とことん「本質追求」コラム第720話 ペルソナマーケティングの欠陥

「ポッドキャストを聞きました。文字情報もいいですけど、音声の方がいろんな発見があって楽しいです」

先週より本格スタートしたポッドキャスト番組「ものづくり企業が考える〈顧客創造ラボ〉」を聴いた方から、続々と嬉しい感想が寄せられています。
この場を借りて、御礼を申し上げます。

▼Podcast番組アーカイブ▼
https://www.j-ioc.com/podcast_customer-lab

さて、冒頭の感想をくれた方から、「ペルソナマーケティングと顧客インタビュー(と『現場観察』)の違い」をもう少し詳しく聞きたいとの声をもらったので、今回のコラムで取り上げてみることにしました。

聞けば、「ペルソナマーケティングを研修でやったことがあったけど、何の成果も生み出さなかった…」と苦い経験をお持ちのようです。

実は、このような「ペルソナの研修を受けてみたけど、結局机上の空論で終わってしまった」というケースは、あちらこちからよく聞いていました。

私もその背景や原因までは詳しく知らなかったのですが…
歴史を調べてみると、原因がハッキリ理解できました。

その原因とは、リアルの欠如です。

そもそも論として、ペルソナという概念を心理学の領域で初めて提唱した人は、ユングです。

彼が定義した「ペルソナ」とは、個人の内面(真の自己)と、社会から求められる役割との乖離を埋めるために身につける「仮面」のこと。
つまり、社会に適応するための心理的な装置として提唱された概念なのです。

そして、この「ペルソナ」という心理学的な概念から、ビジネスの実務に落とし込んだ代表的な人物として知られるのが、「Visual Basic(ビジュアルベーシック)の父」とも呼ばれるアラン・クーパーだそうです。

クーパーは、『ユーザーインターフェイスデザイン:Windows95時代のソフトウェアデザインを考える』(翔泳社)という著書の中で、たった一人のペルソナを想定してデザインするアプローチを採用し、ユーザーフレンドリーなソフトウェアの設計に落とし込む手法を公開しました。

ユングが「ペルソナという言葉」を生み出し、アラン・クーパーがソフトウェア設計の実務に落とし込んだ。
しかし、それをマーケティングに転用したとき、ズレが生まれたのです。

書籍を紐解き、ファクトをつなぐと、そんな文脈が浮き上がってきます。

本題に戻りましょう。
ペルソナマーケティングが機能しない理由は、この文脈を紐解くと明確に見えてきます。

最たる理由は、心理学、経営、そしてシステム開発の視点は、似て非なるものだからです。

ソフトウェア開発の分野で、アラン・クーパーが提唱した「ペルソナ」という考え方は、当時の難解で操作が複雑だったコンピュータを、より分かりやすく、使いやすいものへと進化させるうえで、非常に有効なアプローチでした。

しかし、経営やマーケティングにおいては、「利用」の前に「選択」があります。

クーパーのペルソナは、製品を手にした後の「操作の最適化(利用)」に特化しています。

つまり「どうすれば迷わず使えるか」という視点に重みづけがされているのに対し、買心理の論理では、「なぜこれでないといけないのか」という選択の「動機」と「葛藤」にこそ、その真髄があるわけです。

私が、まだ20代の頃、システム会社の営業マンとして、大戸屋の今は亡き三森久実社長と商談したときのことです。

当時、同社は株式公開を目指しており、出店数を加速している時期でした。

出店費用を抑えるために、創業当初から「地下」や「2階」を中心に店舗展開していましたが、1階に比べると集客力はどうしても弱い……。

そこで、同社が考えたのが、前会計(先払い)システムでした。

12時になるとサラリーマン客はどっと街に繰り出します。
地下1階や2階であっても、前会計であれば店頭に長蛇の列ができ1階まで溢れ出てきます。
すると「おっ、すごい繁盛店だな!」と人々は注目しますが、前会計なので、すぐに列は店内に吸い込まれていきます。

並んでいるのに、そんなに待たないで、美味しい定食が食べられる…。
計算し尽くされた経営をしていたのです。

私も大戸屋が大好きで、高田馬場店に足繁く通っていました。

ところが、ひとつ大きな不満があったのです。
レジで大好きな「チキンかあさん煮定食」を頼み、お金を払い、席につく。

待っている間にメニューブックをパラリと開くと「納豆」のサイドメニューが目に飛び込んできて、「食べたい!」と思っても、レジには長蛇の列。

追加オーダーを諦めることが多々あったのです。

一方、飲食店の経営サイドからすると、客数を増やすよりも、客単価を上げる方が、はるかに再現性が高く、投資効率も良い。

そこで、三森社長と2人だけで商談できるチャンスを得た時に、思い切って提案してみたのです。

「外食産業でPOSシステムを経営に活かしている企業はありません。そもそもPOSは小売店にとって最適化されたシステムです」

「外食ならではの使い方として、プライスライン分析が考えられます。80円、100円、150円…と副菜をカテゴリー化して、どんな副菜、どの価格帯で最も客単価が向上するのか、仮説・検証ツールに使う方法です。私が経営者なら間違いなく現場にそう活用させます」と、恐る恐る言うと…

三森社長は、その場で契約する勢いで「すぐに全体的な提案と見積もりを持ってきなさい」と言われ、後日無事商談がまとまったのです。

三森社長が3000万円もの投資を意思決定したのは、POSデータの「分析システムという道具」が欲しかったからではなく、客単価向上という確実な果実(経済効果)が見えたからです

✔︎ 現場で何が起きているのか。
✔︎
現場でどんな苦悩があるのか。
✔︎
それを改善すると、どれだけの経済効果を生み出すのか。

このファクト(事実)が、強い購買動機を生み出したり、痛みを解消し「葛藤」から抜け出そうとする意思決定につながるのです。

売上につながる金脈は、「顧客文脈」に宿ります。
そしてその金脈は、会議室には眠っていません。

顧客現場でしか発見できないのです。

御社の価値を生み出している「商品企画部や技術部門」、そして「マーケティング部門」の担当者は、現場を駆けずり回っていますでしょうか?