とことん「本質追求」コラム第707話 成功する営業戦略は“最初の一歩”で決まる

『(生産財の)営業部門を改革し、一丸となって戦略を実行するためには、どこから着手すべきでしょうか』

先週末、日刊工業新聞社主催のセミナー終了後にいただいたご質問の中に、どうしても体系立ててお伝えしておきたい内容がありましたので、本コラムで共有したいと思います。

テーマは、ズバリ『営業戦略を組織展開する最初の1歩を作り出す視点』についてです。

まず、営業戦略を組織一丸となって進めるためには、最初に「目標」を定める必要があります。
ところが、この“営業戦略の目標”をどう設計するのか…ここが世の中の書籍では意外と触れられていません。

というのも、営業戦略は「事業戦略」「マーケティング戦略」「組織開発」「営業プロセス設計」が複雑に絡み合うため、これらを一貫したロジックで扱おうとすると、どうしても抽象論か個別論のどちらかに寄ってしまうからです。

さらに、実務レベルのリソース配分やセグメント選定の判断基準まで踏み込むとなると、業種・商材・チャネル(直販 or 代理店)、さらには企業文化や人材構成によって最適解が変わってくるため、「これが正解だ」と言い切れる型が存在しないことが、現場を混乱させる要因になっています。

では、そんな“唯一の正解が存在しない”状況下で、実際の現場はどこから手を付ければよいのか

結論から申し上げると、

どの事業・どの製品を、どの市場層に、どれだけのリソースで投下するのか──
これを“顧客目線”で見直すことです。

一見するとシンプルなテーマだと感じられるかも知れません。
しかしながら、多くの組織が抱える「戦略の断絶」を埋めるうえで、実はこの作業が最も重要な出発点になります。

なぜなら、多くの企業において営業戦略が機能不全に陥るのは、戦略の起点が、社内の都合を起点にしてしまうためです。
その結果「顧客の視点」が組織の共通言語から抜け落ちてしまう…これが機能不全に陥る最大の原因となっているのです。

もう一つ重要な視点があります。
顧客視点を重視するあまり、自社の収益力を最大化する条件が曖昧になる点です。

どれだけ「お客様のために」と旗を掲げても、企業としての持続性が担保されていなければ、やがて組織は迷い始め、現場の判断はブレ、プロジェクトは徐々に失速していきます。


顧客視点と自社視点──この両者をどう統合するか。
ここにこそ、営業戦略を“組織として展開する”ための核心があるのです。

この2つの視点を持ちながら、戦略をどう企て、どのように実行計画へ落とし込んでいくのか。
これこそが戦略思考の核心となります。

ここから順を追って解説します。

まず、顧客視点においては「ニーズ判定」の精度が問われます。

産業財におけるニーズの源泉は、痛点にあります。
しかも、この痛点は単なる「困りごと」ではありません。
現場の作業プロセス、管理の仕組み、さらには経営判断の裏側に横たわる“構造的な負荷”として存在しています。

たとえば作業者が「この工程はやりにくい」と口にしたとしましょう。
しかし、その一言の奥には、
・工程が属人化している
・設備レイアウトが非効率である
といった“背景の文脈”が横たわっています。
そして、この文脈ごと「痛点」を捉え直したとき、初めて経営判断の材料となりうるテーマが輪郭を持ちはじめるのです。

では、この“文脈としての痛点”をどう見極めるのか。
ここで鍵になるのが、「現場ファクトの収集」と「文脈の分解」です。

たとえば、ある部品メーカーで「納期が読めない」という課題があったとします。
これを単に“納期遅延”として扱えば、対策は「納期遵守」「スケジュール徹底」といった表面的なものに終わります。

しかし文脈を深掘りしていくと、

・工程が属人化しており、担当者によって生産量が変動してしまう
・需要予測の精度が低く、販売計画と生産計画が同期していない
・設備の段取り替えが多く、作業が職人技に依存している
・試作と量産が同じラインを奪い合っている

といった、複数の“文脈”が折り重なっていることが分かります。

つまり、問題の本質は「納期」ではなく「納期を不安定にしている文脈」にあるわけなのです。

ここにファクトを重ね合わせると、痛点の“甚大さ”(いわば血量)が見えてきます。

・生産量は目標値とどの程度乖離しているのか?
・欠品がビジネスに与える具体的なケースは何か?
・在庫過多が財務に与える影響は、どの程度なのか?

などなど、問題を放置した場合の「血量」が、その後の売り手の「提案価格」と比較検討の材料となるのです。

この構造的な問題について、顧客自身が自覚しておらず、業界としても十分な解決策を持ちえていなければ…その市場では、間違いなく売れていきます。

さて、ここからが次の論点です。

見つけ出した構造的問題が、「一顧客だけの特殊事情なのか」「業界全体に共通する構造なのか」「特定工程で頻発する痛点なのか」を見極める必要があるのです。

なぜなら、この「構造的問題」が、どこに分布しているかを俯瞰することで、自社が戦略的に取り組む価値のあるテーマかどうかが明確になるからです。

いわば“市場の輪郭”を適切に捉え、マーケットの規模感を推定してはじめて、営業戦略の出発点となる「ターゲット市場」の選定が明確になるのです。

目の前の顧客が困っているからといって、どの市場にも親切心だけで応じていくほどの余裕は、どの企業にもありません。

自社が提供できる「課題解決」の中で、どの分野が最も社会的影響力を持ち、価値を発揮でき、かつ収益を最大化できるのか…。
この特定こそが、営業戦略の本当の「スタート地点」なのです。

御社の営業部門は、顧客視点から自社の収益が最大化する「事業領域」を的確に見定めた戦略を推進できているでしょうか?