
「ペルソナマーケティングのコラムは失笑しました。当社も同じ経験をしたので…。ところで、マーケティングのフレームワークを使っても業績につながらない理由って、結局どこにあるのでしょうか」
先週のコラムを読んだ読者さんからお寄せいただいた質問です。実はこの悩みは、非常に多くの企業で聞く声でもあります。
・SWOT分析で事業領域を定めたが、収益向上に繋がらない
・3C分析をしたのに、新規事業が思うように立ち上がらない
・アンゾフの成長戦略でリソース配分を計画したが、社内から不満が出て進まない
これらは、フレームワークを使いこなしているようでいて、実はその「型」に縛られ、組織的な思考停止に陥っている典型的なケースです。
なぜ「実績ある手法」が機能しないのか? フレームワークを埋めても実効性が感じられず、業績への貢献も見えてこない。なぜ、世界中で実績のあるアプローチが、自社では「効果」を発揮しないのでしょうか。
原因は、明らかです。
それは、多くのフレームワークが「情報の整理棚」にはなっても、「勝負の決定打」を教えてはくれないからです。
たとえば「SWOT分析」で自社の強みを書き出したとしましょう。
しかし、その強みは「顧客が喉から手が出るほど欲しがっている痛み(ペイン )」に直結しているでしょうか?
SWOT分析を策定する目的は、自社の立ち位置を把握し、成功の可能性が高い事業戦略やマーケティング計画を策定することです。事業における成功の可能性を推し量るのに、「買い手の目線」が無視されていることに、まずは気づかなければなりません。
お客様が求めている「強み」であれば、当然ながら事業の成功確率は高まります。
しかし、お客様が求めていない「強み」であれば、それは単なる自己満足でしかありません。
企業の倒産原因の8割が「販売不振」で圧倒的最多である事実を鑑みると、「顧客の欲求の強度」の見落としや軽視が、戦略が空転する最大の要因だと言わざるを得ません。
「3C分析」も同様です。
Customer(顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)をもれなく分析し、競争優位性を浮き彫りにする理屈は決して間違ってはいません。しかし、前回のコラムに書いた通り、リアルが欠如した「抽象度の高い設定」に終始すると、見た目は良さげでも、戦略としての実効性が乏しいまま現場に落とされてしまいます。
顧客を設定する際は、極めて具体的な「購入者(企業)が、なぜ当社の商品を選んでくれたのか」という背景を考察するところからスタートする必要があります。
その上で、同類の背景や購買欲求を抱えた「買い手の層」をラベル付けするとしたら…と抽象度を上げていく。
そうして初めて、確かな需要がある「ターゲット市場」が浮き彫りになってくるのです。
前回コラムで、売上分析システムを販売する際、「プライスライン分析」を切り口にして大戸屋さんから受注をもらったケースを紹介しました。
これは、個別のケースでしょうか?
いえ違います。他の外食チェーンにとっても、非常に有効なアプローチです。
定食業態に限らず、あらゆる飲食業において、投資を最小限にしながら着実に売上高を向上させることができるからです。
「たかだか100円の客単価アップを狙うことに意味があるのか?」とお考えになる方もいるかもしれません。
しかし、20店舗のチェーン店で客単価が100円上がると、相当なインパクトになります。
1日200人が来店する飲食店で、客単価が100円上乗せされると、1日2万円、月に60万円の売上アップが実現できます。これが20店舗あれば、月間1200万円もの売上増につながります。
3000万円のシステム投資だとしても、わずか2年半で投資回収が可能です。
リースであれば、3000万円×1.85%として月額555,000円の投資に対し、実に毎月11,445,000円もの利ザヤを生み出すことができます。
投資しない方がおかしくないですか?
話を元に戻すと、フレームワークが機能しない最たる原因は、「顧客が抱える痛みの強度」と「解決策の未熟さ」という生々しいリアリティが、分析のプロセスで削ぎ落とされていることにあります。
多くの企業がフレームワークを「空欄を埋めるための作業」として扱っています。
しかし、本来フレームワークとは、想像で項目を埋めるための道具ではありません。
リアルな顧客像を下敷きにして、「どこで勝つのか」という一点を射抜くための照準器なのです。
日本アイオーシーが伴走するプロジェクトは、現場に入り込み、具体的な顧客像や需要の高さから市場性を明らかにする取り組みを重要視しています。
具体性のない議論は「空想」でしかなく、事業も空回りしてしまうからです。
フレームワークの奴隷から抜け出し、現場、現実、そして「現物」を起点にした、生身の戦略へとシフトしなければなりません。
多くの会議室で繰り広げられているのは、「市場環境はどうなっているか?」「競合の動向は?」といった、どこか他人事のような議論です。
しかし、戦略の火種は、そんな綺麗なスライドの中にはありません。
「なぜ、あのお客様は、既存の代替品ではダメだったのか?」
「なぜ、今このタイミングで、身銭を切ってまで解決したいと思ったのか?」
こうした「顧客の切実な痛点」を徹底的に掘り下げ、その痛みの総量を測ること。
そして、その痛みに対して世の中の解決策がいかに不十分であるかを突き止めること。
この「具体の極致」にこそ、3CやSWOTといったフレームワークが本来照らし出すべき「真実」が隠れています。
「客単価を100円上げれば、月間1200万円の利益が残る」
この圧倒的なリアリティを前にすれば、着飾った事業企画やカッコイイ分析よりも、がぜん説得力が生まれます。
本来こうした「動かざるを得ない事実」を見つけるためにこそ、フレームワークという道具を使い倒すべきなのです。
ファクト主義の徹底…それは、会議室から足を踏み出すことから始まります。
御社の戦略方針や戦略設計図、はたまた事業計画書は、果たして顧客の「耐え難い痛み」を射抜いているでしょうか?
