とことん「本質追求」コラム第164話 「強み」の見つけ方

 

「強みの見つけ方を教えてください」

先日、社内勉強会にお呼ばれをして、お話させて頂いたときの事です。
2時間30分の講義を終え、質問を募ったところ…

 

なんと、ほぼ全員の方が質問表に記載。
読み上げて回答するのに1時間以上もの時間がかかるほど、熱気に満ちた勉強会となりました。

その中でも、最も多かったご質問が冒頭の「強みの見つけ方」です。

 

答えを単刀直入に言うと「第三者に聞く」ことが一番です。

 

自分の姿は、鏡という存在があって、初めて全体像が見えます。
同じように、強みも第三者の評価なしには的確に見つけ出すことは出来ないのではないでしょうか。

 

P・Fドラッカー氏は、”強みを知る方法は一つしかない” と、著書『プロフェッショナルの条件』に記されました。

 

強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。
何かをすることに決めたならば、何を期待するかをただちに書き留めておく。
9か月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する。
私自身、これを50年続けている。そのたびに驚かされている。 

と。

 

経営の神様に対して異説を唱えるようで恐縮ですが、フィードバック分析で本当に強みが明らかになるでしょうか。

もちろん、ドラッカー氏のように外部環境と同じくらい自己を鋭く洞察できる心眼があれば可能なのでしょう。

でも、大多数の人、会社において、自らを深く切り込んでいくような洞察は、困難を極めるはずです。
私がそう感じている理由は3つあります。

 

1つ目は、自己防衛本能が邪魔をするからです。

「強み」は良い部分ではあるが、大抵の場合は欠点と同居しているものです。
何事も表裏一体。

長距離選手は、遅筋が発達しているものの、速筋は未発達。
逆に言うと速筋比率が低いからこそ、遅筋比率は高い訳なので、弱点があってこその「強み」だという見方が出来ます。

と考えると「強み」を発掘していく過程において、「弱さ」や「欠点」が自然と浮き彫りになってしまう確率が高くなるわけです。

つまり、この強みを浮き彫りにする過程において、弱みや欠点が浮かび上がった瞬間に、自己防衛本能が作動して思考回路は中断されてしまいます。

本来の「強み」に鋭くアプローチする前段階で…です。
個人においては、これが顕著です。

組織においても、弱みや欠点を公言するのは、はばかられる……という雰囲気の会社は、個人同様に自己防衛本能が働きやすくなります。

 

 

2つ目は、フィードバック分析は「仮説」と「結果」の検証によって、導き出されるのですが、そもそも「その仮説」を作るのが困難だということです。
理由は、前述した自己防衛本能が働くからですが、それだけではありません。

成果に直結する仮説を導き出すためには、類似の成功モデルや、原理原則がどう成果とつながっているか…など「さまざまなケースの法則性」を知っている必要があります。

そのためには、好奇心を旺盛にし、あらゆるジャンルの本を多読したり、新しいモノやサービスが出たら経験してみたり…と、多様性の中に身をおく習慣を身につける必要があります。

と考えると、最適な仮説を生み出すことは容易いことではありません。

最適な仮説でないのに、9ヶ月も一年もかけて「検証」を試みるなんて、時間がいくらあっても足りないのではないでしょうか。

 

3つ目の理由は、成功は当初の仮説以外のところからやってくることが多いためです。

強みを持って何かを始め、成果に向かって邁進する過程で、何も障害にぶち当たらずにスムーズにゴールまで到達できるケースなんて稀です。

多くは、壁にぶつかり試行錯誤が始まります。

その試行錯誤の結果、予期せぬ成功が降り注いでくることが往々にしてあります。

「海苔の細切り用ハサミ」を作ったつもりが売れずに悩んでいたら「シュレッターハサミ」として売れ出した…なんて例は枚挙にいとまがないです。

築地の中卸市場の販売ルートに強みがあるから、海苔の…とこだわっていたら、活路は見いだせなったかも知れません。
このように当初想定していた強みではない「別の強み」によって成果があがることは、往々にしてあります。

私は、このような3つの理由からフィードバック分析で「強み」を見つけ出す限界を感じています。

 

もしかしたら、ドラッカー氏の真意を私自身が咀嚼(そしゃく)できていないかも知れません。
それでも、「強み」を正しく知るには、自己分析ではなく、他者による分析の方が正しいアプローチが可能だと信じています。

 

なぜなら、すべての評価は自分ではなく、他者が行うためです。
商品を買う、買わないの最終判断をするのは、すべてお客様です。

いくら「強み」があると自分(自社)では思い込んでいても、他者が受け入れてくれなければ、売上にはつながりません。

 

「強み」とは、お客様が当社を選んでくれる「理由」です。

 

だから、本来ならお客様に聞くのが一番かも知れません。
過去のことは聞いて良いと思います。

「当社を選んで良かったと思う理由を教えてください…」と。
それが今の(過去の)強みにつながっているハズです。

 

ただ、このステージにおける「強み」を発見できても、将来における「強み」とは”そのまま”リンクしないことが多いものです。

なぜなら強みの源泉というのは、「結果を導き出した自社の何気ない行動習慣・文化や商品に組み込まれた機能・性能をつくり出した思考回路」だからです。

この強みの源泉を抽出しないことには、横展開できません。

厄介なのは、何気ない行動や文化、思考回路ほど、自分で見えにくいことです。

だからこそ…冒頭にも言いました通り、自社の強みを映し出す「鏡(第三者)」が必要なのです。

御社では、自社の強みを客観的に見られる「良識と責任感のある第三者」を身近においていますか?