
「お客様のニーズに沿った提案をしているのですが…何が足りないのでしょうか?」
コンサルティング先で、時々気まずい雰囲気になる「ニーズの深掘り」は、お客様の本質的な課題を引き出すために欠かせないプロセスですが、しばしば営業担当にとっては「不快な時間」となりがちです。
場合によっては、一向に話が噛み合わず、人によっては「藤冨さんは我々の業界がわかっていないんですよ!」と不貞腐れてしまうことすらあります。
業界という「タコツボ」に逃げ込みたくなる気持ちもわからなくはありません。
しかし、ここで思考を放棄してしまえば、この先ずっと営業の無駄足を踏み続けることは間違いありません。いえ、営業の問題だけでは済みません。
商談を掘り起こすマーケティングや企画担当、販売促進担当にも「我々のお客様は何を求めているのか」という「真の顧客像」が共有されないため、全社的な生産性向上を阻害してしまうことにもつながります。
したがって、思考停止するわけにはいきません。
徹底して「ニーズの深堀り」を図る努力を続ける必要があるのです。
業界を知らない…と言わせないくらい、藤冨も事前学習して、様々なケースを想定し、「そのニーズの裏には、こんな背景があるのではないか?」と仮説のボールを投げかけていきますが…
それでも「会議室」だけではお話にならないこともあります。
そこで、日本アイ・オー・シーでは必ずお客様の顧客のもとへ同行し、話を聞きに行きます。
百聞は一見にしかず。
お客様が口にする表面的なニーズを聞いても「受注につながる提案」にはなりにくいことを「現場」で理解してもらうためです。
具体的なケースがないとイメージしにくいと思いますので、架空の事例を作成し、「ニーズの深掘り事例」を共有したいと思います。
例えば、商談先である「農協の技術開発担当者」から「今よりも飛行時間の長いドローンを探している」と営業担当者が聞いてきたとしましょう。
競合のドローンの飛行時間を調べると30〜40分。
それよりも長い飛行時間のドローンがあれば売れる!と営業担当者は思い込み、開発部門に掛け合います。
「あと10分伸ばせないでしょうか?もし開発に成功したら農協に必ず納入できます。超大型案件なので、なんとかよろしくお願いします!!」と懇願し、開発がスタート。
3か月後、50分の飛行時間を実現したドローンを携えて意気揚々と出向くものの、農協担当者は「検討しましょう」と浮かない返事。
さて、この商談は成立するでしょうか?
答えは、わかりません。
しかし、受注確度の占えない商談は、的確な営業ができていない証拠です。
では、どのように商談を改善すればよいのでしょうか?
商談相手の言葉(ニーズ)を鵜呑みにせず「ニーズの皮を剥いて、なぜそれが必要なのか?」を掘り下げる必要があったのです。
相手の要求を”表面”だけ見ても、彼ら実現したいこと…つまり「真のニーズ」は分かりません。
要求(ニーズ)の背景… なぜ、そのような要求をしているのか?という「その理由」に焦点を当てるのです。
先ほどの「農業用ドローン」のケースでもう一度考えてみましょう。
農協の技術担当者は、なぜ飛行時間を伸ばしたいと思ったのでしょうか?
飛行時間を伸ばしたいという表面的な要求ではなく、その要求が発生する背景(理由)を知ることが重要です。
具体的な掘り下げ方は至ってシンプル!
「なぜ、飛行時間を伸ばしたいのですか?」と尋ねるだけです。
もちろん、答えてくれないケースもあるでしょう。
それでも諦めてはいけません。
ちょっとしたテクニックを使えば、井戸を掘り当てたごとく、どんどん相手の口から本音が湧き出てくることがあるからです。
「もしかしたら、農薬の散布だけでなく、作物の育成状況を把握したいのですか?」と仮説を立てて聞いてみるのです。
商売ではなく、純粋な好奇心をもっているかのごとく、聞いてみるのです。
すると、最初は伏せておこうと思っていた農協担当者も、営業担当者から情報を先に提示されると「この人は相談相手になるかも…」と思った瞬間に心を許し始めます。
これは、藤冨の出版物(書籍)でも紹介している「誘い水」というヒアリング法です。
この「誘い水」を繰り返すことで情報を芋づる式に引き出していくと、最初の「飛行時間を伸ばしたい」というテーマは、たんなる手段であったことがわかってきます。
表面的な要求の皮を剥くと、商談相手が本当に実現したい“真の目的”が見えてくる。
すると、とたんに商談の成功確度が見えてくるのです。
作物の育成状況を把握したい理由は、いくつか想定できます。
* 水や肥料を与えるタイミング
* 害虫や病気の有無
* 品質や収穫量の事前把握
* 収穫のタイミング
など、「誘い水」となる仮説のボールを次々に投げかけ、お客様が抱えている課題や本当に実現したかったことをヒアリングするのです。
手段ではなく、お客様の「目的」を掌握するのです。
目の前の言葉に惑わされず、心の声を聞くように意識を変えると、お客様の真のニーズが見えてきます。
「飛行時間を長くしてほしい」という目先のニーズの皮を剥いてあげるのです。
飛行時間を伸ばす努力など、競争相手も「当たり前」のように考えています。
ゴールのないマラソンは棄権し、我々独自のレースを見つけ出し、そこにお客様を導いていくことこそが、あるべきセールスの姿です。
もちろん、この話は営業担当者だけに向けたものではありません。
営業、技術など、顧客と向き合うすべての担当者。
さらに言えば、経営幹部、経営者自身も真摯に向き合うべきテーマです。
表面的なニーズを皮を剥くと、受注確率の向上のみならず、的確な商品開発による開発コストの抑制、適切な広告費で効果的な集客(商談の発掘)が可能になるからです。
農業ドローンの例でいけば「飛行時間の長時間化」を図るという競争まみれのムダな開発をせずに、「農薬散布と同時に、病気を早期発見した際は薬剤を的確なタイミングで自動散布するドローン」など、農家が本当に困っていることにアプローチする商品開発、広告宣伝、営業活動が展開できるわけです。
売上3,500億円を誇る「日清食品」の安藤宏基社長も、自ら顧客の声と触れ合う第一線の議長を務めています。
だからこそ社長自らが公の場で「我々の商品は、価格転換力がある!次の時代(インフレ)も勝てる!」と堂々と断言できるのです。
御社の会議室では、お客様や見込客の「目先のニーズ」の声が、そのまま議題にあがっていませんか?
目先のニーズの皮を剥いた「真のニーズ」が議論のテーマになっていますか?