
「AIの進化が著しく、”ChatGPTが数学者のレベルを超えた”と言われ始めています。これにより、ホワイトカラーの仕事がすべてAIに置き換わると予測する人もいます。
価値を生み出すことは、人間ならではの仕事だと思っていますが、どう思いますか?」
先日、コンサルティング先の役員から、真剣な顔でこのような相談を受けました。
会社の未来を築く上で、どのようにAIと向き合えばよいのか、人間の役割はどう変わるのか……。
変化を予測して環境に順応するのか、それとも変化が起きた後に適応するのか。
どう考えても、前者の方が生き残る確率が高いのは間違いありません。
テクノロジーの進化はどこまで進むのか。
いつ大きな社会変化として私たちに脅威をもたらすのか。
人間がAIを開発する時代から、AIがAIを開発する技術を確立した現代では、それを正確に予測することは誰にもできません。
私が小学生のころ、父が勤める「いすゞ自動車」の藤沢工場では、毎年「夏祭り」がありました。
工場内にはたくさんの工員たちが働いており、活気に満ちた職場でした。
あれから45年。
あるプロジェクトで「トヨタ自動車」の工場を訪れた際、全く別世界の光景に驚かされました。
かつて、生産ラインに人がびっしりと埋め尽くされていた光景が記憶に残っていましたが、トヨタの工場では、人の姿はまばらでした。
ミニダンプのような自動搬送機器が無造作に行き交い、ロボットアームが人間の代わりに組み立て作業をしていたのです。
ブルーカラーの仕事がロボットに取って代わられたように、今後はホワイトカラーの仕事もAIに奪われるのは間違いありません。
この現実を直視し、仕事がなくなることを前提に、今の仕事にどう向き合うべきかを考える必要があります。
どこまでを人間が行い、どこからをAIに任せるべきか。
前述の通り、これを占うことはできません。
しかし、AIはどこまで活用できるか?という姿勢で、積極的に投資し活用しまくる人だけが、AIの実力を理解し、AIと共存できることは間違いありません。
藤冨はそう考え、自らの仕事をAIにどこまで任せられるかを徹底して検証しまくっています。
ところが、研究すればするほど、新たなAIに投資をすればするほど限界が見えてきました。
最初の限界は、AIがどれだけ進化・浸透しても、最初の一歩は人間にしか踏み出せないと感じたことです。
例えば、ChatGPTは文書を作るのが得意です。
しかし、最初のプロンプト(指示命令文)を書くのは人間にしかできません。
ChatGPTは短時間でさまざまなアイデアを出してくれますが、アイデアの方向性を定めるのは人間です。
たとえAIがAIを作り出す時代になっても、最初の一行目を指示するのは人間の役割です。
AIが価値を生み出せるとしても、AIが価値を生むための第一歩を示してくれるわけではありません。
次に感じた限界は、AIには「最大公約数」の回答しか導き出せないことです。
例えば、顧客を惹きつける提案書を書いて商談をまとめたい場合を考えてみましょう。
「商品の特徴」「顧客に与える価値」「競合商品との差別的優位性」をAIに学習させ、提案書を作成するよう命令文を入力すると、それなりに良い提案書が一瞬で生成されます。
入社3〜4年の社員レベルくらいの提案書なので、そのまま提出しても「恥ずかしいレベル」ではありません。本当に驚くべき世界がやってきてしまいました。
しかし!
目的は、顧客を惹きつけて商談をまとめることです。
プロンプト次第でキレのある提案書ができるのでは?と思い、何度も試行錯誤しましたが、やはり入社3年目のレベルに留まります。
「まだAIが進化中だからかな……。もっと技術が進化すればキレキレの提案書を書けるAIが登場するかも?」と思っていましたが、ある時、これには限界があることに気づきました。
日経MJ新聞に掲載されていた「ヒット商品を生み出したマーケター」の記事を読んだ時に…です。
ソーセージ分野でトップブランドを持つ日本ハムが、5年ぶりに新味を発表した際のことです。
コアのファン層が「高齢化」を迎え、新たなファン層の獲得が課題となっていました。
そこでブランドマネージャーは、「5年ぶりのシャウエッセン新味 まさかの?味」というSNS予告広告を打ち出しました。
若者を中心に「?味って何?」と話題になり、発売当時に発表されたのが、なんと「夜味」!
「夜味って何?」とさらに話題になり、大いにバズったそうです。
若きブランドマネージャーは賛否両論を恐れず「非常識な打ち出した」と取材に答えていました。
言葉は柔らかいですが、社内の反対意見も相当多かったはずです。
夜味なんて何味だよ!と頭の硬い常識的な意見でつぶされることなく、よくもこんな企画がトップブランドメーカーで通ったものだと驚きました。
一見おふざけに見える発信によってブランドを毀損するリスクを負いながらもチャレンジした企画者と決裁者、双方が見事でした。
成果を出す!と決めた以上、反対意見なんて出て当然!と…
開き直る覚悟と、自らの意見を貫き通す交渉力があったからこその仕事だったと感じます。
最大公約数の当たり障りのない意見しか出さないAIには、できない偉業です。
AIは最大公約数の「発信」しかできないため、このような「キレキレ」のマーケティングアプローチを発案することはできません。
もちろん将来的には、このような事例を学習させてプロンプトを駆使すれば、それなりに「キレキレ」の仕事をしてくれるかも知れません。
それでも、最初の一歩は、人間が的確な指示を出してこそ…です。
最初の一行目で方針を考えるのは人間にしかできません。
また、最大公約数の「ありきたりな仕事」ではなく、成果を出すための「キレキレの仕事」はAIには、まだまだ出来ません。
そう考えると、営業やマーケティングの分野で新しい価値を生み出すのは、まだまだ人間の仕事になりそうです。
あなたも、AIの限界を感じるまで、AIと対話する時間を大切にしてみませんか?