「プロジェクトで進めていた新商品が、マズイ状況になってきました」
昨年、進めていたプロジェクトが、暗礁に乗り上げる危機的状況に陥りそうになりました。
「新商品が完成するまでの間は、日本アイ・オー・シーとのミーティングは小休止しましょう」とお休みしている間の出来事です。
商品化にあたり情報収集をしていた際、クライアント企業さんに、ネガティブな情報が入ってきてしまったのです。
今のところ、この世にはない全く新しい商品なので、ここで詳細をお伝えすることは出来ないのですが、いわゆる「住まいの課題解決型商品」です。
ニュース性は抜群だし、数ヶ月間の社内テストの結果でも、女性社員から高い評価を得て「これは欲しい!」と盛り上がっていた商品。
私も、上市するタイミングが待ち遠しくって、どう市場に仕掛けていくか…ワクワクして首を長くして待っていたのですが……
ちょうど、そのクライアント企業さんの近くに講演に行く機会が出来たので、「進捗は如何ですか? もし良かったら近くにいくので午前中チラッと遊びにいきましょうか?」とメールをしたのです。
すると、1通、2通と不安に満ちたメールが届きはじめました。
そして、出張前日には「プロジェクトの中断」を感じるようなメールが社長さん直々から届いたのです。
メールに添付された資料を拝読すると、ちょうどいま企画している新商品が、まったく不要になる新商品が住宅メーカーから発売されているではないですか。
それがスタンダードになるかは、まだ未知数です。
しかし、「消費者の不満」が顕在化されているが故に出て来た新商品であることは間違いありません。
普及の可能性は充分にあります。
というより、半年以上も前に、私たちのプロジェクトは、それに気がついていたからこそ、進めてきたわけです。
勝算のないプロジェクトに首を突っ込むわけが無いですから、いずれ誰かが目を付けてくるのは、至って自然なこと。
いままで、そのような課題解決型商品が無かった事の方が不思議だったのです。
だからこそ…です。だからこそ、住宅メーカーは本気になって仕掛けてくるはず。
もし、住宅メーカーが根こそぎ、この新商品を全面的に採用し、従来商品の販売を中止し、旧商品をレガシー化させてしまったら……
これから開発しようとしている新商品は、一瞬にして「化石」になって市場がなくなってしまいます。
誰でも、こんな情報を耳にしたら動揺してしまいます。
新しい時代に対応しない商品なんて開発したらコストすら回収できないかも知れない…メールと添付資料をみて、私も一瞬「脳みそがかき回される」感覚を覚えました。
心に不安が残り、恐る恐る仕掛ける新商品なんて、成功するハズがありません。
ただでさえ、難しい新商品を当てにいくわけですから、尋常ではないエネルギーが必要です。
大山も蟻穴より崩れる…を固く信じ、突破口となる1点を探し求め、その穴を見つけたら狙いを定めて全神経を集中させるくらいのマインドがなければ、やめてしまったほうが、傷口は浅くて済みます。
これから開発する商品は、本当に新商品の影響で「時代遅れ商品」となり、鳴かず飛ばずの失敗商品に終わるのか。
一呼吸して冷静に考えてみると…
決してそんな事はないというロジックが見えてきました。
いえ逆です。
住宅メーカーが、宣伝して市場の認知度が高まれば高まるほど、追い風が吹いてくれることを確信したのです。
そもそも、住宅メーカーが発売する新商品は「新築住宅」に付帯させる設備です。
人口1億3000万人、5200万世帯弱のうち、新築住宅を購入する比率は数パーセントしかありません。
大多数の人々は、新築住宅やその設備に憧れながらも、今の住まいに甘んじる…と言う行動モデルをとる事は想像に容易いことです。
直接競合にはならず、間接競合のままで、宣伝活動を手伝ってくれる…。
これほどの「追い風」があるでしょうか。
新商品というのは、その必要性に気づいてもらうのが大変です。
商品の特徴やメリットを歌ったところで、自分の利益に繋がる…とスグにイメージ出来る人は、意外にも少ないものなのです。
だから新商品というのは、知恵を絞らないと、啓蒙コストが多額に発生してしまいます。啓蒙コストとは、ニーズを顕在化させるための情報提供コストです。宣伝広告費だけでなく、売れにくい段階での営業マンの人件費も含めて考えると、極めて多額のコストが見込まれます。
しかし、この啓蒙コストをもし他社が負担くれたら…
我が社にとっては、この上ない追い風が吹く事になるという訳なのです。
新築でなくてもリフォームすれば、数十万、数百万円かかります。
でも、新築も購入せず、リフォームもせずにその課題が解決出来るとしたら……
その不満が生じている1点だけに限ってみれば、我が社の商品が一人勝ちできるのは目に見えているのです。
出張帰りにクライアントさんに寄り、このロジックをお伝えしました。
すると暗礁に乗り上げそうだったプロジェクトが救われ、一気にやることべきことがリストアップされていったのです。
もう20年も前のことですが、以前勤めていたマーケティングコンサルタント会社で開催していたセミナーにケンタッキーフライドチキンの新規事業開発を担当されている方がお見えになりました。
その方と雑談していたときの記憶が、今でも強烈に耳に残っています。
ケンタッキーは、フライドチキンのライバルが現れると全力で倒しに行った。
しかし、マクドナルドは、ライバルの参入を見て見ぬ振りをした。
結果、ハンバーガー市場は大きくなり、フライドチキン市場は、思うようには大きくならなかった…。
1社で啓蒙するよりも、2社、3社で啓蒙していったほうが、市場に情報が行き渡りやすくなります。
結果、1社当たりの啓蒙コストを抑えたまま、市場を育成し、売上を伸ばす環境が整いやすくなるのです。
競争せずに勝ち抜く戦略とは、「競争を避ける」ことだけを念頭におくのではなく、市場の心理がどのように揺れ動くのか…という構造を見抜くことが大切です。
御社は、間接・直接競合との競争環境と市場の成長ベクトルの構造を正しく見抜く努力を惜しんで「意思決定」を行っていませんか?