とことん「本質追求」コラム第716話 顧客文脈の解像度を高める技術

「当社は、BtoB企業なので、BtoCの事例は参考になるのでしょうか。いまいちピンときません。そもそも、BtoCは、消費者に直接リサーチできますが、BtoBは、それがままならないことが多いのです」

先日、コンサルティング現場で、「腑に落ちません、質問させてください!」と、手を挙げた方からの質問と主張です。
理解できないことをスルッと流さずに腑に落ちるまで、徹底的に突き詰めることは、とても大事だと思います。

「知っていること」と「できること」の溝を埋めることができますし、何より周りで聞いている人の理解も深めることができると考えるからです。

さて、冒頭のような質問は、藤冨は20代のころから何度となく聞いてきた「問い」でもあります。

前職「日本オリエンテーション」では、【商品開発プログラムのたて方 36時間コース】というセミナーを35年も開催し続けてきました。

▼残念ながら今は開催していません▼
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このセミナーに、藤冨も在籍中は毎回事務局として聞いていましたが、社内の人間ということもあって参加者から「質問」をさせることがしょっちゅうありました。

主な質問が、冒頭と同じような「問い」です。

「今日の話は食品メーカーの話だったけど、ウチは車のメーカーだから、どう解釈すれば良いのか分からない」

「めちゃくちゃ面白いセミナーだけど、事例が具体的すぎて、自社に当てはめようとすると手が止まってしまいます」

こうした声は、ほぼ毎回のように挙がっていました。

業界が違う、商材が違う、顧客が違う——。
違いを挙げ始めると、確かに共通点は見えにくくなります。

しかし、具体的な事例の「抽象度」を高めていくと、見える世界観はガラッと変わっていきます。

そもそも【商品開発プログラムのたて方 36時間コース】で伝えてきた「中核的なメッセージ」は、「お客様は商品を買っているのではない。ベネフィットを買っている」という一点に集約されます。

食品であれ、自動車であれ、生産財設備であれ、顧客が本当に手に入れたいのは「モノ」そのものではありません。
そのモノから得られる「不満足の解消」という“結果”や“状態”としてのベネフィットなのです。

ところが、事例を具体的にそのまま捉えてしまうと、人は無意識のうちに「食品だから味の話だ」「BtoCだから感情の話だ」「ウチはBtoBだから違う」と、表層の違いに意識を奪われてしまいます。

しかし、抽象度を一段上げて、
「この商品は、顧客のどんな不安を解消したのか」
「どんな判断を後押ししたのか」
「なぜ“それなら買ってもいい”と思わせたのか」
と見ていくと、話は一気に自分ごとに変わります。

そして、文脈で捉えていくと、
「顧客は、その商品を目にする以前、どんな環境に置かれていたのか」
「その環境には、どんな不満足があったのか」
「不満足を解消するとどんな利益や喜びがあるのか」
といった問いが、必然的に立ち上がってきます。

この「問い」を起点にして、抽象度を高めるエスカレーターに乗り込んで、鳥の目で「俯瞰」してみたり、一気に急降下して虫の目で「自社のテーマ」を覗き込んでみたりする。

この上下運動を意識的に繰り返すことで、個別事例に埋もれていた意味が、少しずつ立体的に浮かび上がってきます。

鳥の目で見れば、顧客が置かれている業界構造や業務プロセス、意思決定の流れや制約条件が見えてきます。
一方、虫の目で見れば、現場担当者が日々感じている小さなストレスや、言葉にされない不安、「本当は面倒だと思っている作業」が見えてきます。
重要なのは、どちらか一方に偏らないことです。

俯瞰だけでは抽象論に終わり、現場だけを見れば、個別対応の積み上げになってしまう。

この2つの視点を行き来することで、
「なぜ、この不満足が放置されてきたのか」
「なぜ、これまで解決されなかったのか」
「なぜ、今なら解決できるのか」
という、商品企画や製品開発の核心に近づいていきます。

BtoBであっても、顧客が置かれている環境を俯瞰し、現場の違和感にまで降りていけば、仮説は十分に立てられます。

このエスカレーターを自在に使いこなせるようになったとき、事例は「そのまま真似するもの」ではなく、自社の文脈に翻訳するための思考装置へと変わっていくのです。

ピータードラッカーは「現代経営」という書籍の中で、企業の目的は、「顧客の創造」である—と説きました。

つまり、単に「今、何かが欲しい」と言っている人に物を売るのではなく、潜在的な欲求を掘り起こし、新しい価値を提案して「今までなかった市場」を形作ることこそ、企業の存在意義であると、述べたのです。

なぜ、「今、何かが欲しい」と言っている人に物を売ってはいけないのでしょうか?
いえ、決して「ダメ」とは言っていません。
営業部門であれば、「今、欲しい」という人を探し当て、販売することが正義です。

しかしながら、どのような製品にも「寿命」が存在します。
短命の商品もあれば、100年以上のライフサイクルをもつ長寿命商品もあります。
いつかはなくなる商品に縋(すが)っていては、未来を築くことはできません。

成長企業を維持するために、「新商品売上高比率」をKPIに設定している企業は少なくありません。

業界や企業のスタンスによって指標の定義は異なりますが、たとえば「直近3年以内に発売した新商品の売上が、全体売上の10%以上を占めていること」といった基準が、商品企画部門の代表的なKPIとして用いられています。

商品企画部門の役割は、顧客の声にならない「違和感」や、言われないと気づけない「痛み」を探求し、当社製品で解決できないだろうか…と創造することで、未来における自社の存在理由をつくることです。

もう一度、大事なことなのでお伝えします。
この構造に、「業界」や「BtoB/BtoC」といった区分は、本質的には関係ありません。

あるのはただ、顧客が置かれている環境と、そこで生じている不満足、そして、それを解消したときに生まれる新しい価値だけです。

その新しい価値を見つけ出し、製品という形に置き換え、顧客に貢献していく。
このマインドを商品企画部門にしっかりと根づかせることで、持続的な成長エンジンとなる「顧客の創造」が実現します。

御社には、未来の自社をつくり出す役割を担った「商品企画部門」が存在していますか?