とことん「本質追求」コラム第175話 ある会社の新商品が売れなかった本当の理由。

「営業マンが本気になって新商品を売ってくれないのです…どうしたら良いでしょうか?」

 

以前、このテーマがキッカケとなり「社運をかけた新商品をぜひ成功させましょう!」とプロジェクトを組んだことがあります。

 

結論から言うと、ここにきてようやく狙いとおりの成果を収めることができましたが、振り返ると社長さんの洞察力が優れていたことに気づかされました。

 

新商品が思うように売れないとき原因は、「商品力」か「営業力」のどちらしかありません。

 

その真意を探る行為は、当事者には中々深掘りしにくいものなのですが、当初から社長は営業が売ってくれないことに真意があると踏んでいました。

商品力がない場合、そこには目を向けず営業マンのせいすることはよくあります。

原因分析が的を外しているので、営業マンに売ってもらうように努力をしたところで空回りに終わります。

 

しかし、同社のケースでは「顧客から見た時のベネフィット」「間接・直接競合状態」「同社の技術力(強み)」「時代性」から見た市場性は充分にイケると想定できていました。

 

実際、数件の販売実績はありましたが、顧客からの評価は上々。あとは如何に拡販していくか…が課題となっていたのです。

 

つまり、商品が売れない!という状況ではなく、営業の皆さんが積極的に売っていなかっただけなのです。

なぜ、営業の皆さんは、新商品を売ろうとしないのでしょうか?

 

決して、社長の方針に対して反対していたわけではありません。

 

そうではなく、営業マンの皆さんは、社長の期待には応えたい!という気持ちは持っているものの、社長の方針そのものに対する理解が浅く、勝手な解釈がなされていたのです。

 

「どうして、今更こんな安い価格の商品を売らなくてはいけないのか…」

「売上もかさばらないから、新商品を売ろうとすると予算達成も危うくなる…」

そもそも

「新商品を売ったら、これまでの主力商品を買う必要性が薄れるんじゃないか?」

 

この疑問が営業の皆さんの行動にブレーキをかけていたのです。

 

プロジェクトが開始する前も、議論はされていたそうですが、だれもが本質的な原因に切り込まずにいました。

 

「まぁ予算が達成できているから良いよね」

「今期も前年対比で120%以上いっているから良いよね」

と新商品を売る本質的な意義を現場では見いだせていなかったのです

 

なので、社長がなぜ新商品を打ち出そうとしたのか…誰も真剣に向き合っていなかったのです。

 

そこで、プロジェクトチームを組んだとき、まず社長に「なぜ、この新商品を売ろうと思ったのか?」 そう思った背景そして新商品を拡販すべく真の狙いを語ってもらいました。

 

社員と社長の目線は全く違うので、ある状態に置けるモノゴトの受け止め方は、180℃違ったものになってしまう可能性があります。

 

財務基盤も固く、一見すると業績も好調。

営業現場でもお客様からの指示は厚く主力製品の引き合いは順調。

営業マンとしては、何も焦らなくても良いのではないか?と思ってしまうのはアタリマエのことかも知れません。

 

しかし社長の目線は違います。

新規獲得件数は、ここ数年あがっておらず営業自らが努力して開拓してきた新規はほぼゼロの状態。

新規は、ホームページから引き合いで、ポロポロと数字が上がっている程度です。

 

既存顧客の売上は、上がっていました。

でも、件数があがるはずはないので、受注数量があがっているだけ。

単価は低下基調にあるもののほぼ横ばいという状況です。

ちなみに、販売数量があがっている理由も、掘り下げてみたところ、競合他社が倒産したために、2社から購入していたお客様が同社1社に集中してきたためでした。

 

つまり、同社が仕掛けた行動によって売上が上がっていたのではなく、外部環境の変化でたまたま売上が上がっていたに過ぎなかったのです。

 

もし、ホームページからの集客状況に異変が起きてしまったら…。

競合他社が倒産したのを見て、他の競合他社が攻勢をかけていたら…。

 

コントロールしにくい環境に不安を抱くよりも、コントロールできる環境を自らつくり出さなければなりません。

 

社員は、現状を見て最適化するのが仕事です。

なので、新商品を売ると売上が下がる可能性がある場合は、売らない方がマシ…と捉えるのが正解です。

 

しかし、社長の仕事は「現状を正しく捉えて、10年先、30年先まで会社が勝ち残れるような方向性を打ち出していく」ことです。

 

今の状態が一見良く見えたとしても、足元の状態が弱ければ、足場を固めることを優先させなければなりません。

 

足元が弱い状態で、厳しい環境変化にさらされたら、それこそ危機的状態に突き落とされるのですから…。

 

プロジェクト開始によって、これらの目線の擦り合わせをして、営業の皆さんにも「状況を正しく理解してもらい、打つべき施策の重要性」を認識してもらいました。

 

すると、これまで噛み合って動かなかった歯車が、少しずつ噛み合い、一人、また一人と営業マンが新商品をパラパラと売ってくるようになったのです。

 

しかも、すべて新規顧客の開拓で…です。

 

売れてきた営業マンに話を聞くと、新商品のチラシをパワーポイントで作り、営業のついでにポスティングしていたそうです。

 

「近所を回っていますので、こちらまで電話ください」と携帯に誘導して、低価格商品をフロント商品として売っていたのです。

 

まさに社長が狙っていた通りの「売れ方」です。

 

そこで、新規開拓こそが企業を活性化させる!という空気をつくり出すために

予算とは別に「新規開拓」10ポイント。「既存客の追加販売」を2ポイントとして、月間50ポイントを目標値に掲げました。

 

そして、ポイント獲得達成時には、各営業マンの受注額に対して、20%増額計算を加えて、新規獲得を会社は重要視している…という印象を明確に示していったのです。

 

会社としてのチラシ作成や、ホームページのリニューアルなど、営業後方支援活動も同時に仕掛けていますが、それも相まって月を追うごとに新規開拓件数は伸びていっています。

 

しかも最初に懸念していた仕事の時間が新規に取られることに伴う「売上減」は、まったく見られません。

 

 

現場は、保守的に動く傾向が強いので、余計な心配が生まれがちです。

「下手の考え休むに似たり」という諺(ことわざ)がある通り、保守的な思考が走り始めている…と経営者が感じたら、まずはヘタな考えを止めさせなくてはなりません。

 

そうでないと、行動が止まったままになってしまいます。

 

何かの方針(新商品発表など)を打ち出すときは、「なぜそれをやるのか?」という意義をセットで現場に説明する必要があります。

 

それくらいわかるだろ…と現場の解釈に任せてしまうと、意義が見いだせずに行動がストップしてしまう恐れがあるからです。

 

御社では、会社方針に対する「意義」「背景」「狙い」など…行動をしなければいけない理由付けを、全社員に伝えていますでしょうか?

 

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