンバーの方から、先週のコラム「第611話 人は習慣と環境で育つ!」の感想メールが届きました。

 とても重要な気づきを与えてくれる感想です。

そもそも論で考えてみたいと思います。

ライスワークとは、メシを食うために仕事をすること。 
対照的な概念であるライフワークは、自己の持つ能力を最大限に使って、自分も楽しみ、他者へも貢献することができる仕事のことを指します。 

本来であれば、ライフワークで生きたい人が大多数を占めているはずです。 
しかしながら、なぜライスワークに甘んじる人達がいるのでしょうか。

 その”問い”を突き詰めて考えないと、上述の課題”ライスワークな人たちに、仕事を通じて、社会に貢献することで”喜び”や”幸福”を感じることができる!”と伝えることはできません。 

いくつかの方面から考察してみましょう。

1)他人に興味がなく、自分さえ良ければ良いと思っている
2)仕事とは、食べるために働くものだ!と信じて疑っていない
3)今の職場では”やりがい”を感じられない 

経験上、おおよそ上述3つくらいに分類されそうです。 

それぞれのケースにあった対策を講じる必要があるので、少し掘り下げてみてみましょう。 

1) 他人に興味がなく、自分さえ良ければ良いと思っている

システムエンジニアに比較的多くみられるタイプです。 

「人と関わるのが苦手だから、ITの世界に入った」と以前一緒に働いた仲間から言われたことがありますが、他の会社のSEの人たちと話をしても、確かにそういったタイプは少なくありません。

個人の集団が社会なのではなく、社会あっての個人なんだ…という認識が芽生えれば、彼らは変わります。 

エンジニアの人たちは、賢い人が多いので、ロジックが理解できれば、意識も行動も変わる人が多い。
実際、何人もパラダイムシフトをした仲間を見てきました。

 また、他人を押し退けてでも出世を目指したり、金儲けさえできれば他人の不幸なんて関係ないといったビジネスマンもこのタイプに属しますが… 

今は、比較的このタイプの若者はいなくなりました。 

「巨人の星」や「明日のジョー」、「赤胴鈴之助」など、自己鍛錬に勤しみ、ライバルや敵を打ち砕くために努力をする世界で育った、我々昭和世代と異なり、自分が勝者になることに美徳を感じないのが、今の若者です。

 彼らは「ポケモン」や「ワンピース」を見て育ちました。 

ポケモンやワンピースにも「戦い」はありますが、結果的に「仲間」になっていきます。 

敗者が去る世界ではなく、みんな仲間になる世界が、今の若者の基本スタンスなのです。

若手社員だけでなく、20代、30代前半の経営者と触れ合うと、少年期に植えつけられた価値観の違いをまざまざと感じることがあります。 

会社の姿勢が、儲け主義、個人主義だと、彼らは、仕事に価値を見出してくれません。
結果、ライスワークに甘んじるように見えてしまうのです。 

本質的には、彼らこそが「人のために尽くすことに大きな喜びと幸福を感じている」にも関わらずです。

 こうしたケースでは、若手にシフトチェンジを求める前に、会社自体がパラダイムシフトを起こす必要があるのです。

 2) 仕事とは、食べるために働くものだ!と信じて疑っていない

 戦後復興期に、自己を滅して、日本のため、社会のため!と懸命に働いてきた我々の親の世代の価値観からシフトチェンジできていないタイプです。 

日本の伝統的な価値観であり、藤冨は尊い姿勢だと思ってはいますが…
そもそも、社会のために働くこと=自己を滅することという公式は戦前・戦後の誤った教育(プロパガンダ)です。

 マズローは、自己実現に至るには「利己と利他の二分法が解消された姿勢」が欠かせないと提言しました。 
平たくいうと、自分が喜ぶことで、他人も喜ぶ世界を作ることです。 
自分の能力を活かし、結果的に社会に貢献する姿こそ、マズローのいう「自己実現」の世界観です。 

上述の通り、今の若者は、自己実現に近い世界を目指しています。 

正しい教育をすることで、ライフワークの正しい考えに気づくことができますので、まずは我々世代も正しい認識にリセットすることが大切す。

 

3) 今の職場では”やりがい”を感じられない 

やりがいを感じられない仕事を考察すると、それが単なる”作業”になっていることが多いものです。

 作業と仕事は違います。 

作業は、単調で反復的なタスクであり、特定の目的を達成するための手段に過ぎません。 
作業から脱しきれていなければ、ライスワークとなって当然です。

 今の時代、アウトソーシング、自動化、AI化などの投資によって、社員を作業から解放することはいくらでも考えることができます。

 本来、仕事とは、個人の成長と社会に貢献するための手段として機能するものです。 
逆にいうと、会社は、仕事をそのように設計する必要があるのです。 

やりがいを感じられないのは、働き手だけの問題ではなく、雇い手の仕事の設計にも問題があると認識する必要があります。

他にも、「会社の方針や行動指針に”声にならない反発心”を抱いているケース」や、「働き手がそもそも何も考えていない」というケースもあるでしょう。

いずれのケースにおいても、相手(働き手)を変えるより、自分(経営陣をはじめとしたリーダー)を変える方が、遥かに簡単ではないのでしょうか。

正しいことを伝えるのではなく、正しい行いで相手に気づかせること。
コミュニケーションの鉄則は、説得することでなく、納得させることです。

御社では、ライスワーク社員とライフワーク社員のどちらが多いですか?